第2話 鶴の恩返し
○○○
「ロウ、オーミさん、この先の部屋だ」
アノンの先導の元、俺とセンセイは奥の部屋へと通された。この先にある《連絡の宝珠》の相手として《
ちなみに兄のクロエはアノンから頼まれて、今回の戦いに参戦してくれるパーティを招聘するのにてんやわんわやしているのだそうな。
「我もいくのか? 感謝の気持ちならもう十分じゃ。前にクロエから貰ろうたからの」
先に目覚めたクロエとセンセイが何を話したのかちょっと想像がつかない。
「何を言ってるんだい。クロエとクロアは別人。それぞれが感謝を伝えたいと言ってるんだ。何を躊躇うことがある」
「んー、なんかこそばゆいのう」
全くの同感であった。
いつも飄々としているセンセイが少し照れくさそうにしているのが新鮮であった。
「お礼を言いたいだけでなく、クロアの方からこれからのことについて大事な話があるそうでね。問題を共有するという意味でもワタシ達三人が必要なのさ」
「わかったよ。待たせてるんだろ?」
俺が尋ねると、アノンは頷き「一緒に入るよ」と部屋に入ったのだった。
○○○
用意された椅子に腰掛けると、ヴヴンと少し離れた所に立体映像が浮かび上がった。
難しい話はわからないがどうも《連絡の宝珠》に最新式の映像魔導機を合わせることで遠くにいる人の姿と音声を届けることが可能となるそうだ。
ということは、《連絡の宝珠》は《
アシュ、「すっごい希少なアイテムなんだ」って、「王様から下賜されたんだ」ってあんなに喜んでたのに……と心の中で涙を拭いていると、映像の向こうからバタバタバタと何やら少し騒がしい音がし、しばし遅れて一人の少年が姿を現した。
「ごめんなさい。少し席を外してました……、えと、僕の名前はクロア・テゾーロです」
彼は額に一筋の汗を流し、髪を恥ずかしそうに何度も何度も撫でた。
「おう、俺は、ヤンマー・D・ロウ。ロウって呼んでくれな」
「我はオーミ。クロアよ、顔色良くなっておるな」
クロアの登場から、こうして俺達は簡単に自己紹介を果たしたのだった。
彼は、映像の向こうで少し
「一刻も早く感謝を伝えたくて、アノンさんに頼んで貴方達を呼んでもらいました」
クロアは深く頭を下げた。
「この度は私クロアとクロエを助けてくださってありがとうございました。この御恩は一生忘れません」
意識朦朧とした状態で俺達を手伝うように兄へと懇願したクロア───その時と同様に彼の言葉から感じたのは嘘偽りのない真摯な響きだった。
俺は自分のしたことを、大したことはしていないとは思わない。
センセイは教会のトップクラスの使い手である枢機卿でも果たせなかった解呪を成功させ、俺は使用回数に限度があるレアアイテムを使ったのだ。
けれどそれは俺もセンセイも織り込み済みであった。もし彼らに今回の件に手を貸してもらうという約束がなかったとしても、一人の少年と彼の兄のこれからの人生の手助けができたのだと思えば安いものである。
「『感謝を伝えるために呼んだ』というのは何だか変な感じがしますね。逆に礼を失してないか不安なのですが……。貴方達と直接お会いしたときにもう一度丁重にお礼をしたいと思います」
そう言って彼は苦笑して頬を指で掻いた。
改めて見ても、クロアという少年は線が細過ぎた。
サガの息子であるミロも華奢ではあるが、あれは体操選手やムエタイ選手なんかのそれの極致であり、彼の肉体は高密度の筋肉で構成されているのだ。
それに比べると、クロアは肉付きどころか骨格までもが十代前半の少女のようであった。
けれど、だからといって彼が弱々しいとは全く思わなかった。
それどころか、一目で感じる彼の持つ穏やかで知的な雰囲気の根底にあるのは、病に
「貴方達に、どうすれば僕からお返しできるか───僕の持ち得るものの中で何が一番価値があるのかを考えました」
「おいおい、別に構わねぇよ。クロアの気持ちだけで十分さ」
俺の言葉は本心だ。
何度も言ったが何もいらない。
金はあるし、欲しい物があれば買えばいい。
クロアの申し出に困った俺はセンセイの方へ顔を向けた。
「ムコ殿と同じく。
「ちょっ、ちょっと、そこは受け取ってくださらないと───」とクロアがおたおたとし始めた。
アノンは見かねたのか、俺とセンセイを一瞥し「まったく」と溜め息を
「キミ達は揃いも揃ってお人好しだね。そして
「確かに」
「まあそうじゃの。けど
今度は俺とセンセイが「はあー」と一度長い溜め息を
「わかったよ。クロア、君の気持ちを受け取ろうと思う」
俺は、そう答えたのだった。
○○○
「僕は、ずっと病で臥せってました。けど体調の良い日もあって、クランのために特別なポーションなんかを量産したり、這うような進展だけど、色々な魔導機の研究や開発なんかにも取り組んでいました」
映像の中では、クロアがうんしょうんしょと何らかの大きな機械のような物を引きずっていた。
アノンがクロアに関して説明をしてくれた。
クロアは名の通った錬金術師であると同時に、この国有数の魔法研究者であり、なおかつ発明家でもあるのだそうだ。
「中でも、最近になってようやく完成した魔導機があって」
魔導機というのは魔力を用いることで起動する、機械的な構造と魔術的な構造の両方が含まれている機器のことだ。
クロアが機器の全てをやっとこさ映像の前へと運び終えた。
「それが、これです」
映像には人一人がようやく乗れるような台座のようなものがあった。そいつにさらに色々な魔石や機械とが繋がれており、魔法と機械の技術的な融合を感じさせた。
「これは何なんだい?」
待ち切れなかったのか、アノンが尋ねた。
クロアは額の汗を「ふー」っと手の甲で拭い、俺達に視線を戻して答えた。
「これこそが《瞬間転移機器》のプロトタイプです」
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