第8話 聖騎士 vs 聖女&剣聖&魔法使い①
○○○
「《
聖女を名乗る女性──ミカの発言にアシュリーは問い返した。
「そうです。剣というのはそれを上手く扱える人が持ってこそ本来の役割を十全に果たせるのではないでしょうか」
アシュリーにとってミカの発言は到底看過出来るものではなかった。
「……君が本当に聖女なら、アルカナの封印についても知っているはずだ」
アルカナの封印──それこそが王国に存在する聖騎士が代々守護し、封印し続けてきた、おぞましくも恐ろしい何かだった。
「ええ。封印については仔細把握しております」
何をさも当たり前のことを、とばかりに淡々と返答を返す聖女にアシュリーは憤りを覚えた。
「ならなぜだ! この封印は決して解いてよいものではない! はるか昔よりアルカナに住まう三人の聖騎士と《神話級武具》の双方の力を以てこれまで何とか封印し続けてきた!」
アシュリーは聖女の得体の知れなさに不安を覚えた。
けれどそれ以上に封印を護るという使命に殉じた歴代の聖騎士への思いが大きかった。それゆえに───
「その努力を無に帰し、闇を解き放ちアルカナ王国を滅ぼすつもりか!」
冷静沈着を常とするアシュリーは意識せずに声を荒げた。
「本来なら貴女との問答は必要ないのですが、いいでしょう」
ミカが人差し指を立てた。
「その封印を解いた後───が問題なのでしたらそれは貴女の杞憂に過ぎません」
「杞憂だと!?」
ええ、と頷きクスリと笑った。
「そもそも封印が何を押し込めているのか───それはSクラスを超えるとも言われている迷宮」
知っているということは目の前の女はやはり本物の聖女なのか、とアシュリーは心の中で毒づいた。
「───それも、鑑定した人物が発狂し精神がズタズタにされてしまったほどに禍々しい迷宮です」
「そうだ! この世界の最高戦力を投入しても踏破は不可能だった迷宮だ!」
幼少より、封印されし迷宮がアルカナ王国にどれだけの被害を与えたか、どれだけ邪悪な迷宮であったかを常々聞かされて育ったアシュリーには、聖女の行いは正気の沙汰とは思えなかった。
受け継がれてきた話によると、現在封印を施された迷宮は、当時アルカナの副首都とされた街に現れた。
その迷宮は悪辣な難易度によって踏破が不可能だったのみならず、絶えることなく
それらは迷宮の外へと、人里へと、街へと送り込まれ、迷宮の悪意によってその全てがアンデッドで埋め尽くされた。
当時の賢者の言に従い、三つの《
失われたものはあまりにも大きく、賢者によって封印の法が示されていなければ、アルカナ王国そのものが歴史から消え失せていたのではないかとも言われている。
教会の最高権力者の一人である聖女なら、封印されし迷宮の邪悪さを知っているはずだった。
ならどうして封印を解くなどといった愚行を働くのか。
「最高戦力を投入しても踏破出来なかった迷宮と仰られましたが、それは当時の話です。今世の最高戦力である、勇者リューグーイン様と
アシュリーの疑問はすぐに解消された。
けれど彼女は呆気にとられ声を失った。
「《
聖女とはこのような人物だったのか?
少なくとも、噂に聞く聖女はこのような向こう見ずなことをする人物ではなかった。
いつも耳にする彼女に関する話は、彼女が人を助けたというものだった。
結界で村を守った。
回復魔法で手足を失った兵士を救った。
難病を患った子供を治療した。
飢えた難民のために私財を払って炊き出しを行った。
そして命を掛けて世界を救うために危険な迷宮を踏破した。
アシュリーの中にある聖女ミカのイメージと、今現在目の前にいる聖女ミカがどうしても結び付かなかった。
本当の聖女ミカならば、どれだけ自信があろうとも、封印されし迷宮を踏破出来るなどとこんなにも簡単には口にしないように思えた。
それに失敗したときのことを考えるだけの思慮もあるはずだった。
「さあ、早くその剣をこちらに渡してください」
これは聖騎士としての、いや、アシュリーの直感であった。
「断るッ!」
彼女達に《
「断る──ということは、国と教会の命に逆らう、ということでよろしいですか?」
国と教会の命───それが真実であろうがなかろうがアシュリーには関係なかった。己の果たすべき使命は、国や教会の政治のためではない。全てはそこで住み、生を営む民のためのものだ。
「構わない! 私は全ての生命のために、
聖女はアシュリーの声明に顔色一つ変えず、
「わかりました」
と呟き、
「こうなると思ってました。力尽くは好みではないのですが、この世界のためです」
「何をッ!」
「エリスさん、殺さないようにお願いします」
剣聖と呼ばれた少女がアシュリーに向かって飛び出した。
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