回想〜ある愚者の回顧〜
神威ルート
回想〜ある愚者の回顧〜
【死は万人ひさしからず誰であろうと訪れる】
それは…
はるか太古の時代からエルフ族に伝わりし言葉…
それは…
かつて大賢者としてその名を世界に知らしめた森人…
漆黒のハイ・エルフ《アルトヘルム》が御身を隠匿する際、両親をゴブリンに殺さ孤児となった少女に語ったのがその起源だと言われている。
だが当時…
ほぼ悠久の
だが今世なって皆思う…
だからこそ一部の一族を残して滅亡したのかもしれないと。
そのアルトヘルムの死が無惨な姿で
これはとある王領での話である。
外苑は青々とした葉を茂らせる木々が高くそびえ立つが、中心に進むにつれ枯木に変り果てる…
そんな銅貨の中心に穴が空いた様な円形の深き森に、略奪と言う名の愚かな行為を犯し逃亡した挙げ句、王都から捕縛の為に追手を差し向けられた盗賊の一団が入り込んでいた。
「
そんな盗賊一団の先頭に立つ、息も絶え絶えに苦悶の表情を浮かべるこの中年男…
金髪で長髪、そして、いかにも《たらし》様なその優男の名は《ヘイト》。
そしてそのヘイトの更に前に立つ、冒険者用の革製防具にロング・ソードを腰に帯剣し《頭》と呼ばれる黒髪で巨漢のこの男…
巷では《蛮剛のグラハム》等と二つ名で囁かれる犯罪者である。
「なんだ
「「「ヘイ頭!!」」
下卑た笑みを浮かべ足を止めたグラハムは、軽く息を整えると、背後から引き連れていた手下達に歩みを制止する様そう命令した。
実はこのグラハム達…
普段あちらこちらの街道に出没し、その道を通るキャラバンや少しばかり小綺麗にしている馬車等に予め目星をつけ、その後彼らが人気の少ない場所を通るのを見計らって強襲…
そして金目の物があれば当然奪い、人買いに売れそうな女がいればたっぷりと《味見》をした後売り払う。
子供ならば売り物になる迄色々と
勿論男共がいれば年齢に関係なくその場で瞬殺…
こちらはそのまま放置である。
骨の髄まで喰われれば尚更都合がよい。
何故なら自分らが襲ったという物的証拠が消え去るからだ。
要は《アシ》が付かないという訳である。
そんなグラハムが率いるこの一団が、こんな夜も更けた暗がりの中、何故この森に入り陣を取ったかというと…
それは数日前の事である。
何時もの様に街道を見渡せる草原に潜み、王都に向かうキャラバンを物色していたグラハム達…
その一つに目星をつけたグラハムらは、途中にある山道でこのキャラバンを強襲した。
その時、馬車の手綱を握っていた老御者の一人が、命乞いをする際、ある話しをグラハムに持ち掛けて助けてくれと懇願したのだ。
その話とは…
【王都に住むギグナスと言う貴族の屋敷に、この馬車に積んでいる《緑宝の水晶球》を届けると莫大な報酬を受け取る事が出来る】と言うものだった。
それを渡すので、命だけは助けてくれと土下座する老御者…
グラハムは直ぐヘイトに荷物を確認させその水晶球を確認すると、即座にその老御者の首を叩き落とした。
そしてキャラバンメンバーの女達を全員でたっぷりと味見しながら殺し、片っ端に崖から捨てていった。
グラハム自身もその女達の中で、ひときわ目を引く女の髪を鷲掴みし、岩陰まで引きずって行くと穴という穴を壊れるまで味わい尽くした後首を落とし、最後は崖から放り捨てた。
その後…
略奪した品々を壊れていない馬車に総て積み込むと、休む事無く王都に向かった。
次の日…
手下共を安宿屋に待機させ、ヘイトと二人でその貴族の屋敷を探した。
それも酒場の女主人に聞けば直に屋敷の場所が解った。
嬉々としながらその屋敷に向かう二人…
そして屋敷に辿り着き使用人に邸内を案内される中、その豪華さに圧倒された。
それと同時に、ある邪な考えがカマ首をもちあげてきたのだ。
『この屋敷…押し込み強盗に入っちまうか♪』
と…
そう考えた瞬間、グラハムはヘイトに目線を送った。
すると彼もまた同じ事を考えていたのだろう…
ニヤリと微笑むと、無言で頷いていたのだった。
応接室に通されたグラハムとヘイトは、執事らしき初老の男にあの御者が言っていた緑宝の水晶球を渡すと、報酬を受け取りそそくさとその場を後にした。
そしてその夜遅く…
