第2章 ポケットの中の願い
第1話 孤独の山田
○○○○
勇者パーティーと呼ばれる竜宮院を中心としたメンバーから離脱した俺。
その直後から話を続けたい。
○○○○
といっても話を続けたいもクソもなかった。
俺はもう女性を信じられなくなっていたし、信じようとも思ってなかった。
そもそもこの世の中の人間はほぼ50%が女性なのだ。
俺の脳破壊(トラウマ)の元凶があちらにもこちらにもそちらにもたくさんおりやがるのだ。
考えるだけで頭がおかしくなりそうだった。
俺の心の中の銭形警部が「山田のsan値を盗んだのは誰だ!」と勇ましくも吠えていたが、真実、世界の人口半分がルパンであり、俺の心の中の銭形警部も手錠をからんからんと地に落として顔面ブルーレイになるレベルの事態だった。
けれどあれもこれも全ては俺のせいだったのだろうとも思う。
『あれ?こいつ俺のこと好きなんじゃね?』って勘違いしたことがそもそも間違いだったし、『あれ?これもしかして両思い?』だなんて早とちりしたことが愚かな過ちだったのだ。
何々? ふんふん。
俺が彼女達を好きだったと素直に認めたことが意外だって?
そりゃそうだろ。
元々その辺の一般的恋愛偏差値40くらいの高校生だった俺だ。
風が吹けば桶屋のことを好きになったり、覆水盆を好きになるくらいには恋愛耐性のない可哀想な男子生徒だった。
プリントを渡されるときに指が触れ合うだけで、心臓が何か変な感じの不整脈になったり、女子から笑いかけられるだけで「山田、お前シャトルランでもしてきたの?」って聞かれるくらいには脈拍と呼吸がエライことになったりもした。
そんな感じだから、クラスのみんなにも配ってる義理チョコもらっただけで「あいつ俺のこと好きなんかな?(ニチャア)」とやべー自意識を働かせたり、隣の席だから仕方なく教科書を見せてくれてる女子に「これ、もしかして俺に気があるんじゃ……」と授業内容そっちのけでこれから始まる主人公俺のラブコメ妄想に没頭するくらいには、可哀想な奴ではあった。
そのような恋愛耐性スキルゼロの残念野郎の俺が、長い間背中を預けて寝食を共にした彼女達のことを好きになったとしても、不思議なことは一つもなかった。
だから勘違いで人を好きになるなどといった同じ轍を踏まぬためにも、人口の半分との接触を避けないといけない、引いてはこの社会から逃げなければならない───などという荒唐無稽な思考に俺の脳は侵されてしまっていた。
ゆえに俺にとって、"俺の生きる道"は必然的に一つしか残されてはいなかった。
残った最後の選択肢。
それこそが世の営みから離れた場所での完全なる隠遁生活であった。
○○○
興奮と怒りが収まってくるとひょっこりと顔を出したのは恐怖や未練などといった負の感情であった。
そいつは一度顔を出すと、我が物顔で俺の心の中心に
「やべぇよ! やべぇよ! やっちまったよ! やっちまったよ!」などと叫びながら俺は夜の闇を駆けた。
そもそも喧嘩すらロクにしたことのなかった高校生だ。いくら召喚され以降はずっとバケモノと戦ってきたといっても、それは所詮は対バケモノでの話であって、対人間に関しては全くの別物であった。
だから、同郷の人間を首チョンパするなどといった野蛮な行為は、俺の心にも相当の負荷を与えていたのだった。
「やべぇよ!」
壊れた映像機よろしく、連呼する俺の脳裏には、転がる竜宮院の首、震えるミカ、呆然としたアンジェの表情、真っ青な顔で涙を流したエリスの様子がエンドレスリピートでフラッシュバックし続けていた。
「やべぇよ! やべぇよ! どこかに消えなきゃ!
でも!! でもよ!! どこに行けばいいんだよッッ!!」
そのときに俺を突き動かしたのは、ここではないどこか遠いところに行かなければならないという強迫観念にも似た感情であった。
何かに駆られたように、目的地もわからぬまま、飲まず食わずでアホみたいに一休みもすることなく、疲労も忘れて不眠不休で長い間走り続けた俺はやがて、とある山に辿り着いたのだった。
○○○
アルカナ王国の最南端に位置するハーミットマウンテン。
通称を《隠れ山》という。
地元の人間ですら誰ももう長い間足を踏み入れることのないほどの危険な場所であった。
名前も、その山へと勇んで足を踏み入れた者は誰一人として戻って来なかった───つまりお隠れになった───という出来事に由来にしている。
もちろん俺は名前どころか、その山の危険性を一つも知らずに足を踏み入れていた。
これはとんでもない話で、山を舐めてるどころではなかった。
水源の確保だとか、食事だとか、寒さや疲労はどうするのだとか、生命を維持するためのあれやそれやが頭からイッサイガッサイ抜けていたのだ。
最難関と言われる迷宮を長い時間かけて踏破したことはもちろん、ダンジョン内での極端な気温などの過酷な環境や、びゅんびゅん襲いかかってくる罠に比べれば大したことはないだろうという考えが頭のどこかにあったことは否めない。
やっぱりというか、当然ながらそれは大きな間違いだった。
何だかんだ言っても、一層降りるごとに帰還出来たダンジョンと異なり、その山のスケールは余りにも壮大過ぎた。にも関わらず奥に入り込み過ぎた俺は方角も現在地も何もかもがわからなくなっていた。
俺はそこに至ってようやく、入ったはいいが山から脱出するのは、中々に骨の折れることなのだとようやく気付いたのだ。
○○○
「ええいままよ!」
とか、
「ワンチャンいける!」
とか、
「南無三!」
などのセリフはほぼ100%死亡フラグである。
こんなセリフをのたまう
現代日本を見てみても、「ワンチャンいける!」などとのたまう大学生は大体留年するか、スロットや麻雀なんかのギャンブルで生活費を溶かすのだ。
それに「ええいままよ!」などと軽はずみな発言をするキャラはやっぱりメガバズーカランチャーをはずすだろうし、もちろん「南無三」などと口走ろうものなら通常上手くいくだろうことも失敗に終わってしまうこと請け合いだ。
ようするに、これらはどれもが、何らかの低確率ガチャを引くときの鳴き声みたいなものだと考えればわかりやすいか。
そんなわけで俺は───
「ええいままよ!」と叫んで、黄色と赤が斑になってるキノコを焼いて口に放り込んだ。
多少身体が燃えるように熱く汗が滝のよう吹き出したけど、気のせいだろう。
「ワンチャンいけるでぇ!」と己を鼓舞し、見つけた小池(?)に首を突っ込み水をがぶ飲みした。
飲んでからずっと腹がぐるんぐるん鳴ってるけど気のせいであって欲しかった。
「南無三!」などと供述した末に、俺はとろとろの甘い木の実を口内いっぱいに頬張った。
その結果、俺の身に何が起こったのかなど、火を見るより明らかだった。
俺は木の実を握り締めたまま、どこかで聴いたBGMとともに『←to be continued』の文字を幻視し、意識を失った。
ただ、その最後の、薄れゆく意識の、切れ端に、白い少女を見た、ような気がした。
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