第8話 Fake loves Fake.

◇◇◇


『そもそもさ、礼儀もない、思いやりもない、思慮深さもない、ないない尽くしの勇者くんに、どこの貴族女性が寄ってくるんだって話だよ』


 確かに。どのような状況になれば彼の様な人間に、一度も十人を超える数の貴族女性が群がるというのか。シエスタはずっと疑問であった。

 

『まあ、それでもぉ、勇者というブランドに目がくらんで、自分から進んで彼に身を捧げたバカが、全くいなかったわけじゃないんだけどね』


「それではやっぱり……?」


 シエスタはこれまでの疑問にようやく合点がいった。


『そうだよー。残念なことに君の予想通り彼女達は僕達・・の仕込みなんだ』 


 良かった。目と思考がアレな女性はいなかったんですね……なんて思うのははしたないかしら。


僕達・・とヒルベルトとで共謀してね、こちらで用意した女性を勇者くんへと紹介していたんだよ』


 シエスタはギルバートのさらなる説明を待った。


『どこから話そうか……うーん、じゃあさ、人間の美醜についてなんだけど』


 彼は一度、グラスを手に取り喉を潤した。


『あまりこういうのは言いたかないんだけどね。人間が綺麗かそうでないかってのは本当にちょっとした違いでさ、目が大きくて、鼻筋が通ってて、それらが顔に適切に配置されていればある程度のレベルにはなるんだよね』


 もちろんある程度のレベルではあるけどね、と付け加え、更に話を続けた。


『これから言うことは悪用されたら一大事だから口外禁止で頼むよ。

 実は、回復魔法の応用で《顔を変える魔法》なんてのがあってね───それをちょいちょいっと使えば、はい美人さん一丁いっちょう上がりぃ! てなもんでさ』


 シエスタは開いた口が塞がらなかった。


『だからまずはヒルベルトには“かなりよろしくない娼館”へと何件も何件も足を運んでもらい、そこで働く彼女達に契約を持ち掛けさせたんだ」


「契約……ですか?」


「そうだね。まず彼女達の身体を無償で回復させる。そして一定期間の衣食住の保証に加えて教育機会と大金を与える。代わりに本人の顔を美しい別人のものへと作り変え、上っ面を誤魔化すために少しばかりの貴族教育を受けてもらい、教育修了後にはある程度の期間勇者くんと夜を共にしてもらう───とまあ、そんな感じの契約さ』


 言い終わると同時に、慌てたように顔の前で手を左右に振り『ちなみにこれは強制ではないから、その辺は見損なわないでくれよ』とギルバートは述べた。


 現代日本であれば人非人にんぴにんの誹りを受けるだろう所業であった。

 勇者とのねやの責に就いた彼女達を思い、シエスタは胸を痛めた。


『そんな顔しないでよ……でもシエスタくんなら、まあ、そういう顔するよね……』

 

 ギルバートの顔にほんの少し影が射したように思えた。


『ただまあ、入れ喰いだったらしいよ』


 影が射したというのは間違いでした。


『そりゃそうだって!

 そのままいたら彼女達の命も危ぶまれただろうし、そこでそのまま働いていたとしたら、何年掛けても稼ぐことができない金額をこんなに短期間で稼げるんだから!

 それに加えて顔も美しくなるというオプション付き! 彼女達もみんな "もう一度人生をやり直せる!" って大喜びだったそうだよ!」


 ギルバートが手を叩いて『いえーい!! やったぜ!!』と喝采をあげた。


「っていうかさ、今回のこの御役目に自分から複数回立候補して勇者君の下におもむいた猛者もさもいるくらいだからさ』


 聖職者にあるまじき所業である。

 けれど、その声音はどこか優しく───


『だからさ、君は胸を痛めることはないんだよ。仕方がないけど、世界ってのはそんなもんなんだ』


 ギルバートは頭を抱えたシエスタに告げたのだった。



◇◇◇



『いやー、楽しかったよ! 本当にやばかったよ! 君にもリアルタイムで味わって欲しかったよ!』


 悔しそうにギルバートが言った。


『 "僕は初めての女性が好きなんだ、今回はみんな未経験の初心なばっかりで最高だったよ" 』


 ギルバートによる勇者のモノマネであった。


『 "やっぱり貴族の女の子はいいよ。彼女達のような純粋な女性だけが、僕のこの高貴な魂を癒やせる" 』


 ギルバートのモノマネは似ても似つかない悪意の籠もった酷い出来であった。


『そこには貴族どころか未経験な娘なんて一人もいないのにねぇ!! あー、おかし!!』


 シエスタはここにきて、ギルバートがいつもの彼とは少し違うように感じた。

 いつもよりどこかはっちゃけてるというか───


 などとシエスタが考えている内に、話はいつの間にか、【女性の初めての証】は何らかのスライムの素材で作った袋に針を指に刺して採取した血液を容れて(以下略)といったものや、『彼の○○○も乾く暇もなかったんじゃないかな(笑)』といったデリカシーの欠片もないものとなっていた。


 山田がこの場にいたら、背後に『ドン!!』といった擬音を飛ばしながら「ギルバート!! お前もう教会降りろ!!」と宣ったはずであった。



◇◇◇


 

 ギルバートのさらなるネタバレによると、もう当然のことながら、お取り寄せした食材と、宛てがわれた女性だけでなく、彼の購入した多種多様な装飾品や宝石類のおよそほとんどがフェイクであった。


 さらに宝石類にいたっては土魔法で土に鉱石を混ぜて固めた宝石ですらない紛い物であった。


『偽物が偽物を愛でるだなんて、実に滑稽で皮肉が効いていると思わないかい?』


 ギルバートはそう嗤った。





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