屠りしもの 前編

第45話四天王戦世界大会

 アナタはアイドルを『忘れた』ことがありますか?……俺はある。

 

 

 俺たち『異世界あいどる24』は、『四天王戦世界大会』に出場する前に、

 現実世界で冬を満喫することに。

 

 

 十二月二十四日、クリスマスイブ……

 十二月二十五日、クリスマス……

 俺は現実世界の高級レストランを貸し切って、メンバー全員でお食事会。

 そのあとプレゼント交換など、生まれて初めてクリスマスというものを満喫した。

 「お母さん、アナタの息子は今、幸せの絶頂にいます……ありがとう」

 俺は泣きながら母親に感謝した。

 

 

 一月一日、メンバー達と初めてのお正月。

 「みんな、あけましておめでとう」

 「あけましておめでとうございます、マスター」

 

 アイドル全員振袖に。

 あまりの眩しさに目がつぶれそうだ……

 

 そのままみんなで初詣。

 

 全員にお年玉をあげる俺……

 さすがにこの人数、かなりの出費になった。

 「このシステムを考えた人に、俺は説教をしたい……」

 

 俺は正月とかあまり縁がなかったからなぁ……よーし、今年は正月っぽいことたくさんするぞ!

 

 まずは餅つき。

 杵を持つのは……

 「ハンマーと言えば、私でっす!」

 杵を持って現れたのは、ドワーフのヒメノだ。

 

 「だめだヒメノ、お前がハンマーを使ったらマグマドラゴンが出てきちまう」

 「ガーン!」

 現実世界だから、異世界みたいな巨大なマグマドラゴンはいないと思うけど、

 それでも気を付けるに越したことは無い。

 

 「よーし、危険は回避したぜ……夏の時みたいにそう何度も台無しにされてたまるか」

 

 「ではヒメノの代わりは、私がしましょう」

 次に杵を持って現れたのは、バーサーカーのライカだ。

 んー、ハンマーと斧……まあ、似てるっちゃあ似てるか……?

 

 「では行きますよー、それっ」

 ペッタン!ペッタン!

 おおーいいねー、これなら何事もなくいけそう……その時!

 

 「推しは推せるときに推せ!」

 居間でつけっぱなしになっていたテレビから、あのセリフが!

 「ギュピーーン!」

 「マズいッ!」

 「アドバンスドアーツ、『バーチカルアーーーックス』!!」

 ドカーーーーン!

 「うわー」

 「キャー」

 

 あの催眠、まだ生きていたのね……もう台無し。

 

 

 居間でマキアとカレンが『百人一首』をやっている。

 「花の色は うつりけりな……」

 「ハイッ!」

 バシンッ!

 

 「くっ……」

 おおー速いなカレン、あのうちのスピードスター、マキアに負けず劣らずの速さ……

 「フッフッフッフ……」

 「ぐぬぬぬ……」

 カレンの勝ち誇った顔……マキアを煽ってる?

 

 異様な緊張感が高まる……

 マキアのあの構え、凄まじい集中力、気力が最高潮に高まっているのがわかる。

 「マキア、ちょ、まっ……」

 

 「ちはやぶる……」

 「そこだーーーーーッ!」

 ドッカーーーーーン!

 「うわーー」

 「きゃーー」

 マキアが札を叩くと、その気力と風のチカラで畳から窓まで全部吹っ飛ばした!

 

 「コラーーー、マキア!」

 「エヘヘ、ごめんなちゃい、テヘ」

 う、可愛い……ぶりっこの技も取得したのか、さすがはアイドル。

 「こ、今度だけだぞ、まったく……」

 「マスター、チョロ……」(小声)

 

 

 トントントン……

 お、ミユキとユカリとジュンが料理してる?

 って、ユカリ?包丁じゃなくて素手で大根切ってるよ?

 

 「私のアドバンスドアーツ、『炎の剣』で切れば、最初から焼きながら切ることができます」

 「ほう、まさに時短の料理、やるなユカリ」

 

 ミユキが呆れた顔でユカリに話す。

 「ユカリ、その大根は『おでん』にする予定だから焼かなくていいのよ……」

 

 「野菜の輪切りは私に任せちゃって下さい!

 アラクネ流操糸術、『ギロチンストリンガー』!」

 キュイィィン!

 スパッスパッスパッ!

