童貞なのに、女の子からできちゃったって言われた

生出合里主人

童貞なのに、女の子からできちゃったって言われた

「お兄ちゃん、あたし……できちゃった」

「え? えーーっ!」


 若奈わかなちゃんの衝撃発言に、俺の頭は大混乱に陥った。


 若奈ちゃんは確かにかわいい。

 アイドルになってもおかしくないくらい。


 でも、若奈ちゃんはただのお隣さん。

 幼馴染と言えなくもないけど、付き合っているわけじゃない。

 もちろん、手を出したことなんか一度もない。


 そもそも、俺は童貞だ。

 物理的に、子供ができる可能性はない。


 酒は飲まないから、酔ってつい、ってこともない。

 記憶喪失でもないし、多重人格なんて話もない。


 どう考えても、俺の子ってことはありえないんだ。


「あのさ若奈ちゃん……それって、俺とは関係ない話、だよね?」

「ひどい……勇気出してやっと言えたのに、そんなこと言うなんて」

「いやっ、でも……」


 俺はひどくろうばいした。

 家の前で、制服姿の女子高生に泣かれている。

 こんなところを近所の人に見られたら、この町にいられなくなるぞ。


「とりあえず、中に入ろうか」

「うん」



 俺は実家の一軒家に住んでいるが、両親は今海外で働いている。

 だから一人暮らしみたいなもんだ。


 俺は周囲を気にしながら若奈ちゃんを家に入れ、居間のソファに座ってもらう。

 制服のスカートが短いから、白い脚が丸見えだ。


 俺はココアを用意ながら、頭をフル回転させて推理した。


 若奈ちゃんには、虚言癖とか、妄想癖とか、そういうのがあるのかな。

 想像妊娠っていうのがあるらしいし。

 それとも妊娠する夢を見て、事実だと思い込んじゃったのかな。


 若奈ちゃんに限って、そんなはずないか。


 俺が眠っている間に、何者かに精子を取られたとか?

 誰がなんのためにそんなことするんだよ。


 まさかこの若奈ちゃんは、未来からタイムリープしてきた?

 ラノベの読みすぎだな。



 俺はテーブルにココアを置き、若奈ちゃんの隣に座った。

 なんか、女の子のいいにおいがする。


「さっき、できちゃったって言ってたけど、それはちゃんと確かめたのかなあ」

「うん。いっぱい検査したから、間違いないの」


 妊娠はしている。

 でも俺の子じゃない。

 ってことは、誰かにはらまされたとしか考えられない。


 それでも俺の子だって言い張るのには、なにか理由があるはずだ。

 妊娠したとたん男に捨てられて、中絶するしかなくなったとか?


「医者から、手術の同意書に父親のサインがいるって言われたの?」

「手術の同意書のことなら、もういいの」


 サインは必要ないのか。

 だったら俺に、中絶の費用を払ってほしいのか?


 そう言えば若奈ちゃんの両親が経営している印刷所って、不景気で借金を抱えてるんだよな。

 俺は失業中だけど親がそこそこかせいでいるから、俺をだまして金を取るつもりなのか。


 若奈ちゃんがそんなことをするとは思えないけど、追い込まれた両親に頼まれて、仕方なくやっているのかもしれない。

 下手すると、後で怖いおじさんたちがやってくるのかもしれないぞ。


「もしかして、お金がなくて困ってるの?」

「確かにお金はないけど、そのことはいいの」


「じゃあ若奈ちゃんは、俺にどうしてほしいんだよ」

「若奈はただ、お兄ちゃんの気持ちが知りたくて」


「気持ち? それってどういう意味?」

「お兄ちゃん、若奈のだんなさんになってくれない?」


 俺と若奈ちゃんが、結婚?

