英雄譚(17) ヒーローはオイル塗りもします。


『いい? ぜったいに、彼女のソレに気を取られないこと。これはあくまで訓練の一環なのよ。くだらない欲求に、思考を掠め取られないことね』


 ジークフリートが口酸っぱく忠告するところ、ひろとは担任の教師と海に来ていた。

 なぜ海なのかは、彼女にしか知り得ない。しかし理由などはどうでもよく、ひろとは彼女の『ソレ』に、どう対処するか悩んでいる。


「ひろとさん。お待たせしました」


 更衣室から出てきたリリアス先生は、大変、素晴らしい水着を着ている。


 水泳用の黒のフリルワンピースで、胸元は大きく開いている。下は股までの丈で、きわどいラインをフリルのヒラヒラが隠している。白のボレロは肩から胸まで掛かっているが、透過性がよく服としての機能は果たしていない。とにかく、男子のあらゆる欲求を満たす衣装であることは間違いなかった。


「呆然としているようですが、どうしたのですか、ひろとさん」

「いえっ……なんでもありません」

「では、行きましょうか」


 二人は、無人の浜辺を歩いていく。気温が上がってきたとはいえ、まだ夏には早いこの時期では、海水浴場もガラガラだ。贅沢にも、貸し切り状態となっている。


「すみません、ひろとさん。私では、デートに相応しい場所が思いつきませんでした」


「絶好のスポットだと思いますよ。ボクは、人が多い場所が苦手なんです。だから、海で良かったなって」


「そう言ってもらえると、助かります」


 リリアス先生はリリアス先生で、未知な女性だ。彼女の笑顔というのも、ひろとは見た試しがなく、それは無表情というより……知的で、清純で、凛とした花のようだ。


「っ!!? リリアス先生、なにを!?」 


 女教師は、パラソルを砂浜に突き立てると、その下にシートを敷いた。

 彼女はバッグの中から取り出したサンオイルを、ひろとへと突きつけている。


「塗って、いただけますか」


 リリアス先生は何食わぬ顔で、ボレロも脱いでワンピースを腰まで下ろした。


「っ!!?」


 その巨大な煩悩が露わになると、思わずひろとの意識が飛びそうになる。

 でかいとかいう話ではない。

 法外だ。

 形は半球型、上下がバランスよく膨らんでいて、トップはツンと上を向いている。

 手のひらを目いっぱい広げたって、収まり切らない破格のボリューム。

 男子の妄想を具現化したよう大きさのそれに、ひろとは気が動転した。


「どっ、どどどどどっ、どうして隠そうとしないのですかぁ!!?」


 リリアス先生は、「?」と、オイルを差し出したままだ。


「塗らないのですか?」

「いや、その――普通は、シートの上でやるものじゃないんですか!?」

「ひろとさんは、博識なのですね」


 勝手に納得した担任は、あろうことかシートで仰向けになっている。


「こうですか?」


 そんなわけあるかぁ! と、ひろとが素で突っ込みたいほど、彼女は天然だった。


「リリアス先生……逆です」

「方角のことでしょうか?」

「背中を向けるんです! 普通オイルは、背中に塗るものだと思います!!」

「ひろとさん、ご指導ありがとうございます」


 ようやく背中を向けた彼女は……本当に、何なのだろうか。

 リリアス先生の言動は、欲求ありきのユノや結菜とちがう。

 ただただ分からなくてと、無垢の子供みたいな雰囲気がある。


「ちなみに、ボクにオイルを塗らないという選択肢は、あるのでしょうか……」

「その場合は、後日カガリさんから追加で訓練をと――」

「塗ります。分かりました、塗ればいいんですよね!」


 女性の背中にオイルなんて、ひろとは当然、塗ったことがない。

 手探りでオイルを背中に垂らして、ぐにぐにと全面に伸ばしていく。


「っ……」


 背中だ。ボクが見ているのは、ただの背中なんだ。

 そう暗示を掛けねばならないほど、目の前には、豊かな半球がはみ出ている。


 ここからでも分かる。何ならさっき直視したから分かる。このデカさというのは、葵や結菜のソレとは規模がちがう。例えば前者が立派な山嶺だとすると、コレは銀河だ。それでいて、完璧なハリツヤを保っているのだから、美術品の域ですらある。