 おおー、ジュンの糸で色んな野菜が輪切りになっていく……

 

 またミユキが呆れた顔でジュンに話す。

 「ジュン、その野菜、まだ皮をむいてないんだけど……」

 

 その時、バーサーカーのライカが、斧を持ってやってきた。

 「チッチッチ、アンタッチャブルズの子たちはまだまだ現実世界の生活に慣れていませんね…… 料理はこの私にお任せを!」

 「ライカ、そんなでっかい斧で料理なんてできるのか?」

 「任せて下さい!」

 

 トントントン……

 おおー、あんなでっかい斧を器用に使って、鮮やかに野菜を切っていく……

 ちょっと見直したぞライカ!

 

 その時、居間のテレビから音が……

 「推しは推せるときに推せ!」

 「ギュピーーーン!」

 「嘘だろッ!?」

 「バーチカルアーーーーーックス!!」

 ドガガーーーンッ!

 「うわーーー」

 「キャーーー」

 

 ……もういいって、また台無し。

 

 

 家の庭で、マキアとカレンが羽根つきを始めた。

 いいぞ、すごくお正月っぽい。

 

 カーンカーン!

 「ん~いい音だな、お正月の羽根つきは、この音で『魔物』を祓い、無病息災を願うという意味もあるんだ」

 「へえ~そうなんですね」

 カーンカーン!

 カンカンカンカン!

 カカカカカカカッ!

 えっ?ちょ、音が……速くない?

 マキアとカレンが、物凄いスピードで羽根つきをしている!

 この二人、なんですぐ張り合うんだ?

 

 カーーーン!

 「よし、もらった!」

 マキアの打った羽根はカレンのはるか後ろへ。

 「そうはいかない、『影足えいそく』!」

 シュイン!

 カーーン!

 「羽根つきにアドバンスドアーツを使うんじゃない!」

 

 「なら、これならどう?『マキアインパクト』!」

 ドガガガガーーッ!

 「うわーー」

 「キャーー」

 庭がえぐれてぐちゃぐちゃに……

 

 「コラーーー、マキア!」

 「うっふん、マスター、ご・め・ん・な・さ・い、チュ」

 うっ……今度は色仕掛けか、恐るべしアイドル。

 「そう何度も許すと思ったら大間違いだぞ……まあ許すけどな!」

 「マスター、チョロすぎ……」(小声)

 

 

 日を改めて、俺たちはスキーをしに雪山へ。

 さすがにみんなやったことがないので、転ぶ転ぶ。

 マキアだけはなぜか上手く滑ることができてる……不思議だ。

 

 俺たちはリフトに乗って、みんなで雪山の中腹に。

 「ヤッホーーーー」

 「マスター、何をしているのですか?」

 「こっちの世界の人は、山に登るとこうやって『山びこ』を聞くもんなのさ」

 「そうなんですね、では私たちも」

 「ヤッホーーーー」

 

 その時、セイレーンのミライがみんなに混じって叫ぼうとしている……!?

 「ミライ!?お前は……」

 「ラーーーーーーーー!」

 ……

 ゴゴゴゴゴ……

 「ま、まさか……」

 ミライの『共振』で、雪山の頂上から雪崩が!

 

 ドドドドドーーー!

 「わー、みんな逃げろーー!」

 「キャーー」

 「マズい、このままじゃ一般のお客さんにも迷惑がかかる……全員戦闘準備、あの雪崩を止めるぞ!」

 「わかりました!」

 俺たちは全員で雪崩の下へ。

 

 「カスミ、スミレ、頼む!」

 「はい、一人レゾナンスアーツ『アマノイワト・龍』!」

 スミレが『ネクロノミコン』を開く。

 「死者の章 第一節、『しかばねの壁』!」

 ズアアアア!

 ドドォーーン!

 ああ、ダメだ、雪崩が大きすぎる、壁を越えてきた!

 

 「アドバンスドアーツ、『ストーンヘンジ』!」

 ドガガガガッ!

 メデューサのメメが、何本もの石柱を雪崩に当てるが、雪崩はまだ止まらない!

 

 「後は私たちに任せて下さい!行くよココ!」

 「うん!」

 「私も協力させてぇーー」

 アンジュ!?

 「レゾナンスアーツ、『親子の絆アターック、プラスアルファーー』!」

 ドバアアアーーーー!

