第56話ゾディアックビーストの秘密
アナタはアイドルに『念仏を唱えられた』ことがありますか?……俺はある。
ファルセイン城下町の、俺たちの家……
ベットの上に寝かされている俺。
マキアが、泣きながら俺の手を握っている。
「ううぅぅ……マスター、なぜこんなことに……私はこれから、どうしたら……」
「マキア……」
横で、ミユキがマキアに寄り添っている。
メンバーも全員、俯いたり、涙ぐんでいる者も……
「ぐすっ、ぐすっ……」
アンジュの肩に乗っている神魔が、俺の方を見ながら静かにしゃべり出す……
「そろそろ……いいんじゃないか?ギガっち」
「えっ」
俺は、おもむろに、むくりと上体を起こす。
「マスッ……」
目を開き、神魔の方を向き、俺も静かにしゃべり出す……
「……俺、なんで生きているんだ?」
「マスターーーーッ!?」
マキアもメンバーも、びっくり仰天。
みんな俺に抱きついたり、顔を触ったり、足を確かめたりしている。
アンジュ、俺に合掌して念仏を唱えるのはやめなさい、生きてるから。
「いやー、こんなにうまくいくとは思わなかったギャウ」
「やっぱりお前の仕業か、神魔」
「はいはーい、やったのは私でっす!」
手を挙げているのは、スライムのマロンだ。
「スライムのマロンに、ギガっちが闇市で見つけた『オモチャの剣』の構造を覚えてもらったんだ。
その後で『マキアカリバー』そっくりに変身してもらっていたのさギャウ」
……当たると刀身が引っ込んで、さも刺さったかのように見える、あのオモチャか。しかもご丁寧に、こんなに大量の『血のり』まで……
「アクトのやつが現実世界の自宅に侵入したときに、万が一の時のためにマロンに変身してもらったんだ。そのまま本物の『マキアカリバー』とすり替えて、マキアのそばにいてもらったというわけギャウ」
なるほど、マキアのことも守れるし、まさに一石二鳥の作戦だ。
ただ、俺にも一言伝えておいてほしかった……
「さすがはスライムのマロンだ、俺もまったく気づかなかった」
「我ながら、いい変身だったと思いまっす」
マロンは、一度マキアカリバーに変身して、また元の姿に戻ってみせた。
「知っていたのは、オレとヒマロンと、あとはミユキの三人だけだ」
神魔が、ミユキの肩に乗る。
「ミユキ、お前もか」
「はい、黙っているのが大変心苦しかったです」
この満面の笑顔、ホントかなぁ……
まあ、アナライズするまでもないけど。
神魔は今度はそのまま、俺の肩に乗ってきた。
「アドバンスドアーツの枠、『転魂術』にしたんだな……
現実世界のマキアから、異世界のマキアの魂を抜いて、異世界のマキアの体に戻す……かなり危険を伴う作戦だったなギャウ」
「マキアを助けるには、この方法しかないと思った……俺も、命をかける必要があった」
「マスター……」
マキアが泣きながら俺を見つめる。
「いろんな人の助けがあって、無事マキアを救出することができた、みんなありがとう」
神魔や、メンバーのみんなも、少し照れ臭そう。
「そういえば、マスター」
ミユキが、ノートパソコンを持ってきて、俺の前で画面を開いた。
「先程の戦闘をドローンで撮影していたのですが、三将軍の後ろに見たことのない人たちが数名立っていたんです。ちょっと確認してもらえますか?」
「見たことのない人たち……?」
ノートパソコンの画面を見ると、確かに見たことのない外人顔の、中年くらいの人が五人ほど立っている。
「これは……?」
俺は自分の記憶を頼りに、パソコンの検索サイトで検索をかける……
パソコンの画面には、ドローンの画像とそっくりの人が映し出される。
「マスター、この方は?」
「現実世界の現米国大統領、『グリーン・L・マクドウェル大統領』だ……ニュースで見たことがあった」
「現役の大統領!?」
「おそらくドッペルゲンガーだとは思うけど、なぜこんなところに……?」
「他の方はどうですか?」
「他の四人も、テレビのニュースとかで見たことがある……」
俺はまた、パソコンで検索をかける。
「この人は『バーンズ国防長官』、国の軍事関係のトップの人だ」
「軍事関係のトップって……」
「こっちの白髪の人は『陸軍参謀総長のストーンフィールド陸軍大将』、陸軍の司令官だ」
「高齢の方のようですが、筋肉ムキムキですね」
「こっちの女性は『空軍参謀総長のミラー空軍大将』、女性初の空軍司令だ」
「女性で空軍指令って……凄い」
「反対にいる人は『海軍参謀総長のクリストファー海軍大将』、海軍艦隊の提督でもある」
「怖そぉ~、なんかキセルみたいの吸っていますぅ……」
「錚々たる面々だな……ほぼすべての軍事力を指揮する、最高の軍関係者たちだ」
「そんな人たちのドッペルゲンガーを味方につけるなんて、余程のことを計画しているのでしょうか?」
「異世界で、戦争を仕掛けるぐらいだからな」
俺はノートパソコンの画面を閉じ、神魔やメンバー達に聞く。
「この広い異世界で、そもそもどうやって目的のドッペルゲンガーを捜し出したんだろう?」
俺の肩に乗っていた神魔が、考えながら話し出す……
「たぶん、『
「『
「『
使用者が探している人物やアイテムの位置を、自動で見つけ出すことができる」
「そんな凄い能力を持っていたのか」
不夜城の闇市で偶然手に入れた『
「神魔は元々この『ギルギル』の『ゲームデザイナー』……『ゾディアックビースト』も、お前のアイデアなんだな」
「そうだ、ギャウギャウ」
四十センチぐらいの身長しかない小さな『子竜』……でもその中身は、この世界の元『創造主』なんだよな。
「そもそもこの『ゾディアックビースト』って一体何なんだ?