「リリアス先生……?」


 しかしやはり不可解なのは、彼女が一切の反応を見せていないこと。

 もしも結菜なら、とても嬉しそうにするだろう。ユノだったら、少しは恥ずかしそうに照れるだろう。けれどもリリアス先生は、何のリアクションも出していない。


「塗り終わりましたか」

「えっと……はい、ひと通りは」

「では、今度は前をお願いします」


 くるりと、身体を反転させた担任。

 またもや露わとなった凶器に、ひろとは転倒しながら、


「前は、塗らないものなんですよぉ!」

「しかし、カガリさんからはしっかり塗ってもらうようにと」

「ぐっ……」

「漏れがあった場合は、後日に訓練を行うとのことです」


 これに危機感を覚えたひろとは、大人しく指示に従うことに。

 落ち着け。冷静になってみろ。ボクはただ、オイルを伸ばしているだけだ。

 ひろとは無心をつとめながら、たらりと冷たいオイルを垂らす。

 それを自分の指に絡めて、十分な温度になったら身体へと広げる。


「すみません。伸ばしにくいですか?」


 なぜかオイル中のリリアス先生が謝っている。

 彼女には一切の経験がなく、また、男子との接点もなかった。

 そもそもひろとの恥じらいなどは、考えも及ばぬように真顔である。


「い、いえ、そんなことは……」

「お気になさらず、手を付けてください。これはただの、オイル塗りなのですから」

「そ、そうですよね! ただの、オイル塗りなんですよね!」


 そうやって自分を言い聞かせながら、ひろとは彼女の前面に照りを広げていく。

 ぬちゅぬちゅといやらしい音を立てながら、大いなる肉へと触れるひろと。

 柔らかい。これだけのスケールを誇りながら、固くないことに愕然とした。

 少し指先を添えただけで、ずっしりと中まで埋まる。

 

「ひろとさん。オイルが、足りないようですね」

「はっ、はい! 直ちに、追加します!」


 たらりとオイルを垂らして、手で温めていくひろと。

 それを柔軟かつ法大な双丘へと伸ばしていくと、それはぽよんぽよんと液体のごとく跳ね、ひろとは咄嗟に顔を背けた。


 あまりにも刺激が強すぎる光景だ。頭がぼーっとしてきて、何も考えられなくなる前に、ひろとの自衛本能が働いた。


「ひろとさん?」

「い、いえっ……その、目にゴミが」

「それは大変ですね。炎症を起こす前に、取り除かないと」

「えっ?」


 リリアス先生はおもむろに起き上がり、ひろとを押し倒して馬乗りになる。


「わ、わわわわわっ!」

「ひろとさん、目を開けてください。ゴミは炎症を引き起こす原因になります」


 前かがみになりながら、ひろとの顔へと迫るリリアス。

 豊満にすぎる双山が視界の大半を埋め尽くし、ひろとは目のやり場に困る。


 リリアスがひろとの目を確認しようと、精いっぱい確認するほど、むぎゅむぎゅと贅沢な肉の霊峰が押し付けられる。そこにオイルが絡まって、ぐちゅぐちゅといやらしい音へと変わる。


「ひろとさん、視力を確認しますね。どうですか、ちゃんと見えていますか?」


 もちろん、くっきり見えている。

 リリアス先生の、大きな、大きな果実の頂点で咲く、桜色。

 そのピンクさは、滴るオイルさえも弾くように煌めいている。

 やや大きめの円だ。彼女の豊かな体積に比例しているのだろう。

 しかし、桜の山に先端は立っておらず、山の中に埋もれている。

 触ったら、埋もれたそれが顔を出したりするのだろうか?


