第6話 Never Say Die. ⑤
◇◇◇
百人を超える危険因子達の内の三十人という、頭のおかしくなりそうな人数を引き受けたプルミーは、数時間にも渡って、「仲良くしよう!」と真摯に訴えかけた。その結果、彼女の真心は実を結び、見事に彼ら全員の心を開くことに成功した。
問題児達とも仲良くなり、怠慢を働いた者達のお陰で
やっと一息
「あー、またか! 今度はどこだ!!」
バーチャス戦線上層部───スクルドのギルドの一室にプルミー達の声が響いた。
今のバーチャスの戦況は、まさに沈みかけの船であった。
穴が空いた浸水箇所を直しても、すぐに別の箇所に穴が空き、そこを直してもまた別の場所に穴が開く。そうこうしている内に船自体の耐久性は損なわれ、人手も尽きてくる。結果必然的に乗組員一人一人の負担はさらに重いものとなり、精神肉体の双方に多大な負担がかかってしまう。
プルミーはそこまで考えて、かぶりを振った。
こんなことでは駄目だ。
何とかして思考を切り替えろ。
そうだ。これはもう、どうにもならない。
だからまずは、そこを前提にしなければならない。後は、オーミやイチローが《封印迷宮》を滅ぼすことを信じ、それまでにどれだけこの状況を保たせるかが鍵なのだ。
わかってはいる。わかってはいるのだ。
けれど、次から次にもたらされる報告に、焦りの気持ちが生じてしまうのだ。
ならば、今のこの状況で、私にできることは何だ?
苦境も含めて全てを飲み込み、周囲には焦りを見せないことじゃあないのか?
プルミーは自身に言い聞かせると共に、ポケットに手を入れ、
◇◇◇
今回の応援要請には、先日戦力外と看做された問題児達を集めたプルミーのパーティが応じることとなった。
パーティが機能するかの試運転でもあったが、それ以上にプルミーは今回の要請に嫌な予感を覚えたのだった。
万が一その予感が当たり、非常に困難なトラブルが発生したとしても、自分ならば何とか───という感情に加えて、
ならばこそやはり、自分自身が出撃するのが道理であった。
応援要請を出した地域に赴いたプルミーパーティは、リーダーであるプルミーに従って非常にタイトな戦いを強いられた。
こうなると問題は如何にして
プルミーは、すぐさま己の担当するパーティを五つにグループ分けし、元々
その場でプルミーは、これまでに自身で備蓄してきた莫大な数のポーションや魔力回復薬を彼らに配当し、彼らを含め、より効率的に
それは何も難しいことではない。大人数となれば、戦闘中であっても効率的に休めるパーティを作れる。これからの戦闘を考えて、これまでより一層密に連携を取ろうというものであった。
◇◇◇
結論から言えば彼女の提案は受け入れられた。
これによって再び規則的なスケジュールで休むことの出来るパーティができ、これまで以上に効率的に
こう聞けば、それはもう、彼女の『いっそう密に連携をとる』という提案が、素晴らしく的中し、尋常でない成果を上げたのだろうと思うだろうが、真相はまた少し異なる。
実はプルミーの提案は一つではなかった。というよりもむしろ、彼女にとって二つ目の提案こそが本筋であった。
「万が一眠い人がいれば、ヒーラーから覚醒作用のある回復魔法をかけてもらえばいい。睡眠時間のほとんどを削ることができる。怪我したり疲れたのなら、いくらでもポーションを飲めばいい。魔力消費が激しいのなら、魔力ポーションを飲め。もしポーションの不足を気にしているなら、その必要はない。私がバカみたいに持ってきた。いくらでも飲めばいい。遠慮しなくていい。というか飲め。一気飲みしろ。がぶ飲みしろ」
もちろん『そんな提案飲めるか!』と逆らったリーダー達もいたが、すぐさまプルミーさんの再度の切実なる訴えによって、一時間もしない内に、彼女の心の友となったのであった。
◇◇◇
プルミーの作戦は功を奏した。
少しずつではあるが、プルミー達の
そして、翌七日目。
ヤマダ達が《封印迷宮》から脱出した当日のことである。
空が白む頃には、
この調子でいけば夕刻までには、多くの人員をいったん戻し、別の箇所に派遣出来るはずだ、と彼女は考えた。
「プルミー様! 見て下さいましたか!」
クラインが純粋でキラキラしたビーグル犬のような瞳をプルミーへと向けた。もはや別人である。
「おおー、すごいすごい! やればできるじゃないか!」
彼女のお褒めの言葉にクラインが「ああおお」と歓喜の声を上げ、頬を上気させた。
「お姉様! そんな奴より、私の魔法を見て下さい!!」
こちらは、二番目にプルミーのお友達となった貴族女性───シズクであった。彼女もプルミーへとピュアで潤んだ瞳を向けた。こちらももはや別人である。
「見てるさ。さっき使った《
プルミーの称賛に彼女は「うううんッッ」と身体を震わせたのだった。
◇◇◇
その正午のことであった。
予定よりも早く
その場にいる多くの者から緊張が解け、弛緩した空気が流れていた。わいわいがやがやと昼飯や久しぶりのアルコールの話が飛び交っていた。しかしプルミーだけは、異常を感じ取っていたのだ。
「こんなに上手くいくはずが……」
予想を遥かに上回る速度での
少なくともプルミーはそう理解していた。
とそこへ、戸を乱暴に開ける無粋な音が響いた。
「プルミー様ッッ!!」
進行形で戦闘に当たっているパーティの斥候の人物であった。
「ば、化け物が現れましたッッ!! 早くッッ!! 私の仲間を助けてやってください!!」
彼はそう叫ぶと、疲労から膝を着いた。
休ませるべきだったが、彼の証言の場所に最短で辿り着くには、彼を連れて行くのがベストであった。
「余裕のある者は私に続け。それから、君と君は、急いでスクルドへ戻って現状の報告をしろ。それぞれ手分けして、ネリー、オネスト、騎士団、《
そうしてプルミー達は、先述の斥候の者達と共に、化物の元へと急いだ。
◇◇◇
到着したプルミーの見たものは、三本首の龍であった。
結局のところ、誰も知ることはないが、この龍こそが、聖騎士アシュリーの恐怖心の具現であった。まさに彼女が《大物喰いのアシュリー》と呼ばれる切っ掛けとなったモンスター───その超強化版であった。
その身体は濁った液体により構成されており、既に多くの者が魔法を撃ち込むも、到底効いているようには見えなかった。
すると龍の三本の首の各々の口腔が光りだした。そこにとてつもないエネルギーが集中しているのをプルミーは感じた。
大気を震わせる咆哮───それと共に全ての口からエネルギーの塊が光線となって放出された。
その一つは上空を突き破り、一つは彼らの背後の山をぶち抜き、一つは彼女達を飲み込んだ。
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