俺は、『星の神が作った命ある兵器』って聞いているけど……」
神魔は、少し考えた後で話を続ける。
「それはオレ達が後付けした『設定』だ……神秘的な意味合いを持たせるために、そう書いた」
「そうなんだ……じゃあ本当の『使用目的』って……?」
「実はゾディアックビーストは……オレたち開発陣が作った『デバック用アイテム』なんだ」
「デ、『デバック用アイテム』……!?」
「『でばっく』って、なんですか、マスター?」
久しぶりに、マキアの頭の上に『?』が浮かんでいるのが見える……
『デバック』とは……
『バグ』を治すこと、つまり、
完成したプログラムの中に潜む、『間違い』や『不具合』を見つけ、修正すること。まさか子竜の姿をした神魔から、そんな『ワード』が飛び出すとは。
「オレの持っていた『
戦闘中の時間を『停止』したり、『巻き戻し』したりして、戦闘のバランスを調整するために開発したもの」
「キャラの攻撃手順や、ランダム要素の確認ってとこか」
「『
「『
「『
「悪い転移者もいたもんだな」
「マコトが持っている『
「移動速度や移動距離を調整できる兵器ってわけか」
「『
「その能力で、ドッペルゲンガーを探し出したんだな」
「『星の神と同等のチカラが手に入る』っていう設定も、オレ達開発陣と同じ力が手に入るっていう、ちょっとユニークな意味合いも兼ねてのことだったんだが……」
「そうだったのか、てっきり『星の神』とかを召喚できるもんだと勝手に想像してた……ちょっとショックかも」
「ス、スマン……ガッカリさせるつもりはなかったんだギャウギャウ」
神魔は、大げさな身振り手振りで、誤解だったことを表現している。
ちょっとカワイイ……
「『
俺は頭の中で、最悪の想像をしてしまう……でも、まだそうなったわけじゃない。
その後、俺たちはメンバー全員と、ファルセイン城へ。
「おお、ギガンティックマスター殿、無事だったか!」
「心配をかけた、メギード王」
ファルセイン城・玉座の間では、メギード王と百戦騎士たちが、俺たちを迎えてくれた。
「ギガンティックマスター殿が言った通り、対ア・ヴァロン用の『作戦司令本部』を準備した。こんな感じでよかったのか?」
城内の少し広めの部屋に、テーブルとパソコンを数台設置、ディスプレイには、カイエルやサザバードの現在の様子が映し出されている。
「ああ、十分だ、ありがとうメギード王」
「しかし転移者の世界のアイテムは凄いな……
鏡魔法も使わずに、あんなに遠いカイエルとサザバードの状況がわかるなんて、一体どういう仕組みなんだ?」
「その話は、また今度ゆっくりしようか、メギード王……」
その時、カイエル方面の画面に、ラーマイン王が映る。
「ギガンティックマスター殿、無事だったのじゃな」
「はい、ご心配おかけしました、ラーマイン王」
「よい、無事ならばそれでよい」
続いてサザバード方面の画面にも、館長と占術長が映る。
「ギガンティックマスター、よかったよ、『
「館長に占術長、大丈夫、マキアも救出できたし、『徒労で終わる』ことは無かったよ」
「実はあの時、アンタに説明したのは『逆位置』の説明だったんだよ」
「『逆位置』?」
「タロットカードには『正位置』と『逆位置』があってね、どちらの向きかで意味が変わってくるんだよ」
「アンタそれでよく『占術長』とかやっているね?」
館長のキビシイ突っ込みが入る。
「それで、本当の意味は何になるんだ?」
「『
『修行、忍耐、奉仕、努力、試練、着実、抑制、妥協。
忍耐力を試される試練の時で、今は耐え、努力しながら力を蓄える時期らしい……この先の、アンタの未来は明るいよ」
「そうか、ありがとう占術長」
ディスプレイは、『カイエル城内』『サザバード大図書館』と、ア・ヴァロンとの最前線である、『カイエル港町方面』『マッスル島方面』『トリド砂漠方面』の五つ用意してある。
いつア・ヴァロンが攻めてきても、すぐに対応できるようにしたつもりだけど……
「ギガンティックマスター殿が言った通り、『カイエル港町』と『マッスル島』と『トリド砂漠方面』の住民の避難は完了しておる」
