第79話 当然です

 ルビー鉱山の襲撃を聞いて、急ぎ屋敷に戻った。


 俺と元勇者パーティのメンバーとテレサは、アイラが使っている執務室に集まっている。


 全員、ルビー鉱山が襲撃されていることまで聞いているが詳細までは不明だ。


 ベラトリックスが使い魔から得た情報をまとめてくれたので、今から報告を聞くところである。


「ルビー鉱山を襲ってきた野盗は多くないようです。少数で電撃的に襲撃し、ルビー鉱山を支配したようです」

「少数で? そんなこと可能なのか?」


 そこそこの兵を派遣していたんだぞ。にわかには信じられないが、逆に俺たちが情報を察知できなかった理由にはなる。


 少数であれば動きは把握しにくく、気づいたときには手遅れになりやすいからな。


「できたみたいですね。私たちが把握していない奥手があったのだと思います」

「なるほどな……」


 ヴァリィやベラトリックスのように優れた人間が一人居たら可能ではあるか。


 油断して良い敵ではなさそうだ。


「鉱山を警備していた兵と採掘をしていた職人はどうなったんですか?」


 俺が黙ると次はアイラが質問をした。


「生きている姿は見てないから全員殺されている」


 同じ人間を使って採掘を続けるつもりはないみたいだ。領地を乗っ取った後、バドロフ領から必要な人材を派遣するのだろう。


「虐殺したのか。最悪だな」

「ですね……ポルン様、どうします?」


 領主代理のアイラではなく俺に聞いてきた。


 ベラトリックスにとっては何もおかしくないと思っての行動だろうが、あまりよくない。


 組織のトップは一人でなければいけないのだ。領地に対して責任を持てない……いや、持つ資格のない俺が最終決定してはいけないのである。


「方針はアイラ様の意見を聞いてからだ」


 全員の視線が集まる。


「どうしたいですか?」


 当主の椅子に座るアイラに質問した。


 奪い返すのか、それとも放置するのか、別貴族に助けを求めるのか、そういた大方針についてどう考えているか知りたいのだ。


「わかりません。どうして、こんなことに……」


 椅子に座り、呆然としながらつぶやいていた。


 当主代理について日が浅く、少し前までは汚い世界から隔離されて育ってきたのだ。許容容量をオーバーして頭が働かなくなったのだろう。


「嘆いていても状況は悪化するだけです。もしかしたら領内の村もしくは町も襲撃される可能性があります。せめてどうしたいか、といった意思だけでも表明してください」

「どうしたいか……意思、ですか」

「そうです。この地を治める領主としてのご意見を聞かせてください」

「言ったらポルンさんは助けてくれるんですか?」

「当然です」


 言い切ったのが良かったのだろう。アイラはようやくほっとしたような表情になった。


「分かりました。間違っているかもしれませんが、私としてはルビー鉱山は早急に奪い返したいと思っています。それと同時に村にも兵を派遣して守りを固めたいですね」


 ヴォルデンク領には村が三つ、それと俺たちのいる町がある。


 それぞれを守りながらルビー鉱山にいる野盗どもを倒すには兵力が足りない。


 戦力が劣る場合は、何かを選び何かを捨てなければいけないのだ。


「ルビー鉱山の敵兵力は多くない。俺とベラトリックスがいれば戦力として十分です。村の方は三つすべてを完全に守るのは不可能ですが、最も重要な村にヴァリィとトエーリエを派遣しましょう。最悪の場合でも全滅は避けられます」


 すべて被害なく守ることが不可能であれば、優先順位を付けるしかない。


 俺の意見を聞いたアイラは壁に貼り付けられた地図の前に立つ。


「重要な村、といったら一つしかありません。領内の食料事情を支えるほどの小麦が収穫できる、この村ですね」


 指が置かれた場所は町から南にある村だ。俺が立ち寄った所とは別だった。


「小麦畑を焼かれたら来年以降が大変です。ルビー鉱山の収益があれば餓死者は出ないと思いますが、現状維持以上のことはできなくなっちゃうので困るんです」

「でしたら、ここにヴァリィとトエーリエ、兵を派遣しましょう。足りない分は冒険者を雇って補充します」


 本当なら対人戦に特化した傭兵を雇った方が良いんだろうが、戦争がない地域なので彼らはいない。その代わり魔物相手に飯を食べている冒険者はどこにでもいるし、この町にもギルドはあるので依頼すれば引き受けてくれるだろう。


 兵力が足りないなら余所から持ってくる。


 王道のやり方ではあるが、兵士と違って金だけのつながりであるため忠誠心は低い。劣勢になれば逃げ出すだろう。


 だから積極的には使えない。最終手段であった。


「私の家にある家具を売れば依頼金は確保できますし、良さそうな案です。さすがポルンさんです!」


 優先順位を決めてある程度の対策が考えられたことで、アイラの表情は明るくなった。


 俺の手を握って笑顔を向けてくれる。


「はしたない」

「貴族の子女としてのマナーを思い出してください」


 ベラトリックスとトエーリエが俺の体をつかんで、アイラから引き離した。


「時間がありません。話を進めましょう」


 この指摘はごもっともだ。


 ベラトリックスの言葉に俺もうなずいた。


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