 それって逃げた男の代わりに、父親になってほしいってことか。


「いきなりそんなこと言われても、どうしていいかわからないよ」

「そうだよね。こんな子供じゃ、いやだよね」


「子供とまでは言わないけど、さすがにまだ若すぎるだろう」

「でも、若奈には時間がないの」


 子供が生まれる前に結婚したいってことか。

 シングルマザーは大変だっていうからな。


「それはまあ、あと何ヶ月か、なんだろうけど」

「そうなの。だからお兄ちゃんお願い。だって若奈には、お兄ちゃんしかいないんだもん」



 若奈ちゃんの目から、涙があふれた。

 俺の胸は、若奈ちゃんへの同情であふれている。


「泣くなよぉ」

「だって、不安で、辛くって」


 そりゃそうだ。

 この歳で妊娠して、男に捨てられて、両親にも頼れないんだから。


 困り果てた俺は、若奈ちゃんの頭を軽くなでる。

 すると若奈ちゃんは、勢いよく俺の胸に飛び込んできた。


「いやっ、若奈ちゃん、ダメだよっ」

「若奈のことを、見捨てないで」


 いや、そんなこと言われても。


 確かに若奈ちゃんはいい子だ。

 あと数年も経てば、相当いい女になるだろう。


 だけど今はまだ高校生だし、俺は一回りも年上だ。

 この子とどうにかなるなんて、想像もできない。


 でも、若奈ちゃんの体は柔らかい。

 きれいな肌はスベスベだ。

 体をひねっているからパンツが見えそう。


「若奈ちゃん、落ち着いて」

「ごめんねお兄ちゃん。若奈ちょっと、焦っちゃった。体がほてってるのかな。なんか暑い」


 若奈ちゃんが制服のリボンをほどき、ボタンを一つ、二つとあけていく。

 俺は顔をそむけるが、視線は胸元から離れようとしない。


 おいおい、そんなわかりやすい誘惑ってあるか?

 こんなの、金目当て確定じゃねえか。


「暖房はしてないんだけどな。むしろ冷房かけようか?」

「いいから、若奈から離れないで。若奈、お兄ちゃんと一秒も離れたくない」


 このままじゃいけないってわかってるのに、体が言うことを聞いてくれねえ。

 まるで鋼の鎖でしばられてるみたいだ。


「あのさ若奈ちゃん、俺も一応男だから、そんなにくっつくのはやめておこうか」

「いや。若奈、ずっとお兄ちゃんにくっついてる」


 もうやめてくれってぇ。

 オッパイ当たってるしぃ。

 なんかムニュムニュしてて気持ちぃよぉ。

 いつの間にこんなに発育したんだよぉ。


 なんか、頭がクラクラしてきたぁ。

 世界がクルクル回ってるぅ。



「あ、お兄ちゃん、元気」


 ああっ、俺の下半身め、なにしてくれてんだ!

 女子高生にガン見されてるじゃねえかよ!


「いやっ、違うんだっ」

「なにが、違うの?」

「そんなこと、これっぽっちしか考えていないぞっ」


 俺の下半身をじっくり観察していた若奈ちゃんが、俺の顔を見上げてくる。

 トロ~ンとした上目づかいで。

 口をポワ~ンと半開きにして。


「若奈のこと、嫌い?」

「そんなわけ、ないだろ」


「良かったぁ。なら若奈のこと、好きにしていいよ」


 うーわ~っ!

 なんてこと言うんだこの子は!


 自慢じゃないが、俺は童貞なんだぞーっ。

 誘惑に対する免疫なんて、あるわけないじゃないかーっ。


 だけどそもそも、俺の子供を妊娠したって言ってるわけだし。

 ここでそういうことをしても、いまさらなにも変わらないってことかぁ。


 でも俺は無実なわけだし、ここでしちゃったら後付けで既成事実にされちまう。

 そしたら怖いおじさんたちが来て、身ぐるみはがされるってわけだ。

 俺の乏しい貯金だけならまだしも、親まで脅迫されたらどうしよう。


「な、なに言ってるんだよ。俺はそんなこと、しないよぉ」

「若奈、お兄ちゃんと一つになりたい」

「そそ、そんなこと、いけないよぉ」


 そんなこと言いながら、下半身の暴走が止まらねーっ。

 頭が真っ白で、なにも考えられなくなってきたーっ。


「お兄ちゃん、抱いて」

「若奈ちゃーーん!」




 やってしまった。


 世界の皆さん、ごめんなさい。

 私、女子高生を抱いてしまいました。


 これは淫行です。

 私は犯罪者です。


 こうなったからには、責任を取らせていただきます。


 形だけの父親になってもいい。

 財産を取られるだけ取られた挙句、捨てられても仕方ない。

 怖いおじさんたちにフルボッコにされても、警察に突き出されても文句は言えない。


 あーあ

 俺の人生、終わったようなもんだな。



「ごめんね、若奈ちゃん」


 ソファで若奈ちゃんと添い寝をしながら、俺の上半身は罪悪感でいっぱいだった。

 なのに俺の下半身は、早くも二回目を望んでいる。


「なんで謝るの?」

「なんか、とにかく申し訳なくて」


「若奈は、願いがかなって嬉しいよ」

「恥ずかしい話だけど、俺、初めてだったんだ。だからうまくできなくてごめんな」


「そんなこと、気にしないでいいのに」

「だって若奈ちゃんは経験あるわけだし、男としては立場がないよ」


「え? 若奈も初めてだったよ」


 そっか。だからあんなに痛がったのか。

 俺が下手だからだと思ってたよ。


 ……って、え?


 ソファの一部が、真っ赤に染まっている。

 これは間違いなく、処女の証。


 どういうこと?


「若奈ちゃん、初めてだったの?」

「うん。若奈、お兄ちゃんにバージンをあげたかったの」


 なんだよ、妊娠したっていうのはウソだったのか。

 俺と付き合うための方便だったってこと?


