第6話 怪談の真実

「おい、大丈夫なのか颯太?」


 放課後、旧校舎に集まるクラスメートや教師や理事長を見て心配そうに新井が聞いてくる。俺は頷き、水を飲みながら緊張をほぐす。


「怪談をまとめた資料、みんなに配ったよ」

「ありがとう森里」

 俺は旧校舎の美術室に集まっている教師やクラスメートを見て、

「さっそくですが、事件のあらましを説明します」


 亡くなった本庄が怪談を調べていたこと、そして三つの怪談について分かったことを伝える。


「そこには当時の位置に絵画が置かれています」

 美術室内の壁にはあの絵画が飾ってある。

「森里、机の上に立ってくれないか?」

「いいけど」

 森里は上履きを脱いで机の上に立った。

「机は子供のちょうど足元の位置にある。野崎先生が見た動く子供が本当に子供だとしたらどうですか? 絵画に落書きしたのは子供だったんです」

「待ってよ。子供だとしても服装が」

「野崎先生、その子供が同じ服装をしていたとしたらどうですか?」

「そんなこと……」

「普通はないです。ですがこう考えられると不思議じゃない。野崎先生が絵から抜け出したと感じるほど、その子供の背格好も顔も服装も同じだった。だから校長先生の子供だったんです。誰も旧校舎に出入りできないこともそれを裏付けている」

「じゃあ、黒い涙の跡は?」

「その子供は校長先生の灰色の瞳と違って黒い瞳だった。子供は自分の絵だと思ったんだ。だから灰色の瞳を黒い瞳に変えようとした。ただそれだけだったんです」

「君の話だと、当時ここに子供が住んでいたことになるが」

 理事長の立川さんが口を挟んできた。

「ええ、そうなりますね。それを裏付けるものとして残り二つの怪談があります。心霊写真の話からしましょう」


 

「この心霊写真も当時子供がここに住んでいたんだとすれば不思議じゃない。ここで生活していた子供が写っていた」

 中二階の踊り場で俺は説明する。

「でも顔つきが違うんじゃないか? 髪の長さもそうだ」

「藤松先生、この顔はどういう顔に見えますか?」

「腫れているな。それも数日かかっているように見える」

「ええ、そうです。子供は暴力を受けていた。おそらく父親の松原校長から虐待を受けていたんです。顔の腫れが引くまで旧校舎に監禁されていたんだと思います」

 みんなが資料の写真に釘付けになっていた。

「その生徒が旧校舎で過ごす様子が卒業写真に紛れてしまった」

「ここで過ごしていたということは寝食できる環境があったということだね」

「はい、それが三つ目の開かずの校長室です」

「鍵はもってきた。解錠しよう」

 理事長が鍵を掲げる。



 校長室は薄暗く埃っぽかった。藤松先生がカーテンを開けると室内に明かりが注いだ。床には埃がなかった。


「埃がないな」

「犯人が最近ここを使ったんでしょうね」


 理事長が野崎先生に囁く。野崎先生は頷いて廊下に出た。警察に連絡しているんだろう。


「校長室の扉には『いえたよ』と文字が書かれていた。その意味は今ならわかりますよね」

いえだよ?」

 呟くクラスの女子に俺は頷いて見せる。

「子供の家はここだった。これまでの情報を整理すると、松原校長には子供がいてここで生活をしていて、さらには校長先生から虐待されていた。三つ目の怪談では松原校長は行方不明になっています。そして校長室の中からは異臭がした」

 クラスメートたちは意味が分かったらしく震えたり、口に手を当てる生徒もいた。

「これは想像でしかないが、子供は身を守るために復讐したんです。そして校長先生はここで亡くなった」


 校長室の角には倉庫のような部屋があった。そこは鍵がかかっていると言われていた倉庫のようだ。扉に手をかけてみたが鍵がかかっていて開かないようだった。


「そこは昔から鍵がかかっている部屋だ」

「おそらく遺体はここですね。異臭もここからでしょう」

「それが本庄さんの死と関係しているんだね」

「はい、子供は父親の死を知られるわけにはいかなかった。そのため、隙を見ては中の遺体や荷物を外に持ち出したんです。それを怪談を調べていた本庄が見てしまい。口封じに殺されてしまった」

 それがあの首つり事件の真相なんだろう。

「犯人は誰なの!?」

 本庄と親しかった女子生徒からの質問だった。

「犯人は二階から本庄の遺体を吊り下げた。しかし、二階から降りてくる人物はいなかった。旧校舎の一階は常に監視され旧校舎からは誰も出入りできなかったんだ」

「じゃあ、どこに?」

「この部屋を利用していたんだ。松原校長の子供だったから鍵も当然持っていた。だから犯人は犯行後、時間が経過するのを待って警察のいる間に旧校舎から抜け出そうとした」


 クラスメートの視線が沢城に向けられた。沢城は真っ青になっていたが笑って、


「颯太くんさ、ご冗談を」

「お前の服装には埃が付いていた。掃除したときに付いたんだろ。校長室の扉には『はるか』という文字があった」

「名前だね」

「はい、はるかと言う漢字はゆうとも呼びます。沢城、お前は改名したんだろう」


 沢城が俺にとびかかろうとするのを藤松先生が羽交い絞めにした。事前に先生たちには犯人を伝えていた。


「あんたが美咲を殺したのね」

「仕方がなかったんだ。あいつ、俺を睨んで腐敗臭がするって言うから」

 沢城は泣きべそをかく。その頬を森里が涙を流しながら思い切りひっぱたいた。

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