五話 きっと心配しているでしょう
三人が乗る車は公道の流れに乗り、やがて月乃の自宅近くまでやってきた。
しかし、ふたりは月乃の自宅には行かず、近くのコンビニに停車する。
「よしっと。月乃ちゃんごめんね~? ここからは歩きになるんだ」
祭に謝られた月乃は、大丈夫だと口にしながら車を降りる。
「ならよかった。……あ、なごちゃん! 駐車場借りたお礼に買い物しといてよ」
「……いいけど……」
「なんか女の子が好きそうで~、落ち着きそうなやつを買っといてね~! んじゃ!」
和に車のキーを投げると、祭は月乃をおいでおいでと手招く。
「月乃ちゃんの家に、案内してくれる?」
「はい――でも、和くんは……」
「ん~? 別行動。知らない男がふたりも着いてったら息詰まるでしょ」
「え、えっと……」
自分のことは別として……知らない人をふたり伴って家に帰れば両親は驚くだろう。月乃がそんな風に考えつつも、なんと答えるべきか迷っている間に和はコンビニの中に入っていき、祭も歩き出していた。
「月乃ちゃーん?」
名前を呼ばれて、月乃はハッとして小走りで祭のもとへ駆け寄った。それからは、祭が月乃の歩調に合わせるように速度を落としてくれたので、並んで歩く。
「なごちゃんが気になるの?」
「え……? い、え……そんなことは……!」
祭は悪戯っぽい笑みを浮かべて月乃に話しかけてきた。
思いがけない問いかけに月乃が否定すると「でも、コンビニで見てたよね」と突っ込まれる。
ただ、なんとなく見ていただけで深い意味はないのだが――。
「月乃ちゃんは、なごちゃんがお気に入りかぁ~。おじさん、脅かしすぎて嫌われちゃった?」
「え……」
さらにややこしいことを言い出す祭に、月乃は言葉を詰まらせる。祭には怖い思いをさせられた。それは事実だったからだ。
彼には優しそうという印象を持ったものの、それはあくまで最初だけ。
月乃の中で祭という人物の印象は数時間のうちに「優しそうだけど、実は一癖あるイケメン」に変化している。
今だって残念そうな素振りを見せているが、本気ではないだろう。
「いえ……そういうわけじゃ……!」
それでも月乃が曖昧に否定すれば、祭はへらりと笑った。
「そう? う~ん、なごちゃんにもようやく出会いが! と思ったけど、春はほど遠いかぁ~」
「……大上さん、わたしのことからかってますよね?」
「あはは、まさかぁ。少しでもリラックスしてもらおうと思っただけだって。それと、祭でいいよ~。大上さんとか呼ばれると、肩こっちゃって」
「……はぁ、祭さん……」
「うん。気軽にそう呼んで~」
のらりくらりとした男は、横断歩道を渡った先の角をまがれば自宅が見える距離までさしかかると「あ、信号変わりそう」と月乃の手を引いた。
そして横断歩道を渡りながら、ポツリと一言。
「月乃ちゃんの家族さぁ、捜索願いとか出してないんだよね」
「――え」
「お~し、間に合ったねぇ。さ、お家に行こうか」
ざわりと胸騒ぎを覚えた月乃の手をはなし、祭は笑った。
「ん? どうしたの? 行こう?」
たった今、自分が口にしたことなどなかったかのように、それまでと変わりなく笑う。
月乃もぎこちなく愛想笑いを浮かべ頷くと、歩き出す。
――もうすぐ家だというのに、なぜだろうか。急にここから進みたくないという感情がわいてくる。
きっと両親は心配している。
そう。そのはず。
そのはずなのに。
「日曜日なら、ご両親は在宅?」
「あ、はい。買い物とか行ってなければ……」
「オッケー、了解。じゃあ――」
角を曲がり、我が家が見える。あと少しの距離で、祭が立ち止まり最後の確認をしてきた。恐らくこの時間なら両親ともに、あるいは片方だけでも在宅だろう――いつも通りならば。そう思って安易に頷いたものの、待てよと月乃は考えた。
今は自分が行方不明なのだ、もしかしたら心配してふたりとも警察などに行って不在かも知れない。
「……ぁ、だけどもしかしたら……」
祭にも伝えようと月乃は口を開いた――その時だ。
「先に行って鍵開けておいて」
聞き馴染んだ声がした。
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