東京ジークフリート ―エッチなロリお姉さんと素肌を重ねていたら、大英雄になっていました。陰キャなボクが、お姉さんたちと裸のお付き合いでLvUP、英雄として世界の悪と戦います―

ぶらっくそーど

英雄譚(始) ヒーローは死なない。


 ――東京都内 某国立博物館――


「すごい……これが、あのジークフリートの……」


 中学二年生の小峰大翔こみねひろとは、ある展示物に釘付けにされている。


 ガラス越しに見える錆びた大剣は、北欧神話の【竜殺し】こと、ジークフリートがかつて手にしていた物。そしてこの遺物は、科学者が言うには【本物】らしい。ジークフリートのモデルとなった人物のDNAが一致したとか何とかで、大英雄の武器を一目しようと、大勢の人たちが押し寄せている。


「ひろとくんも、この《遺物》に興味があるの?」


 笑顔を振りまいている美少女は、同い年の、芹澤葵せりざわあおい。淡い青色の頭髪を、サッとたくし上げながら、はにかむ彼女は、明らかに自分が可愛いことを理解している。いい大人が見れば「あざとい」と言うだろう。


 しかし、人生=女子と関わったことのない歴のひろとからすると、その仕草ひとつで、心肺停止ものだった。


「え、えとっ……あっ、そ……そう、なのかな?」


 困るとなぜか疑問形になってしまうのも、コミュ障の性なのである。


「もう、いまは私が聞いてるんだよ?」

「あっ、そ、そうだったね!」

「でも、ほんとに大丈夫? 顔が真っ赤だけど……?」

「そ、それは元からだよ!」

「ふぅ~ん。ひろとくんって、可愛いんだね♪」

「か、かわっ!?」

「ほらほら、頬っぺたとか真っ赤だし♪」

「や、やめてよ、葵さん……うううぅ……」

「やめてあげないよ、ひろとくん♪」


 葵はまるでペットを可愛がるように、ひろとの頬っぺたをツンツンしている。それもひろとの小柄さが原因だろう。


 ひろとは、中学二年生になっても、身長150センチもない。細身で、声変わりもあまりしていなく、極めつけに超童顔。おかげで先日、バスに降りる時に「子供料金は半額だよ」と車掌さんから余計なアドバイスを貰ってしまった。そんなお子さま対応に、ひろとはほとほと飽きれ果てていたのだが、こんなご褒美があるのなら悪くはない。


