第7話 the point of no return
○○○
「本件に関して話すべきなんだろうが……ちょっと気になったことがある。何だかイチローくん、しばらく見ない内に立派になったね」
「鍛えてますからね」
俺が力こぶを見せると、プルミーさんが「なんだいそれ」と吹き出した。
「いやいや、本当なんですって……センセイのシゴキなんてもう……」
修行の日々が脳内を駆け巡る。
控え目に言っても地獄であった。
「センセイ……ああ、オーミ様ね。なるほど。彼女に鍛えてもらってるなら納得だね」
実際鬼コーチはセンセイだけではない。
俺の脳内のセナが無表情でピースサインを決めていた。
「君を初めて見たときは、本当に大丈夫かなって思ったもんさ。それが今やこんなにも頼もしくなるだなんて」
これが俺達二人の思い出話の呼び水となった。思い出話をするという行為は、お互いの共通する記憶を確認し合う作業だと聞いたことがあった。俺たち人間ってやつは、そうやって共通の記憶を手探り、あの日々に想いを馳せ、あの日々に帰るのだ。
あのときは、私も笑っちゃってさ。いやいや、笑ってるなら助けてくれても良かったんじゃないですか? 助けようと思ったさ、だけどね───
俺達は
俺とプルミーさんの話は《光の迷宮》攻略した時期からこれまでに、何があったのかというところに及んだ。互いに共通の情報を持つためにも、事実を知るためにも必要なことだった。
話の中にはもちろん、
どうしても避けようもなく、話がアンジェリカのことになると、プルミーさんがほろりほろり涙を流した。
「本当にすまなかった、イチローくん……」
望まぬ謝罪だった。
プルミーさんは何も悪くないのだから。
「やめてください。プルミーさんのせいではありません」
何も悪いことをしていない彼女がどうしてこんなにも苦しい思いをしないといけないのか。俺はやるせなさでいっぱいだった。
俺が七つの迷宮を踏破し、隠れ山にて隠遁していた話を終えると、プルミーさんも自身の身に何が起こったのか説明してくれた。
彼女が己の記憶に違和感を覚えたのは、ちょうど俺が《刃の迷宮》をクリアし、パーティから抜けた時期だそうだ。その後に自分が二通りの記憶を保持しているだけでなく、彼女以外の全ての人間の記憶が《全ての功績は竜宮院である》という偽の記憶にすり替わっていることに気付いたのだった。
彼女があのフットワークの軽い宰相に、俺にした質問と同様の質問をしたというエピソードは涙無しには聞けないものであった。
そうしたエピソードのみならず、彼女が徐々に精神的に追い詰められていく過程は、聞いているだけで胸が苦しくなるものであった。
「いったい何が起きたのか、イチローくんには心当たりはあるかい?」
プルミーさんが俺へと問い掛けた。
当然であるが、俺が《刃の迷宮》を攻略した時期に、何らかの力が働いたとしか考えられない。
そして心当たりなぞ一つしかない。
俺に尋ねたプルミーさんも、間違いなく
「これはもう、竜宮院が何かをした───ということ以外考えられませんよね」
俺は、そう答えたのだった。
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