 そんな煩悩が脳裏に過り、いよいよひろとが失神しかけたところで、ひとりの少女がスッと実体化する。


「あら、随分と呑気な《訓練》なのね。とても、集中しているようには、見えないのだけれど?」


「フー……」


 久々に見たジークフリートさまのご尊顔は、それはそれは、おっかなかった。


「全て終わったら。分かってるわよね? ヒロ」

「ち、ちがっ! ボクは、ちゃんと訓練通りにやっただけで――」

「しかし、竜殺しさま。まだ、私のオイル塗りが終わっていません」

「誰がやるかまでは、指示されていないのよね?」

「はい、その認識で間違いありません」

「だったら、わたしがやるわ」

 

 ジークフリートは、乱雑に先生の身体へとオイルを塗りたくって、「ふんっ」と、怒りをあらわにしたまま消えていった。


「ありがとうございます、ひろとさん。これで私のデートも済みそうです」


 一大イベントを終えた後、二人はパラソルの下で座り込んだ。


「気にしないでください。というか、ボクも気にしないように頑張ります……」

「どういう意味ですか?」

「いえっ……なんでもないです」


 数々のラッキースケベが続いて、ひろとも一旦、落ち着きたいようだ。年頃の男子なら、オカズが多すぎて消費するティッシュの箱は三桁に到達しているかもしれない。だが……自分は、英雄だ。そんな不純なことはしないと、ひろとは無駄に強固な決意を胸にしている。


「ひろとさんには、自分のことを話してもいいと、許可されています」

「その許可って、カガリさんにですか?」


「はい。私は、教師として何もかも……いえ。存在そのものが偽りですから。英雄となるあなたにも、是非理解していただきたい」


 リリアス先生は杖槍を顕現させて、その切っ先を睨んでいる。


「偽りだなんて、そんな……リリアスさんは、ボクたちの先生じゃないですか! 先生には、教師としての資格もありますし、卑下する必要は――」


「教員免許も、偽造のものです。これもカガリさんに、用意してもらいました」


 え? ……どういうこと?


 教師じゃない……いや、そもそもリリアスさんは、明らかに容姿が若すぎる。

 その違和感に、ひろとはようやく気付けた気がして――。


「すみません。そもそも私は、まだ教員免許を取れる年齢じゃないんです。私は今年で一八歳。これまで学び舎とは、程遠いところで過ごしてきました」


 教員免許は、最短で取っても二〇歳。

 リリアスの告白が事実だとすると、教師になることは不可能なはずだ。


「お聞かせていただいても、よろしいですか。リリアス先生が、聖華学園に来る前のことを」


「できれば、先生とは呼ばないでください。私は、教師ではないのですから」


 リリアスは立ち上がって、蒼穹の空を見上げる。その眼差しはこの時も揺るぎなく、むしろどこか痛々しくも見えた。


「五歳の頃、私の両親は、反英雄によって殺されました。それがきっかけで、私は【忌物狩り】へと入隊し、世界中の反英雄を刈り取ってきました」


 リリアスの声音は、ただ事実を告げているだけに過ぎない淡々としたもの。

 そこには殺意も憎悪も込められておらず、だとしたらその瞳には、何が映っているのだろうか。


「一〇歳になった時、私は既にこの世界の殺し屋でした。両親を殺めた相手への復讐も果たし、以降も忌物を排除してきました」


 彼女が初戦で見せた速攻は、リリアスが元々、有していた努力と才能のひとつ。

 殺しを生業としてきたリリアスに、魔法戦士の因子は、良くも悪くも相性が良すぎた。


「普通とは、何なのでしょうね。私は、殺しに慣れ過ぎてしまいました。いまさら、血に塗れた道からは逃れられない。そう思っていたはずが、ひょんなことから、偽りの教師を始めるようになりました」


