第5話 言の葉を重ねるが如く①

○○○



 アシュリーの部屋に集まっていた。

 そこにいたのは俺、センセイ、アノンにアシュリー、それからユストゥス氏であった。


 このメンバーになぜユストゥス氏が混じっているのかをまずは説明したい。


 模擬戦を終え、アシュリーを背負って帰宅した俺を目にするや顔面蒼白となったユストゥス氏。彼はアシュリーがダウンした原因が俺だと聞くと顔を真っ赤にして怒り狂った。

 彼の烈火のごとき怒りの前に、俺は彼とアシュリーに数え切れない程の謝罪を重ねることとなった。

 その後も、アシュリーの部屋に集まると決まったとき─────

 

「貴方がお嬢様の近くにいるだなんて、本来なら許されないことですが……状況が状況ですから、仕方ありません。ただし、貴方がお嬢様を害さないかどうか、私が貴方を監視します」


 一体俺を何だと思ってるんだ。


「よろしいですね?」


「よろしいです……」


 そういうことになったのだった。


○○◯


 センセイがベッドの上のアシュリーに微笑みかけた。


「安心せい。封印が解けてすぐさまどうこうなるわけではない」


 アシュリーはセンセイに回復を施してもらったという。

 未だにベッドの上ではあるが彼女の顔色は目を覚ましたばかりのときと比べて明らかに良くなっていた。

 彼女のストロベリーブロンドまでもが先ほどと比べて艶々としているように思われた。


「よう、頑張ったの。主が普段から魔を封じるスキルに心血注いでいたからこそ、封印が解けたと同時に迷宮が姿を現したりするような非常事態にはならんかった」


 当たり前です、と言わんばかりになぜかユストゥス氏が胸を張った。


「オーミさん、ありがとう。けど私は師より引き継いだ聖騎士としての使命をまっとうしてきたに過ぎない」


「それが中々出来ないんじゃがな」


 まあよい、とセンセイは一息吐いた。


「オーミ、アナタはどうしてそんなに詳しいんだい? そもそも封印に関しては一部の者にしか知られていないトップシークレットなはずだ」


 質問したのはアノンだった。

 彼の質問に関しては俺も気になっていたところだ。


「我がどうして封印に関して詳しいか───別に隠してはおらんが、それを今から話したところで詮無きことじゃ」


 センセイがアノンのみならず俺とアシュリーにも言い聞かせるように言った。


「そんな話をするより、今の現状とそれを踏まえてこれからどうするかを話し合う方がよほど建設的じゃろう」


 確かにその通りなんだけど、なんかはぐらかされてる感があるんだよなぁ。


「なんじゃ、ムコ殿。何か言いたいことありそうな顔しとるけど?」


「ムコ殿?」


 反応したのはアシュリーだった。


「ロウくんは結婚してるのか?」


 アシュリーは「いや、別に他意はないんだよ」と顔の前で何度もぱたぱたと手を振った。


「そうだよ、ロウ。ワタシもその件については詳しく聞きたかったんだ」


 アノンの声には好奇心の色ががっつりと見えた。説明しないことには、話が先へ進まない気がする。


 そういうわけで俺は「結婚はしていないが、これからも一緒に生きていきたい人がいる」と説明した。話を聞けて満足したからかやっとこさアノンやアシュリーの追及が鳴りを潜めたのだった。


「ふむ、別に───だね」


 よくは聞き取れなかったがアノンが何かを呟いた。アシュリーに至っては、


「その年で驚いたよ。いいね、そんな風にはっきりと言えるだなんて。もし良かったら馴れ初めや、その娘の話をしてくれないか?」


 などと目をキラキラさせて俺に話をせがんだ。これ完全に少女マンガ読んでるときの俺の妹と同じだわ。

 中学生の妹と並べるのは失礼かもしれないが、その姿はどう見ても恋バナ好き系女子だった。


「また今度な、落ち着いたらなんだって話すから」


 アシュリーが「うん。わかった。これが終わってからの楽しみにしておく」と答えた。


 そうだ。俺達にはこの件が済めばたっぷりと時間があるのだ。彼女達と恋バナするためにも気合いを入れてこの件に取り組まないといけない。俺は固く決意するのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る