第10話 救済①(vs《封印迷宮第四階層守護者β》)
◇◇◇
聖女ミカは自問した。
どうしてこのような危機的状況で過去のことを思い出すのか。とそこでまた何かが
───それはフラグだってばよ!
強敵と
やけに騒がしかった彼は誰だったか。
勇者様であったか、それともあるいは───
「この音がどうしたというんだ?」
聖騎士アシュリーの質問がミカの思考を遮った。それに気づかせぬようにミカは手短に答えた。
「この先に存在するのは《刃の迷宮》最奥に存在したボスモンスターです。
その名を《
音は未だ遠く、宝剣はこちらの様子を伺っているのか近づいてくる
一定距離に近づかねば行動を起こさないタイプのモンスターなのか、それともこちらを侮っているのか。
それならばそれで結構。その猶予で対策を練らせてもらう。
聖女ミカは思考を戦闘へと切り替えた。
「接敵するまで余裕がありそうですね。ならば今の内に相手に関する情報の共有して、作戦を立ててしまいましょう」
アンジェリカとアシュリーが頷いた。
「相手モンスターは、通常時では【黄金の宝剣】の姿をしており、浮遊し、斬り掛かってきます。またこの姿のときには、斬り掛かってくるだけでなく、しばらく魔力を溜め込むことで高威力の
「
「高圧縮した光魔法と考えてもらえれば問題はないわ。威力はこれまで私達が戦闘してきた相手の攻撃魔法と比にならないものよ」
ミカの説明にアシュリーがオウム返しで疑問を漏らした。それにアンジェリカが補足した。
言葉を発したアンジェリカにミカは少しだけ安心していた。先程の休憩時に彼女が嗚咽を漏らしていたことにミカも気づいてはいた。大きな失敗をしたからか、死ぬ目にあったからか、正確な理由はわからなかった。けれどどういうわけだが彼女の涙に引きずられるように、ミカ自身も涙を流しそうになったのだった。
「それから、このモンスターは【黄金の宝剣】の姿から、【六枚の刃】へと変形するわ。
アシュリーへと説明を続けるアンジェリカ。
未だに彼女のまぶたは腫れぼったかった。
ミカは憐れに思った。
アンジェリカを……そして自分を───はっとした。どうして私が憐れなのか───?
ミカが自問する前に、さらにアンジェリカが説明を続けた。
「分離した【六枚の刃】状態のコイツは《超加速》するわ。魔法使いの私では、その動きは視認すらできなかった」
「《超加速》───」
アシュリーがアンジェリカの説明を聞き、呟いた。
「そう、《超加速》よ。単なるバフによる速度上昇とはレベル───いえ、世界が違う。速すぎて姿が消えるのよ。まさに言葉通りに、ね。
だからこれからの戦闘で、対処を間違えると私達はあっという間に全滅することになる」
かつて、【六枚の刃】による超高速の斬撃は、ミカやアンジェリカの結界を容易く破壊した。
ならば今回も同じことが起こるのではないか? とはミカは思わなかった。なぜか今ならば、
そしてこれは、アンジェリカにも当てはまるのではないだろうか。
ボルダフに訪れてからのアンジェリカは、
「なら、そのような相手にどうすれば……」
アシュリーは抜け切れぬ疲労で掠れた声で問うた。しばらくの間───それは数十秒ほどであったが───彼女達を沈黙が包んだ。
それを破ったのはアンジェリカであった。
「私に考えがある」
ただし、と彼女は続け、
「上手く行く保証はないわ」
アンジェリカが告げ、二人の表情を伺った。
聖女ミカが、落ちた彼女のトーンを振り払うために声を上げようとしたそのとき、
「賢者アンジェリカ、一体何を迷うことがあるのか。このままならどうせ、死が待っているだけだろう。ならば三人で協力し、今一度この苦境に抗ってみようじゃないか」
アシュリーが精一杯に微笑んでみせた。
まさに彼女が聖女ミカに先んじて、パーティメンバーの手を引いたのだった。
そしてこのときをもって、彼女達による決死のボス討伐戦が決まったのであった。
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本日7/16コミカライズ1巻が発売しました。
コミカライズ版は漫画家の栖ゆち先生によって描かれた、セナとセンセイが登場する美麗なカラー絵で構成された第0話が収録されております。みなさま、よろしくお願いしますー!
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