第80話 指揮官ですか。頑張ります
「村の防衛方針は決まったので、次はルビー鉱山奪還の詳細を詰めましょう。ベラトリックス、敵の配置はわかるか?」
「もちろん、と言いたいのですが鉱山の中までは確認できてません」
使い魔はガラスでできた鳥を使っているので上空からの偵察は得意だが、閉鎖空間は少々苦手だ。
正体がばれないように動いてたため詳細の情報は確認出来なかったのだろう。
「それでかまわない。頼む」
こくりとうなずくと、ベラトリックスが情報を教えてくれる。
「鉱山の前には警備の兵らしき姿がありました。数は十ぐらいですが正確なことは不明、彼らを倒さなければ中には入れません」
「多少派手に暴れても中にいる相手には気づかれないか?」
「恐らく。ただし、一人でも見逃してしまえば仲間を呼ばれると思うので上手くやる必要があります」
「全滅させる必要があるか……ベラトリックスならできるだろ?」
「はい」
魔法を使えば一瞬にして大勢を殺せる。
これはベラトリックスの得意分野であるため、自信ありげに返事してくれた。
「敵を倒して入り口を突破した後は、坑道の中を進む必要はあるが……」
助けを求めるようにして、俺はアイラを見る。
「地図はありますか?」
「半年前のでよければ」
「見せてください」
引き出しから地図を取り出すと、デスクの上に広げてくれた。
発見したばかりだからか、道はさほど複雑じゃない。地盤が緩い危険な箇所は記載されていて、思っていたよりも詳細な情報が手に入った。
「坑内に主犯がいるとしたら、この休憩所か?」
奥へ進んだところに、大部屋が複数あった。
仕事を終えた人たちが宿泊する場として用意したのだろう。ベッドだけじゃなく食料や水、採掘したばかりのルビー原石も一時的に保管される場所のようだ。貴重な物資が盗まれないか監視する意味でも集団の責任者はいるだろうと予想した。
「恐らくそうだと思います。現場監督もよく、そこにいましたから」
であれば、予想は間違いないだろう。
「俺とベラトリックスは入り口の敵を殲滅した後、休憩所に居ると思われる主犯を捕縛、もしくは殺害してルビー鉱山を解放する。ヴァリィとトエーリエは村の警備を頼んだ」
名前を呼んだ三人はうなずいてくれた。
「私は何をすれば良いですか?」
一人だけ会話に入れず仕事を振られなかったテレサは、仲間はずれにされたと思ったようで不安そうな声をしていた。
いつも四人で行動していたので彼女のことを忘れていた……。ごめん。悪いことをしてしまった。
「ヴァリィたちと村の警備をお願いできないか」
「ルビー鉱山への同行は……だめでしょうか……」
正直なところ俺とベラトリックスがいれば戦力としては充分だ。そこにテレサが加わっても意味は無い。それよりも大軍が展開できる平原にある村の方が人は欲しい。今回ばかりは受け入れられなかった。
「ダメだ。計画は変えられない。理由は言わなくても分かるだろう?」
「……はい」
「私はポルンさんに同行しても良いですよね?」
テレサを無理やり納得させたと思ったら、今度はアイラがとんでもないことを言いだした。
何も考えずに発言する人じゃない。何か考えがあるのだろう。
「屋敷にいてもらう予定でした。なぜルビー鉱山へ行きたいのですか?」
「守られてばかりでは使用人たちに舐められてしまいます。当主代理としての功績が欲しいのです」
バドロフ子爵を退けた後、俺たちはいなくなる。
その時に、何の実績もないアイラは再び使用人たちに見くびられるだろう。
下に見られて不正をする輩が出てくるかもしれない。いや、間違いなく出る。
ヴォルデンク当主が毒で衰弱死するのが避けられないのであれば、力ある領主という分かりやすい功績は必要なのだ。なるほど、先のことを考えれば理解できる話だった。
「わかりました。アイラ様は指揮官として同行を許可しましょう。現場では私が指示を出しますが、それでいいですよね?」
「もちろんです」
「であれば決定です。護衛も兵を二人ほど追加で用意してください」
活躍したという目撃者が必要なので兵の追加を依頼した。
無事にルビー鉱山を奪い返せれば、指揮官として参加した領主の成果となる。実績が積めるようになるので、俺たちがいなくなったあとも使用人や兵がバカにすることは減るだろう。
「わかりました。私、頑張ります」
小さく拳を握って気合いを入れていた。
「ポルン様と一緒……ぐやじぃ……」
一方で同行を却下されたテレサは涙ぐみながら、ぶつぶつとつぶやいていた。
負のオーラが出ているように感じて恐ろしくて声をかけられない。
俺を神のように扱ってくるから付き合いにくいな。
今は放置して話を進めよう。
「ルビー鉱山奪還作戦は明日から始めよう。今日中に準備を終わらせてくれ」
パンと軽く手を叩いて合図するとベラトリックスとトエーリエはすぐに執務室から出て行った。ヴァリィに首根っこを掴まれたテレサもいなくなる。
食料や必需品の買い出しに行ったのだろう。
こういったことには慣れているので、半日もあれば終わるはずだ。
「護衛の人選や兵への命令、冒険者への依頼はアイラ様にお任せします」
「わかりました。今日中にすべて終わらせます。ですから、ルビー鉱山の奪還頼みましたよ」
「お任せください」
胸に手を当てて騎士っぽい振る舞いをしたらアイラは満足してくれたようだ。良い笑顔になった。
* * *
俺――バドロフは執務室で仕事していると、高速移動を得意とする使い魔からの伝達によって、ルビー鉱山の襲撃と占拠が成功したとの連絡を受けた。
それは当然だろう。切り札まで使ったのだから失敗された方が困る。
「朗報のようですね」
笑みがこぼれていたのだろう。
執務室のドア前で立っている金髪の男は、薄笑いを浮かべながら俺を見ていた。
「ルビー鉱山を占拠した」
「おめでとうございます。あの道具は役に立ったようですね」
手を叩いて祝っているように見せているが、本心は違うことを思っているように思える。
この男、ペルライルと名乗っていたが偽名だろう。出身や経歴、家族などすべてが不明の男ではあるが、人知れずヴォルデンク領内に必殺の兵器を運び込むだけでなく、便利な道具まで無償で提供した有能な人物だ。
「ああ。間違いなく役立ったぞ。村の方の襲撃もそろそろ始まる頃だ。長かった争いもこれで終わる」
村まで破滅させられれば、ヴォルデンク家は領地を守る力がないと訴え、没落させられる。領地は空白になって一時的に王国直轄になってしまうのだが、金さえ積めば理由を付けて受け取れる手はずになっていた。
あと一歩で領地が増える。我が家の繁栄はこれからだ。
「バドロフ子爵、わかってますよね?」
「むろんだ。俺は裏切らない。ヴォルデンク領が手に入れば報酬を渡そう」
この男が求めているのは隣国で宰相をしているメルベルの情報だ。国の重鎮であるため知っていることは少ないが、それでも良いから欲しいと言われている。
何を企んでいるのかわからないため普段なら断るのだが、ベルライルの持ち込んだ道具が有益だったので、とりあえず受け入れていた。
「期待しております」
深く頭を下げるとベルライルは執務室から出て行ってしまった。
しばらく間を置いてから息を吐く。
「気味の悪いやつだ」
あの男は、事実が公になれば俺が失脚するほどの情報を持っている。
生きていたら心の平穏が保てない。今回の襲撃が終わったら、情報を渡してから消す予定だ。
これなら約束は守ったことになる。
あの世で、メルベルについて教えてもらったことを感謝するんだな。
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