安宿を出ていったグラハム達一団は、事前に打ち合わせした通りギグナスの屋敷に忍込み屋敷の住人達を皆殺しにすると、地下にあった宝玉庫に侵入し、金品や宝飾品を略奪すると直ぐ様王都から脱出した。
勿論あの緑宝の水晶球も懐に隠し持ってだ。
ただその際、ヘイトはちょっとした違和感を幾つか感じていた。
一つはあの緑宝の水晶球である。
あの馬車の荷物の中から探し当てたこの水晶球…
最初に触れたのはヘイトなのだが、その時の水晶球と自分らが屋敷の執事に手渡して保管されていた筈の水晶球とが、なんというか…微妙に違う様なそんな違和感を感じたのだった。
それにその水晶球が保管されていた場所にはもう一つ何も乗っでいない玉座が存在していた。
それも彼が違和感を持っ原因なのだった。
それと…
王都にも関わらず、この深夜に都壁にそびえ立つ正門が開き放しで、しかも門番や衛兵等の姿が見当たらなかった事だ。
常識から言っても有り得ない事である。
嫌な予感が頭を過ぎるヘイト…
しかし今は無事逃げ出す事が重要だと、彼はその違和感を頭の隅に追いやった。
そして今…
「ふ〜助かった…でも頭〜」
「おう、なんだ?」
馬車の荷台の側に腰を降ろしたグラハムに向かって酒を差し出すヘイト。
「言っちゃ〜なんですがね…こいつ本当に価値があるんですかい?」
彼は気が短いグラハムの向かい側に座り、慎重に自分が抱く違和感を遠回しに投げかけ始めた。
そうしなければ彼の機嫌を損ねた途端、いまだ帯刀しているロング・ソードで容赦なく切りつけられるからだ。
すると…
「バカかテメェ〜、価値があるからかっぱらったに決まってんだろうが!」
「へぇ〜♪で…それってどんな価値何ですかい?」
「フフ…聞いて驚けよ〜それはな〜〜♪」
何時もの下卑た笑顔を浮かべドヤ顔で理由を話そうとするグラハム。
おそらくあの時だろう…
あの女を味見していた時にこの水晶球の事を聞いたのだと思ったヘイト。
でなければ自分が知る限り、グラハムが誰かにその価値を聞いている姿なんて見ていない。
しかし…
そう言いかけた途端、静止画面の様に動かなくなった。
「なんですか頭〜勿体つけないで教えて下さいよ〜」
そんな感じで茶化し気味に軽口を叩くヘイト。
だが…
「………なんだ…なんで俺ぁ〜こんなモンかっぱらったんだ?」
予想だにしなかった答えが彼の口から返ってきた。
「え!頭…何言ってるんですかい?」
「おいヘイト!ここは何処なんだ?俺たちゃ〜なんでこんな処に居るんだ?答えろ!!」
そのセリフに動揺を隠せないヘイトに向かって、グラハムは更に強い口調で怒鳴りつける様に問いただした。
そんな彼のそのリアクションは、あきらかに真実を物語っている。
「頭!!一体どうしちまったんですかい?頭がここに《逃げ込んじまえばもう一安心だ》って言ったんですぜ!」
「俺が…か?」
立ちあがるグラハムに呼応するかの如くヘイトも立ちあがり、事の経緯を説明した。
しかしそれでも尚信じられないといった表情で目を見開く…
もうどうしていいか解らなくなったヘイトは、野営の準備をしている他の部下達に同意を求める様にこう叫んだ。
「なぁ〜テメェらもそう聞いたよな!」
「…………」
しかし誰からも返事は返ってこない…
でも確かにさっきまでいた筈である。
「オイ、何だ何処行った!?」
益々動揺するヘイト…
そして動かないグラハム…
すると静まり返る暗闇と静寂の中から…
「……た…す…」
「ん?ケイルか!何処に居る!」
この一団の中で最年少のケイルの声が小さく途切れ途切れに聞こえてきた。
「あ…に……き…た…」
またも途切れ途切れに聞こえるその声…
その異変にただならぬ恐怖を覚えたヘイトは、脂汗を掻きながらグラハムの方を振り返った。
「頭!!なんか変だぜ!!」
しかしそこにいた筈の彼の姿が忽然と消えている…
「え、頭…頭?何処に行きやした!頭!!」
慌てて周囲を見渡すヘイト。
すると彼の背後から…
「…こっち…だ…ヘイト…こっち…」
冷静を取り戻したかの様な表情を浮かべるグラハム顔が闇の中から突然浮かんできた。
「頭…?」
彼の言うままにその方向に向かって走り出すヘイト。
もうどの位走ったのだろう?
