聖騎士の俺が好きになったヒロインが続々とアイツのハーレムメンバーになってしまうんだけど俺の何がいけないのか誰か教えてくれ!!

麒麟堂 あみだ

第1章 異世界召喚と勇者パーティ

第1話 召喚されたけど勇者ではなかった

○○○



 ときは四月の桜の季節。

 春休み明けの始業式。


 俺は、通学路である桜降りしきる街路樹を歩き、これからの一年に期待を膨らませていた。


 四月と言えば出会いの季節だ。

 俺にも新たな出会いがあるかもしれない。

 同じ学校で既に一年を過ごしてるとは言えクラス替えがあるのだ。


 もしかすると、実は優しい不良の女の子と仲良くなれるかもしれない。


 もしかすると、あの真面目な風紀委員が実はオタク趣味で気があうかもしれない。


 もしかすると、あの無口でクールで孤高の花と言われてる美人さんと隣の席になれるかもしれない。


 俺を主人公にした妄想ラブコメを脳内に繰り広げつつ、街路樹を曲がればあとは直線で学校の校門が見えるってところで、何かにぶつかった。


「ああ、靴紐結んでたのか」と何にぶつかったのかを把握した瞬間──俺とその靴紐を結んでる人物は目もくらむような光に包まれた。





○○○


 目が覚めると城の中だった。


 俺は突然のことに理解が及ばず混乱の極みにあった。


 城の内装を見て、高校の授業で習ったドイツのなんたらシュヴァイン城とかいう、厨二心をくすぐるカッコいい名前の城のことを思い出した。


 ふと横を見ると、俺の横には倒れ伏した男がいる。

 こいつは──さっきの靴紐を結んでたヤツか。


 目線を上げた階上には豪華な造りの椅子があった。

 そこには無駄に重たそうなローブの、これもまた無駄に偉そうな白髭を蓄えたおじさんがどっかりと座っていた。


 思い浮かんだ言葉通りに、ここで俺が「おじさんだぁーれ?」などと言おうものなら、すぐさま俺の首が飛びそうな予感がした。


 なら、このおじさんが仮に王様だとしたら、その隣にずらりと並ぶお歴々の方々は、まさか国の重鎮であらせられるのではないでしょうか?


 それにさらにその隣にいる、ネットでしかみたことないような豪華な金糸をこれでもかとふんだんに用いて誂えられたシスター服風の衣装の貴女様はもしかして、聖女様──だったりしませんよね?


 などと周囲の状況を必死に把握しようとしていると、白髭のおじさんのやたら低いバリトンボイスが厳かに響いた。


「勇者様方は目が覚めましたかな?」


 やっべーやっぱりこれ勇者召喚やん!


「あの、ここは、どこで、しょうか?」


 俺は、どこかの戦場カメラマンのように、一句ずつ切るように、当たり障りのない質問をぶつけた。


 質問をしつつ、頭をフル回転させる。

 脳内でアラートが鳴り続けていた。


「ここはアルカナ王国にございます、勇者様」


 これ以上聞きたくないという俺の心情とは裏腹に、バリトンボイスはさらに響き渡った。


「勇者様、我々を、この国を──いや、この世界を救ってはくださらぬか?」


 やべーよ! やべーよ!

 これは聞きたくないタイプの異世界召喚やでぇ!


 未だに横たわる一緒に召喚された男子に視線を向けると当分目を覚ましそうになかった。

 彼が「うぅ、ママぁぁ」などとうわ言を漏らした。

 頼りにならねぇわこれ。


 俺は、頭を抱えて前途多難な先行きに、内心でクソデカ溜め息を吐いたのだった。



○○○



「名乗り遅れました、私、山田一郎と申します」


 一国の王を前にして、名乗らないのはどうかと思い、出来る限り礼を失さないようにと自己紹介につとめた。


「失敬失敬。この僕の名前は、竜宮院王子!! どうか覚えておいてくれたまえ!」


 俺の自己紹介に、ようやく目を覚ました男子が便乗した。

『くれたまえ』ってなんだよ! 無礼ってレベルじゃねーぞ!