 ズズズズ……

 

 「やった、三人の突撃の威力で、雪崩が止まった!」

 みんなでハイタッチするメンバー達。

 「いや~よかったよかった、大惨事になるところだった。ジュリとココもお疲れさん」

 

 その後、なぜかロッジの人たちに表彰された俺たち。

 なんか『雪崩対策用の機械』で雪崩を止めたと、勝手に勘違いしてくれたみたいだ。

 

 「みなさんありがとうございました、お陰でスキー場も、ロッジも無事でした」

 あははは……原因を作ったのも、俺たちなんだけどね。

 感謝状をもらった俺たちは、そのままスキーを堪能し、帰路につく。

 

 あれ?なんか忘れているような気がするけど……まいいか。

 

 ◆雪山の中腹付近……

 雪崩の跡地に、アンジュの手だけが出ている……

 「マスター、みんなぁ……私の事を忘れるなんて、ひどいですぅ……」

 

 *****

 

 現実世界の冬のイベントを満喫した俺たち『異世界あいどる24』は、『四天王戦世界大会』に出場するために、ファルセインから気球で半日かけて、ヴァロン帝国を目指していた。

 

 「見えてきました、あれがヴァロン帝国の、『首都オウコ』です」

 広いヴァロンの大陸の、砂浜と山々をいくつか超え、大陸南西付近に位置する『首都オウコ』……かなり栄えた街みたいだ、人がたくさん集まっているのがわかる。

 

 街の南の、少し開けた場所に気球をおろす。

 「いや~気球なんか見たら、みんな驚くだろうなー……」

 と、思っていたら……あれ、そうでもない?

 よく見たら、俺たち以外にもいくつか気球が停泊している!?

 あっちには『飛行船』まである!

 

 「おいおい、『魔法より、科学に重きを置いている』とは聞いていたけど……」

 しっかり整備された道に、なんか自動車っぽいものが走っている!

 建物も、お城っていうよりも、なんか『ビル』みたいな形が多い。

 「この建物、コンクリートでできているじゃないか!スゲー」

 

 あっちの川には大きな『橋』がかかっているし、

 あの歩道においてある箱、あれって『自動販売機』!?

 なんかカメラっぽいもので写真撮っている人もいるし!

 とにかくヴァロン帝国は、俺たちの想像を遥かに超えた街だった!

 恐るべし、ヴァロン帝国……

 

 「ようこそヴァロン帝国へ、『異世界あいどる24』の皆様」

 俺たちは案内人の人に連れられて、巨大な闘技場、『ヴァロンコロシアム』の中へ。

 闘技場の、ただの待合室なのに、相当な広さだ。

 中にはたくさんの人がすでに集まっている。

 その中には、見たことのある面々もチラホラ……

 

 

 「旦那!お久しぶりで」

 「ようニビル、元気だったか?」

 選考会と、審判の塔で一緒にパーティを組んだニビル達が駆け寄ってきた。

 

 「お前のところにも『招待状』が届いたんだな」

 「旦那と一緒に審判の塔を攻略したことがきっかけで、選抜してくれたらしいですぜ」

 「良かったじゃないか、もし試合で当たったら、ちゃんと『忖度』してくれよな」

 「『そんたく』……ってなんです?」

 

 

 「師匠~!」

 イチヒコとテンマルが、手を振りながら走ってきた。

 「久しぶりだな、魔族の先兵と戦った時以来か?」

 「はい!あれから『転移病』もすっかり良くなって……師匠のおかげっす」

 「それは良かったな……俺はあの後ひどい目にあったけどな」

 思い出すと、心臓が痛くなる……

 「そ、そうだったんすね……」

 

 後ろにはイチヒコとテンマルの四天王が……見ただけで前より相当強くなっているのがわかる。

 「あれから修行してだいぶ強くなったっす、現実世界の秘密兵器も持ってきたし、簡単にはやられないっすよ」

 「おおー、それは楽しみだな、期待しているぞ」

 

 

 「ギガンティックマスター」

 「おお、カイエル宮廷五獣士のガーマイン王子、久しぶりだな」

 横には、『カイエル四天王戦大会』の決勝で戦った、宮廷五獣士のガーマイン達がいた。

 

 「あの時の続きと行こう、決勝で会えたらいいな」

 「それはどうかな?かなりの猛者たちが集まっているみたいだぜ」

 「そのようだな、そこら中から激しい気迫が、ひしひしと伝わってくる」

 

 「ラーマイン王、今回は見学か?てっきり出場するものだと思ってた」

 「その通り、自分も出場すると言って聞かなくて、説得するのが大変だった」

 「だろうな、万が一何かあったら大事件だ」

 

 