 そういえば、妊娠してると思ったから避妊とかしてない。

 本当にできちゃったら、どうしよう!


「それならそうと、なんで言ってくれないんだよ」

「だって、恥ずかしかったんだもん」


 もうわけわかんない。

 でもウソばかりつくってことは、やっぱり金目当てだったってことだな。


 そりゃそうか。

 こんなにかわいい子が、俺なんか好きになるわけないもんな。


「もう隠さなくていいよ。俺の貯金は全部あげるからさあ」


 若奈ちゃんがキョトンとしている。

 その表情は子犬みたいで、果てしなくかわいい。


「お兄ちゃん、なんか勘違いしてない?」

「もうわかってるんだよ。ここまでするのって、金が目当てなんだろ?」


「ひどーい。なんでそんなこと言うのよぉ」

「だって、俺はついさっきまで童貞だったのに、俺の子供を妊娠したなんてウソをつくから」


「やだぁ、若奈、妊娠したなんて一言も言ってないじゃん」

「言ったよぉ、できちゃったって」


「あ、それは……あのね……若奈、腫瘍ができちゃったの」


 え? 腫瘍?


「さっきは腫瘍なんて言わなかったじゃないか。俺はてっきり子供のことだと思って……」

「ごめんなさい。若奈、よく主語が抜けてるって怒られるんだよね。またやっちゃった」


 腫瘍を子供だと勘違いするなんて、そんなことあっちゃいけないだろ!


 でもそんなことより、問題は若奈ちゃんの病状だ。


「その腫瘍って、だいじょうぶなの?」


「だいじょうぶじゃない。若奈、もうすぐ死んじゃうの」


 俺は目の前が真っ暗になった。

 若奈ちゃんが、死ぬ?


「そんな、いきなり死ぬなんて。まだ十代なのに」

「若いから余計に、病気の進行が速いんだって。悪性の腫瘍がね、いろんなところに転移しちゃってるらしくて。お医者さんから、次の桜は見られないって言われちゃった」


 そんなことってあるか!

 こんないい子が早死にするなんて!


「でもだったらなんで、そんな時に、こんなことを……」

「バージンのまま死ぬなんて、いやだったから」


「だけどなんで俺なんだよ。俺なんか、こんなにダメなヤツなのに」

「そんなことないよ。お兄ちゃんは昔から優しかった。若奈が病気を知って自暴自棄になった時も、お兄ちゃんは優しい言葉をかけてくれたんだよ。それで若奈、残り少ない時間を精一杯生きようって思えたんだ」


 若奈ちゃんはそこまで思いつめていたのに、俺はうまくリードできなかったとか、そんなくだらないことばかり気にしていた。

 小さい自分が恥ずかしい。


「そんなことで、俺を初めての相手に選んだのか?」

「それだけじゃないよ。若奈は前からお兄ちゃんのことが好きだったの。たぶん自分の気持ちに気づいた時よりもずっと前から」


 若奈ちゃんを失いたくない。

 せっかく結ばれたのに、すぐにいなくなってしまうなんてあんまりだ。


「病気なんか、俺がなんとかするよ! いい病院を探せば、きっとなんとかなる! 費用なら、俺がなんとかするから!」

「さんざん調べたから、もう手遅れだってわかってるの。だからねお兄ちゃん、少しの間、若奈のそばにいてくれない?」


「いるよ。ずっと若奈ちゃんのそばにいる」

「じゃあ今だけ、若奈のだんなさんになってくれる?」


「もちろんだよ。俺と若奈ちゃんは夫婦だ」

「嬉しい。若奈、幸せ」




 春になった。

 満開の桜が咲き誇っている。

 花はすぐに散ってしまうけど、だからこそ美しい。


 若奈ちゃんは、あの桜の花みたいな女の子だったな。



 俺のなにが変わったのかわからないけど、俺は以前よりは女性に相手にされるようになった。


 だけど誘いはすべて、断っている。


 俺の生涯で、セックスはあの一回だけでいい。


 その代わり俺は、あの時のことを思い出しながら、自分で自分を慰める。

 それが若奈ちゃんへの供養になるって思うから。


 人に話したら、不謹慎だとしかられるだろう。


 でも俺は、ずっと感じていたいんだ。

 若奈ちゃんがどれほど魅力的だったのか。

 そして俺と若奈ちゃんが、どれほど強く愛し合ったのかということを。



 俺たちが結ばれた時、若奈ちゃんの裸を見た俺は思わずつぶやいた。

「きれいだ」


 すると若奈ちゃんは、顔を赤く染めながら泣いた。

「恥ずかしいよ。でも、ありがとう」


 あの涙を、俺は一生忘れない。

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