 バリトンおじさんの隣で、無駄に厳めしい面でこちらをねめつける重鎮達、幹部達、貴族達、教会関係者、国関係者その他諸々もろもろの彼らのことはここでは割愛したい。


 ○○大臣とか、◇◇神殿長とか、××公爵とか聞いてるだけで「ヒェッ!」となる役職の人々なぞ、語るだけ胃がストレスでマッハ間違いなしだろう。


 場を仕切っていたのはもちろん、バリトンことアルカナ王国の現国王と、質素と対極にあるだろうバカみたいに豪奢なシスター服を身に纏った聖女(予想は当たっていた)だった。



 王様や、話にわざわざガヤを飛ばす国の幹部達や、鉄面皮の聖女様とのやり取りを要約すると、「この世界に魔王はいない。けれども、世界中に突如として現れた、この世界を滅ぼしかねない数多くの迷宮を踏破してくれ」とのことだった。


 え、何だか何だかわからない?


 そう言うだろうと思ったよ。

 ここでもう少し詳しく説明したい。


 迷宮自体は古くから存在するものであったがここ最近になって十二の迷宮が同時に誕生した。


 調査の結果、これらの迷宮は既存の迷宮とは難易度が桁違いであった。さらに困ったことに最難関と位置付けされたこれらのダンジョンは時間と共に急速に成長することが判明した。

 

 今はまだ何とか人類で対処できる内に、十二全ての迷宮を踏破して、その最奥にあるダンジョンマスターやダンジョンボス達を滅ぼして欲しい、というのが王国からの願いであった。



○○○



 聖女は「勇者様方、こちらでステータス鑑定をさせてもらいます」と告げ、俺と竜宮院の手を引き、ボーリングの玉より一回り大きなクソデカ水晶のところまで連れていくと、あれよあれよという間に個人情報ステータスを丸裸にしてしまった。


 靴紐野郎こと竜宮院王子りゅうぐういんおうじはステータス開示の結果、勇者だと判明した。


 スキルも《成長率5倍》《限界突破》《勇者の剣》《光魔法:極》とかいうチートオブチートだと判明した。


 完全に環境を破壊してるし、なんなら破壊されてるの俺の環境やろこれ!

 などと、竜宮院の余りのチート具合におののいていると、


「山田くん、君も早くステータスを開示してもらえよ」


 竜宮院が髪をかき上げた。

 自分が、凄かったからって急かしやがって!

 俺の胸の内は嫌な予感でいっぱいだった。


「ヤマダ様は聖騎士です」


 やっぱり俺は勇者じゃないじゃねぇか!




○○○




 聖騎士である俺のスキルは《成長率3倍》《鉄壁》《光魔法:大》《守護神》《信頼と信用》《スキルディフェンダー》《ログ》だった。



 聖女は「ヤマダ様もリューグーイン様も素晴らしいステータスです。皆様救国のお二人に祝福を!!」と拍手を呼び掛けた。


 日本時代のソシャゲで言えば俺は完全に竜宮院の下位互換だった。いや、けど無課金勢であればワンチャン戦力になるかもしれないか?

 だってだってこの世界の人々からしたら俺でもチートレベルのステータスだって言ってたし──


 国の重鎮たちがやんややんやという喝采をあげた。

 盛り上がってるところ悪いけど、これ俺ホントにやってけるのかよ?



○○○



 再度王様と聖女から、

「世界を救ってくださいお願いします」と嘆願された。

 俺はすぐに返事が出来なかった。


 異世界召還というものは誘拐と何も変わらない。

 たとえ、それに目をつぶり救済を請け負ったとしても、こっちにはたったの二人しかいないのだ。


 それに俺には懸念があった。

 俺に断るという選択肢があるのか?

 実際に俺らがチート持ちだったとしても、こちらの世界に来たばかりだ。身寄りもなく何も知らない俺達が、「迷宮踏破など出来ない」と彼等の依頼を拒否したところでどうしろというのだ。いくら騒いだところで、殺されて終わり───なんてのは想像に難い話ではなかった。


 だから情報を安全の範囲で少しずつでも引き出し、何としてでも俺は日本に帰る。

 この時、俺はそう決意していた。


 その隣で竜宮院のイケボが響いた。


「承りました!!」


 おお! とざわめく重鎮達。

 ざわめく俺の心の中。


 何安請け合いしとるんじゃこのハゲェー!!