暫くすると夜も明け、周囲に陽の光が差し込んできた。
更に走り続けようするヘイト。
その途端森が開け、木々達が囲む様に開けた平地へと辿り着いた。
その中心に…
「ん?テメェ〜誰だ?ここで何してやがる…答えろ」
白い裸体を隠す事も無く、彼を見つめる少女の姿がそこにあった。
そして彼のそんな脅しとも取れる叫び声に表情一つ変えず、静かにこう答えた。
「……食事の…準備…」
と…
「食事だ〜?」
そんな彼女の答えを理解出来ないヘイトは、ショート・ダガーを手に持ち、一歩前に歩をすすめると…
「そう…食事…ご主人様の…食事…」
彼の足元には、さっきまで一緒にいた仲間達のバラバラになった肢体が転がっていたのだった!
勿論最年少のケイルの肢体もだ…
その彼の口には、見覚えがある千切れた手首がねじ込まれている…
その時、咄嗟に自分の右手に目をやると…
…無い…
やはり見覚えがある筈である。
何故ならケイルの口にねじ込まれていた手首はいつの間にか無くなっていた自分の手首だったからだ…
「ん?ウワァーーー!!」
それでも痛みを感じない自分と周囲の状況を垣間見て恐怖の余り腰を抜かすヘイト…
よく見ると、少女の右手には恍惚な表情を浮かべるグラハムの首…
左手にはあの緑宝の水晶球が握られていた。
少女はその水晶球を静かに掲げると、ゆっくりと口を開きこう言った。
「私は…この森から…出られ…ない…から…食事の用意が…できない…だから…皆を…餌に…貴方…達を…利用…した…」
「え?」
「だから…ありが…とう…これで…ご主人様…食事…できる…」
その少女の言葉がヘイトが聞く事が出来た最後の言葉だった。
何故なら彼が今見ているのは少女ではなく、首や右手を無くした状態で座り込んでいる己の肢体だったからだ…
そして…
そんな主を無くした己の肢体のその背後…
そびえ立つ枯れかけていた木々に、青々とした緑が戻る様を見届けながら、ヘイトはある噂話を思い出しつつ、そのまぶたを永遠に閉じた。
遥か昔…
アルトヘルムと言う大賢者が己の血肉と彼を虚言者と嘲笑った同族であるエルフを贄にして一人の少女を封印しようとしたと…
しかしその少女を盲信する一部のエルフの裏切りで完全に封印する事が叶わなかった事…
そしてその少女を救った一部のエルフ達は、少女が産まれた森を探し当てると、少女と共にその森の奥深くへと姿を消していったという事…
共に姿を消したそのエルフ達は、森の恩恵で真の不老不死の力を手に入れたと…
その後エルフ達は時折森から出て来ては…
人族等を…
時には虚偽を広め…
時には幻惑し…
時にはたぶらかし…
その森の為…
少女の為…
何かを手に入れて…
刻と生を得て…
維持している…
と…
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