第7話 Up Down

○○○



 次は全体的な話ではなく、実地的な話だ。

 俺達は各々の地域で偏りなく、小屋を建ててそれらを拠点としつつ、ローテーションを組んで、フォグの退治をする。

 それぞれのパーティには気配察知能力が高い人材を必ず一人は組み込む。

 これらが基本的な作戦として決定された。


 さらにそこから、議論はダレることなく進み、それなりに喧喧囂囂としたものとなった。場にいるのは皆が皆、百戦錬磨の猛者達である。当たり前と言えば当たり前か、お互いに遠慮なく踏み込んだ議論を展開し、パーティの編成まで何とか決められたのだった。



 会議が一段落いちだんらくついて、俺は一息いた。

 思い返せばこの会議中だけで色々なことがあった。

 真っ先に思い出されるのはアノンのことだ。

 彼は何故か「そうだろロウ? キミもそう思うだろ?」「ロウはどう思う?」などと何度となく俺に話を振ってきた。その都度俺は無い知恵を絞り出して苦慮しながらも何とか返答したのだった。

 イジメかな?


 次はアシュだ。

 俺が《封印迷宮》攻略メンバーに決まったとき、アシュは「私も《封印迷宮》の踏破に向かおう。ロウくんは私が護る」などとやけにキリッとした顔を俺に向け、目が合うと熱でもあるのか顔を赤くしてバッと目を反らしたりと、よく分からない反応を頂いた。セリフはありがたいものの、露骨に目を逸らされたら俺は傷つくのだ……。


 サガがもサガである。

 俺が彼らの対応に困ってるのを傍目に「これだから女はヨォ、なぁ?」「女には男の美学が理解出来ねェ。そうだろォ? ロウよ」などといった女性を前にして、頷きたくない数多くの項目に同意を求めてきた。「そうだよ(便乗)」なんて答えられるわけないだろ! いい加減にしろ!


 そうした中、彼らに話し合いを任せ、ふと俺の隣(サガの逆隣)に座るセンセイに目を向けた。すると彼女と目があった。彼女の口が『ω』になっていた。これはすこぶる機嫌が良いときのセンセイであった。


 俺が「センセイ、上機嫌じゃないですか。どうしたんですか?」と尋ねると、


 センセイは「我は、騒がしいのが好きじゃからな」と答えくふふと妖しく笑みを浮かべた。


「とまあ、ムコ殿よ。あやつらの空気に当てられたのか、少しマシな顔つきに戻ったの」


「そんな酷い顔をしてましたか?」


「浮かない顔をしとったよ。話し合いを進めてく内にマシになったけどのう」


 センセイにはいらぬ心配を掛けてしまったようだ。

 今度何か労ってあげよう(食事)




 そうこうしている内に会議は宴もたけなわとなり終わりを迎えようとしていた。

 そのときふと、アノンが俺へと顔を向けた。


「そう言えば───なんだけど」


 一瞬間が空いた。

 言うべきタイミングを伺っていたのか。

 だからかエアポケットが生じ、場が静まり返った。

 

「あんだよ?」


 場の視線が俺とアノンに向けられた。


「ロウを中心としたパーティの他に、《封印迷宮》の内部を探索すると大々的に名乗ったとされるパーティがいてね」


「ほぇ?」


 間の抜けた声が出た。

 一瞬思考が停止したが、アノンの態度が、アノンの言葉が、頭の中で急激に意味を持ったものになっていく。


 ちょっと待ってくれ。

 これって───

 やべーよ! やべーよ!


 何か嫌な予感がするんだぜ!

 えてしてこういうとき俺の勘は───


「勇者パーティだよ」


 俺の勘は当たるんだよなぁ(震え声)



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