 もしかして善意が芽生えたとか、やり直したいとか思ったのだろうか。


「カガリさんに、決闘で敗北しました。その時の約束が、学園で教師を務めることです」


 残念ながら、ひろとの見立ては違っていた。

 彼女は自らの意思で人殺しを止めたのではなく、ただ止めさせられただけ。


「聖華学園の教師である限り、命を奪ってはならない。カガリさん曰く、『普通は』、命を重んじるそうです。けれど、私はちがう。悪党など、殺してしまえばいい。今回の件についても、一匹残らず殲滅するべきだと考えています」


 ……やはり、未だ彼女の奥底には、復讐と憎悪がこびりついているのだろう。

 その生き方が間違いで、歪なものだったとしても、仕方のないことだとも思う。

 けれどひろとは、リリアスさんには違う道を行ってほしいと願った。


「リリアスさん。あなたは……ボクの、命の恩人です」

「もちろん、助けますよ。ひろとさんは、反英雄ではないのですから」

「ちがう……」

「なにが、ちがうのですか?」


「もしも、あの時倒れていたボクが、反英雄だったら。リリアスさんは……ボクを殺していたのですか? ……ボクは、そうは思えません!」


 リリアスさんは押し黙り、けれどその沈黙ごと振り切るように首を振った。


「もしもの話ですが、悪党なら、後で殺していたでしょうね」

「けれど、アイスストームは殺していないじゃないですか」

「それは……カガリさんとの約束があったからです」

「教師だって、続けているじゃないですか!」

「……それも、同じことです。私は――」


「あの日、咄嗟にボクを助けてくれたことが、彼らを殺さなかったことが、教師を続けていることが、ボクを優しく導いてくれたことが、全て偽りだったというんですか!?」


「……」


 リリアスさんは答えない。

 彼女にとってそれは、よほど難解な問いだったのだろうか。

 眉間には、峡谷のごとく皺が寄っている。


「本当は、やり直したいんじゃないんですか」

「……分かりません」

「殺し以外で、歩める道があるのならって、リリアスさんは」

「分かりません」


「でないと、復讐の化身となっていたのに……それは約束ひとつでやめられるほど、軽かったものなんですか! 本当は、もうこんなことはしたくないって、だから」


「分からないと、言っているじゃないですか!!!」


 それは、胸が張り裂けるような思いで放たれた絶叫だった。


「私はこれまで、ずっとそう生きてきたんです! お父さんと、お母さんは、なにも悪いことはしていないのに……だって、そうでしょう!!? 私は、殺すしかなかったんです!! それなのに、私はっ……なんの、ために。どうして……こんな、ことを……」


 烈火の怒声は、みるみる内に萎んでいき、最後は木の葉が落ちるような吐露に変わった。

 あるいは彼女もまた、居場所を求めているだけなのかもしれない。

 復讐の鬼として生きていても、結局、その先にはなにもない。だけれど自分にはもう、いまさら過ぎる。そんな諦めと後悔が、根底にあるんじゃないだろうか。


「っ……ひろとさん!」


 一転して、リリアスは構えを取った。


「あァ? んだよ……せっかく、殺し得な場面だのによ」


 高速で迫る、七連の火球。

 彼女はそれを全て正確無比に捉え、薙ぎ払った。


「リリアスさん。新手……でしょうか」

「そのようですね」


 空中に浮かんでいる赤目・赤髪のオールバック男は、両手に炎を灯している。


「リントブルムが司るのは、氷と嵐。劫火を使役できる権能は、ないはずですが」


 リリアスの問いに構わず、男は次々と火球を放る。しまいにはミサイルのような形状の火筒を生成。それらは一斉に射出されて、浜辺は煙と轟音に呑み込まれた。


「ゲェアハハハハハハ! ベラベラと、悠長にお喋りタイムですかぁ? こいつぁ、最ッ高に殺し得だぜぇ! ゲァハハハハハハハハェァ!!!」


 男の下劣な哄笑は、砂塵が晴れると共に消えていった。


「【上級因子】……この火力だと、二級でしょうか」


 またしてもリリアスに阻まれて、男はペッと炎の痰を吐いた。


「待てよ……金髪爆乳で、杖槍使い? てめぇ、【忌物狩り】のリリアス・アマリアか」


 どうして男が、そのことを知っているのか。

 アイスストームは、リリアスさんの正体を知らなかったはずなのに。


「リリアスさん」


「はい……どうやら、別勢力のようですね。本当の私を知っているということは、それなりに内通した者でないと、あり得ません」


 男は、狗のように舌を出して爆笑する。


「ゲェァハハハハハハハァ! こいッつぁ、驚いたぜェ! 人殺しが、どうしてガキを連れてるんだァ!!? なァ、オぃ! その頭の悪ぃくらいでけぇ乳で、ガキでも産んだってのかよォ!」