「本当に可愛いね、ひろとくんは♪」

「うっ、うわわわっ……葵さん!?」


 むぎゅむぎゅと強引に抱き寄せてくる葵と、その胸で顔から埋れるひろと。


 女子の中でも葵はかなり発育がいい方で、その贅肉は至宝にも優る。顔をたっぷりと埋め尽くす弾力、それでいてハリがあり、新雪のように柔らかな感触……。


 ひろとも思春期真っ盛りだ。女性の胸には、多少の興味もある。

 しかし想像を絶するこの軟らかさには、さしものひろとも面食らっていた。

 わたあめの如く繊細かつ、豊かなハリ……葵が胸を揺らすだけで、ぶるんぶるんっと二次元でしか聞かないような誇張した音が鳴り、その胸にまたひろとは埋まる。


 バレーボールほどの大きさもあるのに、果肉は垂れることもなく完璧な形を成し遂げて、アクセントをつけるように花房はピンッと頂点で突き立っている。


 そんな男子の夢を余すことなく味わい、むぎゅむぎゅと、いまも双山に揉みしだかれているひろと。誰がどう見ても、至福の瞬間である。


 しかし幸せな時間ほど、そう長くは続かないものだ。


「あっ、そろそろ行かなくちゃ!」

「えっと……葵さん、どこに行くの?」

「ううん、気にしないで! すぐに戻ってくるから、ひろとくんは待っててね♪」

「そっか……いってらっしゃい!」


 ピンポンパンポーンと、アナウンスが鳴った。どうやらジークフリートの大剣、【バムルンク】の展示時間が終わるらしい。搬送係が、展示物の移動を始めている。


「葵さん……ボクを誘ってくれたのは嬉しいけど、でも、どうしてなんだろう……」


 自分と葵は、今日まで接点がなかった。

 ひとり寂しく、博物館を歩いているところ、葵から声を掛けられたのだ。


『ねぇ、ひろとくんって、遺物に興味があるの?』


 しどろもどろに受け答えしている内に、二人で博物館を回ることに。

 しかもこれは、一対一の、いわゆるおデートなんじゃないか。そう思うと、バグンバグンと動悸が激しくなって、ひろとの顔は火が出たみたいに熱くなっている。


「まあ、理由なんて、なんでもいいよね。葵さんに誘ってもらえただけでも、嬉しいことなんだし……」


 学校一の美少女。歩くVtuber。TikTokの悪魔。特級乳物。


 呼び名は様々だが、他校の葵がとんでもない美少女だということは、ひろとの学校まで伝わっている。


 葵さん、遅いなあ。何してるんだろう……。


 なんて考えながら、彼女とのデートを待ちわびている時のことだった。


「っ!!?」


 大気を震わす炸裂音に、ズンと重たく響く衝撃波、悲鳴を上げて倒れ込む人たち。


「これは、いったい……ううん、いまはこうしている場合じゃ!」


 いまの衝撃によって、彼女が巻き込まれているかもしれない。

 そう思うと、ひろとの身体は勝手に動き出していた。


「いま直ぐ、葵さんを助けに行かないと!」


 展示場を抜けて階段を下り、長い渡り廊下を走破していく。

 どうして、その場所に向かったのかは分からない。


 ただ、【何か不吉な予感】をひろとは感じ取っていて、彼は博物館のバックヤードを抜けた先の収蔵室へと直行していた。

 慣れない全力疾走で体力は切れ、息も荒く、喉元からは鉄の味が込み上げてくる。

 それでも、こんな自分を《一緒に見て回ろう》と誘ってくれた彼女を、諦めることはできない。


 そうしてひろとは収蔵室へと辿り着き、望み通りの人物と再会を果たす。


「葵、さん?」


 だが、そこに立っている少女は、ひろとの知っている芹澤葵などではなかった。

 

「どうして、来ちゃったの? 待っててねって……言ったのに」


 竜の蒼き双翼が、明かりの消えた一室の中で煌めいている。

 全身は竜の青鱗で覆われて、腰からは殺気を迸らせる竜の尻尾が生えている。

 額には冠のような存在感を漂わせる二本の角が、天を向いて突き立っている。


 どこからどう見ても、人間ではない。

 しかし彼女の豊満な双丘とその声音から、ひろとはアレが葵だと判断できた。


「見ちゃったんだね……残念だよ、ひろとくん」

「えっ……あっ……その……どう、して? なんで、葵さんは、そんな姿に――」


 ドッと、何かに刺し貫かれるような感触がひろとの胸郭に伝った。


「……え?」


 自分の胸に、剣が突き刺さっている。葵は先まで会場に展示されていた【バルムンク】を手に持って、ひろとの胸を貫いていたのだ。


 しかしその光景が、どこまでも非日常すぎて、少年はまじまじと凝視しても、これが現実で起きたことだと認識できない。


 それでも、いま確かに胸部から溢れ返っている鮮血と、じわりと滲み出す額の汗、総身を蝕む甚大な痙攣、後からやってきた激烈な熱さと痛みに、ひろとは、いよいよ《刺された》のだと理解した。


「葵さん……どう、して……なん、で……ボクを……」


「目撃者は、消す。それが、私たち……【反英雄】の、掟だからね」


 葵が大剣を引き抜くと、どばどばと壊れた蛇口みたく血が溢れ返ってくる。

 未だ混乱の拭えない状況の中でも、ひろとの生存本能が脳裏に警鐘を鳴らした。


 このままじゃ死ぬ……ボクは、芹澤葵によって殺されるのだ、と。


 そうしていま、芹澤葵はバルムンクを手に構えている。

 ひろとにトドメを刺すつもりなのだろう。

 今すぐ逃げろ、このままじゃ殺される……。

 でも、どうやって、いいから……早く、早く逃げるんだ!


 差し迫る死の恐怖に、幾重もの思考を巡らせるひろとだったが、彼に与えられた選択肢は、あまりにも少なく――。


「葵、さ……」


 無慈悲にも彼女は、最後の一撃をもってひろとの心臓を突き破った。

 何の興味もない、ひどく冷め付いた横顔のままで。


「残念だけど、それ、レプリカだったみたい。【英雄】の声も聞こえないし、気配も感じない。あーあー……ほんとに、残念。どうして、ひろとくんは……」


 最後に溜め息をひとつ残して、葵はひろとの前から立ち去っていった。


「ク、ソ……嫌、だ……ボクは、まだ……こんな、ところ……で……っ!」


 今さらどうあがいたところで、ボクは絶対に死ぬのだろう。

 そう理解した上で、ひろとには諦めきれない夢があった。


 まだだ……まだボクは、死ぬわけにはいかない。

 そもそもどうして、自分は博物館に来た?


 小峰大翔は、【英雄】に憧れていたからだ。あの日、何も出来ずに逃げたした自分を許せずに、ボクはヒーローになると決めた。


 その夢も果たせていないのに……こんなところで、死んでたまるか!


〝あら、殊勝な心意気ね。だったらその願いを、あなた自身で叶えてみせなさい〟


 小さくもよく通る、凛とした少女の声音だった。


「……だ、……れ?」


 しかし、ひろとはもう意識を保っているのも限界で、


〝その手を、離さないことね。わたしと繋がっている限り、わたしはあなたを死なせない。あなたは生き永らえて、今度こそヒーローになるの。……どう? なかなか、いい話だとは思わない?〟


 うんと、ひろとは朦朧とした意識で答えた。

 彼女が何を喋っているのか、自分がいま、どこにいるのかも分からない。

 だが、己の心臓に突き刺さった大剣、その刃からは自然と手が離れなかった。


「契約、完了……これでもう、大丈夫かしらね。いまはゆっくりと休みなさい」


 ウトウトと虚ろな意識の中でまみえた少女は、誰なのか。


 淡藤色の長髪、慎ましい胸部の膨らみ、線の細い身体、自分よりも低い背丈……。

 ツンと立った綺麗なピンク色の峰が視界に入り、少女はくすりとひろとに微笑む。

 これまで目にしたこともない、絶世の美少女の裸だった。

 そんな絶景を最後に、ひろとの意識が落ちる。


 その日、小峰大翔は、たしかに【死んだ】。

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