 俺の決意が無に帰した瞬間であった。


「勇者である僕が、この世界を──貴方達を救いましょう! それこそが力ある者の義務!」


 そんな義務聞いたことねぇよ!


「勇者である僕と、聖騎士である山田がいれば全迷宮をクリアすることも不可能ではない!!」


 巻き添え事故ってレベルじゃねぇぞ!

 俺の意思はどこいったぁぁぁぁ!!


「あ、あの」


 おっさん達の歓喜の叫びで俺の声はかき消された。




○○○




 生きた心地のしない地獄のような時間だった。

 見知らぬ土地に拉致され、自分の命が賭かったひりつくような状況だった。

 それに加えて、周囲には威厳たっぷりの大人達がいかめしい表情でこちらをめ付けてくるのだ。


 所詮、俺ははたかが高校生だ。腹芸なんて出来やしない。

 ネット小説でよくある、召喚された高校生がすぐさま相手の王族をやり込める、なんてことは俺には不可能だった。


 しかも竜宮院のおバカのお陰で、俺の迷宮踏破が決まってしまった。


 迷宮に関しても不安が残るが俺には他に聞かなければいけないことがあった。

 喧騒が収まる頃を見計らって質問をした。


「私達は元の世界に帰ることが出来るのですか?」


 王様は目を細めて答えた。


「うむ、百年前の文献にもかつて召喚された勇者様達が元の世界へ帰ったとの記述がある」


「でしたら私を今すぐに帰してください。これまで武道はもちろん他者と争ったことがなく、勇者としての能力もない私はただの足手まといにございます。

 こちらの勇者である竜宮院がいれば、彼一人で一騎当千の働きをすることでしょう!」


 これ幸いに全て竜宮院に押し付けてやれと、声を張り上げた俺を見て、竜宮院は言葉を額面通りに受け取り「へへ、僕は勇者だ。当然だよなぁ」と胸を張った。


 竜宮院を冷たい目で見ていると、王様が哀れみを込めた目をこちらに向けた。


「すまなんだ、勇者様方。勇者様達を召喚するために召喚用の魔法具の魔力を使い果たしてしもうた。

 魔法具が全回復するまでに二十年の時間を要する」


 その答えは帰還出来ないと言ってることと同じではないか!

 そろそろ、学校から出席していないと報告がいってる頃だろう。ならば両親も妹も祖父母も絶対に心配してる。

 そんな心配を、不安を、これから二十年も掛け続けるのか。

 もし帰還を果たしても、じいちゃんばあちゃんは元気にしてるのか。

 不安は尽きない。


 それに二十年後帰還を果たしたとしても俺は一体どうなるのだ?

 単なる中卒無職の三十七歳じゃないか。


 これまで声も荒げずに話を聞いてきた。

 相手が王族や貴族ということもあり礼を失さないように気もつけてきた。

 けれどもう、我慢出来なかった。


 怒りに身を任せはっきりと彼らへ抗議の声を上げようとした──その時、近くにいた聖女が俺の肩に手を置いた。

 もう少しだけ待ってください──彼女がそう言ってるように感じられた。


「何も帰還の方法はそれだけとは言っておらん。

 ダンジョンを制覇すれば、最奥で様々な宝珠を手に入れることが出来る。

 その中には《願いの宝珠》と呼ばれる宝珠が存在する。この《願いの宝珠》というのは手に入れた者の願いを何でも一つ叶えてくれるアイテムなのだ。

 それさえあれば、勇者様の帰還はもちろん、帰還と同時に召喚前の状態で、召喚前の時間軸まで戻してくれることも不可能ではない」


 結局やっぱり迷宮を踏破するしかないのか。

 言いたいことを飲み込んで、結局は腹を括らなければいけなかった。



○○○



 そこからはあれよあれよと言う間に物事は進んだ。


 これから1ヶ月という期間、城に留まってこの世界について学び、またその間に戦闘に関してズブの素人である俺と竜宮院は国内で精鋭と言われる騎士団から戦いのいろは・・・を学ぶこととなった。



 そして少し前に地獄のような時間・・・・・・という表現を用いた。

 これは誤りであった。

 後に思い出すと正確にはあれは地獄の入り口であった。


 ここから始まるのが本当の地獄だった。

 その第一歩は、違和感とともに訪れた。


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