「――撤回しろ。リリアスさんは、もう人殺しじゃない。その悪口も不愉快だ」


 男は、「ァ?」と、目を向ける。

 生意気にも、小さな、小さな子供が、自分を睨んでいるではないか。


「劫火の竜を信仰する派閥、【終炎の兆しデスペラード】。日本支部のリーダは、その悪辣さから、【醜悪な烈火フリオース】と呼ばれているのでしたか。しかし彼の邪気濃度からして、そのリーダー本人ではないようです」


 男はリリアスの言葉も無視して、べろべろと涎を垂れている。


「ハッ、バカかァてめェ! どんな理由があれ、人さまを、ぶっ殺したって事実は、変わりねェだろうよ! そいつァ、俺と同類、快楽に溺れた殺人鬼さァ!」


「ちがう、お前と一緒にするな!!」


 ひろとは、怒りに犬歯を剥き出しにしながら、


「リリアスさんはいま、地獄の底から這い上がろうとしてる! お前のような悪人がいたから、リリアスさんは苦しむ羽目になったんだ! 間違っても、お前たちと同じじゃない!」


 ひろとが怒れば怒るほど、男は愉悦めいた哄笑を轟かせる。


「いいねェ、いいねェ、痺れちゃうよォ少年! こいつぁ、面白ェもんが聞けた! 殺す前の、生かし得ってことだよなァ!」


 負けるわけにはいかない。

 こんなやつにこそ、ヒーローは負けるわけにはいかない。

 ひろとが決意を固める半面、ジークフリートは冷静に状況を見定めていて、


『引きなさい! 彼はまだ、ヒロが敵う相手じゃないわ!』


「ごめん……これだけは譲れないよ、フー」


『いい? いくら英雄の資格を持っていても、一朝一夕で勝てる相手じゃ』


「今は、リリアスさんもいる。弁えているよ、ボクだけじゃ勝てないってことを」


『お願いだから、聞きなさい、ヒロ! 彼は――』


 ゲェァハハハハハハハハハハハハ!!!


 男の増幅していく邪気に当てられて、その忌々しい笑い声すらも、大きくなっていくような錯覚に陥ってしまう。


 なんだ……この、悪寒は。

 マズい、本能が逃げろと報せてくる。

 だけど彼は二級因子のはず……こっちには、同格のリリアスさんが――。


「仕込みは終わってんだよ、ゴミムシども」


 ぬるりと、いつの間にか二人の背後に立っていた男は、


「っ!!? 残像……いや、分身ブラフ!?」


 先までの男は分身体で、この隙に本物の男が二人の背後を取っていた。


「く……っ!」


 咄嗟にリリアスとひろとが反転したが、その影すらも偽物で、攻撃が当たる同時に炎と消えた。


 本物の男は、悠長に浜辺を歩きながら、


「同格だと思ったかァ? こいつぁ、最ッ高に演じ得だ」


 唐突に膨れ上がる、男の邪気密度。

 この莫大なオーラからして、二級ではなく一級因子……格上だ。

 男はあえて邪気を制限し、戦力差を見誤らせたのだろう。


「「っ!!」」


 しまったと、二人が駆け付けようとしたときにはもう遅い。

 男が右手を上げた瞬間――。


「【終炎の兆しデスペラード】の一級因子、フリオースとは、俺のことだァ」


 浜辺どころか、海岸沿い全域は、何もかも劫火に呑みつくされた。


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