「ありがとうございます、もしア・ヴァロンが攻めてくるなら、戦争の最前線はその三か所になると予想されます」
「一応騎士たちを配備し、警戒は怠らないようにしておるのだが……」
「俺もいくつかのドローンを飛ばして、監視していますので……」
その時、カイエル港町方面の画面から、知らせが入る。
「ア・ヴァロン方面から、巨大な何かが、海の上を走って来るのが確認されました!」
「巨大な何かが、海の上を……?」
偵察用のドローンが撮影した画像が、ディスプレイに映し出される。
「こ、これは……まさか、『戦艦』!?」
ディスプレイに映し出された、巨大な、海の上を走るモノ……米国海軍が誇るイージス艦が五隻、カイエルに向かって進軍していた。
「アクトの野郎やっぱり、でもあんなものを一体どうやって異世界に……?」
俺の最悪の想像は、当たってしまった。
「まさか、マスターのように、一度バラバラにして運び込んだのでしょうか?」
「あんなもの、バラバラにするだけで一年以上かかってしまうよ……
それ以前にどうやって手に入れたんだ、購入するにしたって、数十億円はかかるはず……」
「数十億円……!?」
巨大なイージス艦の一隻の船首に、海軍将・ヤスが立っている。
その後ろには、海軍参謀総長のドッペルゲンガーもいた。
暫くするとイージス艦は、カイエル港町のすぐそばまで来て、停止している。
おもむろに海軍将・ヤスが、現実世界の『メガホン』を持って、カイエルに話しかける。
「あー、あー、カイエル国王に告ぐでヤス、今すぐ降伏するならよし、さもなくば攻撃を開始するでヤス」
「やっと来たか、待ちくたびれたわい……『カイエル海軍』出撃じゃ!」
ラーマイン王の檄が飛ぶ。
「一番艦から十番艦まで、出撃準備だ、私も出る!」
それに応え、ガーマインも出撃するため城をあとにする。
俺のクルーザーを解析して、カイエル海軍の軍艦も、以前より数段パワーアップしている。しかし、相手が近代兵器となると……
サザバードの、マッスル島方面からも、連絡が入る。
「サザバード上空に、物凄く速い物体を確認しました!」
「物凄く速い物体?」
「あまりに速すぎて、我々では確認できません!」
偵察用ドローンが撮影した動画には、現実世界の『戦闘機』が映る。
「マジか……米国空軍の主力戦闘機、『F15イーグル』だ……」
ディスプレイには、『F15イーグル』が五機と、その後ろに戦闘ヘリコプターも五機、確認できる。
戦闘ヘリコプターの一機に、空軍将・ハヤトが乗っている……
ハヤトもメガホンを使って呼びかける。
「あー、サザバードに告ぐよ~今すぐ降伏すれば、命だけは助けてあげるからね~」
「このサザバードに、空から攻撃を仕掛けてくるとは……『サザバード空艇師団』、出撃準備だよ!」
図書館島を映す画面では、館長や七長老たちが、出撃の準備をしている。
米国空軍の主力戦闘機相手に、グリフォンやワイバーンで、どこまで立ち向かえるか……
ここまでのア・ヴァロンの動きを見て、俺は答えを導き出す。
「そういうことか……
現実世界の近代兵器を使って異世界と戦争をするために、現実世界の大統領や、軍関係の大将たちを操っていたのか」
「どういうことですか?」
マキアが俺に問う。
「妹の時と同じだ……
まずこちらの異世界の大統領のドッペルゲンガーを、『
「現実世界の大統領を、魂の抜け殻にできる……?」
「そうだ……そしてアクトの『従属悪魔』を憑依させれば、アクトに従順な大統領の出来上がりってわけだ」
「そんな……そんな恐ろしいことを……」
「陸海空の参謀総長達も、きっと同じ方法で味方にしたんだろう……アクトは、現実世界の最強の軍を手中に収めたと言っても過言ではない」
メンバー全員、静まり返ってしまった。
無理もない……みんな現実世界での生活も長くなり、現実世界の軍隊がどれだけ巨大な戦力か、ちゃんと理解している。
「大統領の命令なら、戦艦や戦闘機を出撃させないわけにはいかないからな」
でもこれだけの戦力を出撃させたんだ、現実世界の方も大騒ぎになっていると思うけど……?
