第6話 バスケットシューズを盗むおじさん
ここのところ
「最近、バスケットシューズを盗まれた」
「また起きたぞ」
「ここのところ多いな、何件目だ」
学校を中心に一般住宅でも被害が出ている。いくつかの掲示板を見て回るがどこもその話題で持ちきりだった。
「なんだって靴なんか盗むんだ。しかもたくさん。売るつもりにしては高い物だけを選んでというわけでもなさそうだな」
「学校なら自販機が設置してあるんだろう。それならすぐ横にごみ箱があるはず。ちゃんと捨てるべきだ」
と正義感を小さく怒らせる。小さなことでも間違ったことは正さなくはいられない深車。自販機を探しそばのごみ箱に缶を捨てる。
体育館の周囲を調べているとその時ちょうど怪しい人物に遭遇した。
見るからに不審な男はあたりの様子をうかがうように動きがせわしない。隠れるとも何かを探しているともつかない感じでうろうろしている。中年でオールバックにした髪は少し後退しており白髪まじりだ。体格はがっしりしているが腹が出ている。顔を隠す様子もなく眼鏡さえかけていない。
深車はすばやく車に駆け戻り持ってきていたスーツを着込む。そのつもりで来ているので装着には手間取らない。口をすぼめスピードを出しつつジャンプを織り交ぜ体育館に戻るとまだ男はいた。
「あらわれたぞ口すぼめマン」
鋭く威嚇すると不審な男はあきらかにうろたえ、逃げようとしたが
「逃がさん。逃げられると思うな」
と言うやいなや口すぼめスピードで相手の行く先に立ちふさがった。
不審な男は歯ぎしりをし腰のあたりに手をやる
「何者だお前。余計な邪魔をするな」
ズボンのベルト通しに隠していた細い鎖を抜き出しだらりと垂らした。
この男は人と戦うことに慣れているようには思えない。当たらない距離でブン、ブンと振り回し始めた。
「くそっ」
らちが明かないと思ったのか覚悟を決めて口すぼめマンに向かってきた。鎖でひっぱたこうとしてくるが大ぶりの攻撃ばかリで簡単にかわした。格闘経験のまるでない蹴りもしてきたが当たりはしない。鍛えていないただのおじさんの
「ううー」
男はうめき声を出しこちらをにらんでいる。
「最近バスケットシューズを盗まれる被害が相次いでいる」
「あ、ああ。俺だ。俺が盗んでいる」
「一応聞いてやろう。なんでそんなことをするんだ」
「あんたに行ってもしょうのない事だが盗むのが楽しいんだ。楽しくて仕方がない。ほかの事が考えられなくなった」
深車は少し考えて言った。
「盗んで売っているんじゃないのか」
「いや、そういうんじゃない。集めているんでもない。盗むのが楽しい、もうそれだけだ」
またおかしなやつが現れたな、深車は思う。
「売ってもいなくて捨ててもいないんなら全部もとの持ち主に返すんだ」
男はうなだれて荒い息を続けていた。
口すぼめマンはベルトから網を取り出し手錠のように男を拘束し体育館の近くの柱に結び付けた。そのうち生徒が気付き教師らに伝えるだろう。
口すぼめマンは素早い動きで車に戻り服に着替え用事がすんだことを職員に伝えると車を発進させた。心なしかエンジン音がくもって聞こえる。
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