第82話 魔法のおかげで楽ができた
「お前たちはルビー鉱山を襲撃した犯人だろ? 戦力を素直に話せば生かしてやる」
「ガハッ、ゴホッ、ゴホッ」
俺を襲ってきた男は咳き込んでいてしゃべれないようだ。
手加減はしていたので死にはしないだろうが、呼吸が落ち着くには時間がかかるだろう。様子を見守ろうとしたら口から泡を出して痙攣しだした。
毒だと判断して手を打とうとしたときには息絶えてしまう。即効性のある強力なものだったらしい。
情報漏洩を防ぐために自害するほど根性がある敵だとは思えなかったので油断してしまった。
せめて少しでも多くの情報を得ようとして、手がかりが残ってないか漁ることにする。鎧を強引に剥ぎ取りポケットの中を探っていると、どこからか腐った臭いがしてきた。瘴気に近い。反射的に光属性を放出して浄化してしまうと、すぐに消えた。
周囲を確認するが敵の存在は確認できない。どこにいたんだ……?
探したいところではあるが今はルビー鉱山の方を優先しなければいけない。
タイミング良く……いや悪くアイラが乗っている馬車が来たので、合流すると状況を説明してから山道の中程まで進むことにした。
* * *
途中から徒歩の移動に切り替え、山道を外れてルビー鉱山の近くにまで来た。
ベラトリックスに頼んで使い魔を飛ばしてもらい上空から偵察してもらった結果、入り口には十名近い兵がいて油断なく周囲を警戒していることが分かっている。鉱山の少し奥には土嚢を積み重ね、ボウガンを装備した兵もいるらしい。
予定よりも早く到着したのだが間に合わなかったようで、厳重な警備体制をとられてしまった。
「どうしましょうか……」
アイラが不安そうに見ている。護衛として連れてきた兵二人も同じだ。
あの中に突撃しろと言われたらどうしようとか思っているのだろう。
安心しろ。不正ばかりしていた兵に頼ることはない。こいつらは立ったままアイラの盾になっていればいいのだ。
「こうなったのであれば仕方がありません。強行突破しましょう」
兵の緊張感が高まった。
無駄に自己評価が高いな。頼られるなんて思い上がるんじゃない。
「俺とベラトリックスがすべての敵を倒します。三人はここで待っていてください」
ずっと邪魔せず話を聞いていた相棒を見る。
「いつも通りで行くぞ」
「はい」
戦いが始まる直前だというのに嬉しそうだ。
勇者時代には山賊に襲われた村や汚染獣の討伐を邪魔する組織、または不良冒険者集団などと戦ってきた。要は、対人戦の経験は豊富なのだ。
細かい作戦の指示を出さなくても、いつも通りと言えばやることは伝わる。
魔法の発動を補助するロッドや指輪すら必要のないベラトリックスは、体内の魔力を高めてすぐさま魔法名を口にする。
『アイスストーム』
鉱山周辺の気温が一気に下がり、氷の嵐が吹き荒れた。
手のひらぐらいある鋭い氷が兵の鎧を突き破り、体を削っていく。即死なんて生やさしいことにはならない。酷い苦痛を感じても喉が凍ってしまい、叫ぶことすらできず死ぬのだ。
一分ぐらい経っただろうか。しばらくして氷の嵐がやむと俺は飛び出す。
土嚢で隠れていた兵からの攻撃を警戒していたが矢は飛んでこない。入り口に生き残りはいないので鉱山へ入った。
壁には明かりの魔道具が一定間隔で付けられていて視界は確保できている。
ボウガンを持っている兵たちは攻撃しようと矢をこちらに向けてくるが、小刻みに震えていて狙いは定まっていない。さらに指が動かないようでトリガーを引けず、歯をカチカチと鳴らしながら困惑していた。
俺の息も白い。魔法による気温低下はまだ続いているようだ。
生き残っている兵は五人程度。槍を突き刺し殺していくと、抵抗もなく全滅させられた。
奥から敵がやってくる気配はない。再利用できないようボウガンを破壊していると、ベラトリックスがアイラたちを引き連れてやってきた。
足下に転がっている死体を見るとにこやかに笑う。
「さすがポルン様。圧倒的な強さですね」
「魔法のおかげで楽ができた」
「ありがとうございます」
いつ戦闘が発生するかわからないのに、ベラトリックスは腕に絡みついてきた。
胸を押し当ててくる。
「どうした?」
「しばらく会えなかったので」
甘えさせてほしいとでも言いたいのだろうか。
厳しい目でアイラが見ているし、戦いは始まったばかりなので気を抜くわけにはいかない。
「それは、すべてが終わった後にしよう」
「約束ですよ?」
「必ず守る。だから戦いに専念してくれ」
「はい」
なんだか恐ろしい約束をしてしまった気もするが、忘れることにした。
腕から手が離れたので鉱山の奥へ進んでいく。
後ろは兵の二人。地図を見ているアイラと隣にいるベラトリックスが真ん中だ。
しばらくは一本道が続く。
地面には採掘に使っていたであろうツルハシなどが転がっている。人の気配はない。
罠の類いもなく分岐点まで来てしまった。道は三つに分かれている。
「左はすぐ行き止まりです。行くなら真ん中と右側です」
「休憩所につながってるのはどっちですか?」
「右側ですね」
当初の目的通り進むのであれば悩むことはないが、少し気になることがある。
しゃがんで地面を調べることにした。
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