俺には、もう一つ疑問があった。
「不可解なのは、あれだけの兵器を一体どうやって異世界に……?」
バラすのが無理だとすると、『オルタナティブドア』以外の何かで転送する必要があるが……
「マスター、あれを見てください」
マキアが、ファルセインのトリド砂漠方面のディスプレイの、ある部分を指さす。そこには巨大な四角い木の枠のようなものが……
「まさか、これは……」
そのまま見ていると、その四角い枠から、巨大な戦車部隊が出てきて、ファルセインのトリド砂漠に上陸してきた。
「アクトの野郎、なんてことを……」
「ギガンティックマスター殿、あの木の枠はいったい何なのだ?」
メギード王が、俺に尋ねる。
「あれは『オルタナティブドア』……しかも数百個のドアを繋げて作られた、まさに巨大な『転移ゲート』……」
「巨大な転移ゲート……?」
それは『オルタナティブドア』を、縦に二十数戸、横に三十数戸並べて繋げ、中をくり抜き、外枠だけにした、巨大なドア……縦三十五メートル以上、横二十五メートル以上……その巨大な佇まいは、まさに『オルタナティブゲート』と呼ぶに相応しい風貌だ。
「あれを使って、巨大な戦艦や戦闘機なんかを、異世界に転移させたのか」
「しかし、あんなことをしたら……」
「ああ、もうあの『オルタナティブドア』は使えない……
アクトはおそらく、ア・ヴァロン中の『転移者』を捕まえて、そのまま脅して扉を開けさせ、あの巨大なドアを作ったんだ」
「そんな……酷い」
「まさに、自分以外の人間はどうでもいいという、悪魔の所業……魔族よりタチが悪いかもな」
戦車軍団の後ろに、ドラゴニックキングと竜の民リュオンを、レリーフ代わりに飾っている巨大な装甲車がつく。ハッチが開き、中からメガホンを持った陸軍将・ギンジが上半身を出す。
「ハーハッハッハ、ファルセインのメギード王に告ぐ!命が惜しくば今すぐ降伏しろ!まあ、降伏しても『国』はもらうがな!ギャーハッハッハ!」
「ファルセインには、陸軍将のギンジか……」
「三か所を同時に攻めてくるとは……お互いに協力させない気なのか?」
メギード王が、画面を見て叫ぶ。
「それもあるだろうが、各軍の戦力に、相当な自信があるんだろう」
「くっ……舐められたものだな。
ファルセイン戦闘車、騎馬軍団、魔法師団、全軍出撃だ!余も出るっ!」
メギード王の号令で、ファルセイン全軍もトリド砂漠方面へ出撃する。
「よし、俺たち異世界あいどる24も、各国の加勢に向かう」
「はい」
「まずカイエル国には『イレギュラーズ』」
「わかりました」
リーダーは『アマネ』、イレギュラーズ総勢六名。
「サザバードには『ナイトメアウェイカーズ・オッドアイズ』が行ってくれ」
「お任せ下さい」
リーダーは『カスミ』、ナイトメアウェイカーズとオッドアイズ総勢七名。
「ファルセインの前線は『アンタッチャブルズ』に任せる」
「仰せのままに」
リーダーは『ジュン』、アンタッチャブルズ総勢八名。
「拙者たちも同行させてくれ、頼む!」
鬼の民ドドム、闇の民レイザ、天空の民アミサーも加わった。
「ファースト・シスターズは俺と共にこの作戦司令部に待機だ」
「はい」
リーダーは『マキア』、ファーストとシスターズ総勢七名。
「順番に『オルタナティブドア』で転送する、頼むぞ!」
俺は整列しているメンバーたちに、檄を飛ばす。
「相手は現実世界の『近代兵器』……俺たちのチカラがどこまで通用するのか見当もつかない」
「ゴクリ……」
真剣な眼差しの者、ビビっている者、震えている者も……
「でもこのままアクトを放っておくわけにはいかない……
この世界には、世話になった人、守りたい人、この先も一緒に笑いあいたい人がたくさんいる」
メンバーたちはお互いに顔を見合わせたり、頷き合ったり、町の人達を想像したりしている……
「アクトの暴挙を、俺たちで止めるんだ、行くぞ!」
「はい!」
☆今回の成果
俺 『ゾディアックビースト』の秘密
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