 「ギガンティックマスター殿!」

 「メギード王か!?あんた王様なのに、大会に出場していいのか?」

 「出場条件は特に制限はかかっていない、王族であろうが、盗賊であろうが、自分の強さに自信があればいいらしい」

 「マジか!?本気で『世界最強の四天王』を決める大会にする気なんだな」

 

 「ヴァロン帝国の『ヴァロン近衛兵団』が、体調不良のため出場を辞退したそうだ。ヴァロンの伝説的な三人の千迅騎士との対戦も楽しみにしていたのだが……」

 「『ヴァロン近衛兵団』……?」

 

 「ヴァロン皇帝陛下を守る、直属の精鋭部隊だと聞いている。

 ヴァロン統一戦争の時も、八面六臂の大活躍だったらしい。

 『銀嶺のウォルフ』『空魔のソウケイ』『海鳴のホーン』という名の三将軍で、優秀な三人の千迅騎士だ」

 「ふ~ん、確かに強そうだな」

 

 

 「やはりいたな、ギガンティックマスター」

 「ライゴウ?あんたも出場するのか?」

 「ああ、サザバード代表として、七長老を連れてきた」

 「七長老って、七人もいたら人数が合わないだろ?」

 

 「私たちは出ないよ」

 ライゴウたちの後ろには館長と占術長が。

 「まったく、男どもはこういうくだらないことが本当に好きなんだねぇ」

 「ということは、『雷の民のライゴウ』と『ビルド魔法の団長』、『獣の民の酋長』と『砂漠の民のオアシス長』、それに『音の民の学長』で五人か。なかなかに手強そうだな」

 「メギード王と百戦騎士たちにも久しぶりに会ってきた、みんな相変わらずで安心したよ」

 

 

 「ギガンティックマスター、すごい人気者だね」

 「サモンロードか?『中央島』以来だな」

 「色んな人に話しかけられて……ずいぶんと知り合いが多いんだね」

 「俺は『転移』してからもう半年以上経つからな……色んな人と出会い、助けられたよ」

 

 サモンロードの肩には、黄色くてでっかい、鳥の『オウム』が乗っている。

 このオウム、オウムなのに『ヘッドホン』をしているんですけど?

 「ギャウギャウ、お前、まさか『神楽かぐら』か!?」

 神魔がオウムを見て叫んだ。

 「神魔、キミは相変わらず騒がしいね……」

 オウムが喋った!?これってもしかして……

 

 「紹介するよ、このオウムが四支神の一柱、『神楽かぐら』だよ」

 

 『神楽かぐら』……

 大陸の東の祠でとまっていた、風を司る『神の名を冠するもの』か……

 

 「お前も転生して、復活していたんだなギャウギャウ」

 「ああ……このサモンロードに、ボクを殺してくれと頼んで、『転生』と『復活』もお願いしておいたんだ。彼なら成し遂げてくれると信じていたよ」

 「へえ~、信頼されているんだな、サモンロード」

 「まあね、でも最初はかなり戸惑ったけどね……」

 わかる、わかるぞその気持ち。

 

 「そういえば朗報だよ、この大会で優勝すると、なんと伝説の最強金属『オリハルコン』が進呈されるらしいんだ」

 「マジか!?」

 「その昔、偶然『オリハルコンゴーレム』を倒した者が、ヴァロン皇帝に進呈したらしい。優勝者がもらう『トロフィー』が、オリハルコン製なんだって」

 「よかったじゃないか、探す手間が省けるな」

 「この大会で優勝するのは、かなり大変だろうけどね」

 「まあな、俺もいるしな」

 

 「しかも副賞として、四大陸の王様たちで、僕たちの要望を一つ叶えてくれるらしいんだ」

 「俺たちの要望を……本当か!?」

 それが本当なら、俺の要望はただ一つ……

 「こりゃあ相当気合い入れていかないとな」

 

 「あと、大会の最後は『ヴァロン皇帝』が直々に表彰してくれるみたいだよ」

 『ヴァロン皇帝』か……カイエル王城で話した時以来だな。

 

 

 その時、背中に刺すような視線を感じた。

 後ろを振り向くと、OL風の女性と、やたらデカいゴリマッチョな男が、二階席から俺の事を睨みつけている……

 

 俺の視線に気づいたサモンロードが、口を開く……

 「あの二人が、残りの『屠りしもの』だよ……『竜騎兵ドラグーン』のドラゴニックキングと、『星詠士スターゲイザー』のコズミッククイーンだ」

 

 「ドラゴニックキングと、コズミッククイーン……」

 

 

 ☆今回の成果

  四支神『神楽かぐら』復活

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