第24話 罪と罰 / 超龍決戦⑥

◇◇◇




 三つ首龍の身体から、十数個の泡が飛び出した。泡は数回の伸縮を繰り返すと、やにわに一つの姿をとった。それは三つ首龍と同等の身体を持つ、龍人ドラゴニュートの姿であった。ザッザッと、彼らが土を蹴り、こちらに向かって歩み出した。




◇◇◇




 食事会の日以降、少年が彼らを目にする機会はますます減った。少年が徹底的に彼らを避けたからだ。

 それでも街で偶然彼らを見かけることはあったし、新たな《新造最難関迷宮》に挑戦する際は、勇者一行についてくるか否かの確認をしたし、彼らが来る意思を見せた際は、仕方なく彼らと顔を合わせることになった。


 少年は勇者一行と顔を合わせ、接触する度に、己の心が冷えていく感覚を覚えた。




◇◇◇




 その日は昼下がりに街に出た。

 人の流れが緩やかになる、昼下がりであった。彼は敢えてランチの時間を避けたのだ。

 しかし何の因果か、少年の視線の先には勇者達三人がいた。彼らは少年に気づいていない。いや、気付いたとしても同じか。


 いつも、どうして、こんな───


 そのとき彼らに対し抱いた感情は、少しの羨望と寂寥感、怒りと悲しみ───そして強烈な無力感であった。




◇◇◇



 またある日、偶然三人を見かけた。

 彼の感情には、もはや諦念の色が滲んでいた。



◇◇◇



 彼の諦念は徐々に大きいものとなった。



◇◇◇




 三人の姿を見て、声を聞く度に、少年の心の内で何かが育ち、何かが擦り減った。

 そしてある日、意図せずに見てしまった彼ら三人へと向けられた感情は、完全なる諦念であった。



◇◇◇



 少年は彼らを諦めたのだ。



◇◇◇



 そして、今、私は───

 彼の、そんな瞳を、もう見たくはなかった。



◇◇◇ 



 彼にそんな顔をさせたのは、他の誰でもない、私だった。



◇◇◇




 取り返しは、つかない。

 私には、どうすれば良いか見当もつかなかった。


 十五体もの液体龍人ドラゴニュートがこちらに向かって走り出した。

 その内十体はオルフェリアへと、そして残り五体は私達三人の方へと襲い掛かった。


「少しくらい離れても《魔力回路パス》は繋いだままでいられるか?」


 イチローに問われた。難しい───とは言えなかった。代わりに言葉少なに「出来るわよ。任せて」と答えた。

 浅ましくも、今さら私は、彼に、かっこいいところを見せたかった。


「プルさんは魔剣の維持を、アンジェリカは《ナルカミ》を切らさないように。あいつらは俺が対処する」

 

 彼は私達にそう告げて、剣を抜いた。しかし彼が液体龍人ドラゴニュートへと駆け出したとき、その魔力量は既に一割を切っていた。

 

 私には既に、このペースでは三つ首龍を《ナルカミ》で削り切ることが不可能であるとわかっていた。


 私はどこまでも自分勝手な人間なのだろう。

 全てを思い出しても、私は彼に償いたいと考えている。それこそが自己中心的な感情であることも理解していた。


 けれど、それでもなお、私は彼に報いたかった。そのためなら、私は、自分の命なんて、少しも惜しくはなかった。


 だから、そのためなら───




○○○




 背後で急激な魔力の高まりが発生した。

 その魔力の動きは、夢でみたプルさんの最後に似ていた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る