第3話レベルキャップ

 アナタはアイドルに『抱きつかれた事』がありますか?……俺はある。


 「よーし、昨日三人加入したからこれで【四天王システム】を使用できる」


 【四天王システム】……

 キャッチコピー『四天王 of the you by the you for the you』(アナタの、アナタによる、アナタのための四天王)とあるように、自分を守る自分だけの【四天王】を自分で編成するシステム。


 このゲーム【GUILTYorNOTGUILTY ONLINE】略してギルギルは、プレイヤーが魔導士となり、何百もある魔法を駆使して戦うMMORPGである。


 魔法を放つ際、詠唱を唱えなければならないのだが、その間プレイヤーは完全に無防備になってしまう……そこを補うためにこの【四天王システム】がある。


 ストーリーモードを進めて、いろんな種族・クラスのNPCを集めその中から四人を選抜する。


 四天王は全員オートで動き、プレイヤーの大まかな指示に従う。

 『全員集合』『魔導士を攻撃』『それぞれ頑張れ』など。


 対人戦はこの四天王を編成してのバトルとなる。

 まあ、俺以外にこの世界に現実世界の人間がいるかどうかはわからないけど、もしいるのなら楽しみだ。


 近接戦闘・魔法剣士のマキア

 近接戦闘・格闘家のアンジュ

 遠距離戦闘・アーチャーのミユキ

 遠距離戦闘・魔導士のノノア

 バランス的にはできればヒーラーが一人いた方が安定するけど、俺もいくつか回復魔法は持っているから、新しいメンバーが入るまでは俺が代役だ。


 ゲームをやっていたころの俺はバリバリの『効率厨』で、見た目度外視のゴリゴリレアモンスターばかりで編成していた。

 バリアントオーガ、オリハルコンゴーレム、プライムバンパイア、そして回復役の聖女などなど……


 今は可憐な女の子ばっかりのメンバーで、ハーレム状態。

 うん、やっぱり見た目って大事だ。


 「さてと、まずはミユキからやってみようか」


 「はい」


 さっき武器屋で買ってきたばかりの『木の弓』を構えるミユキ。


 「えい!」


 ミユキが放った矢は、スライムの十センチ横に当たった。


 「うーんおしいなぁ、威力は申し分ないんだけど」


 「すみません……遠いとこを狙うと的が二重に見えることがあって」


 「よし、次はアンジュ」


 「は、はい!い、いきますよぉー……たあぁぁー!」


 アンジュの蹴りでスライムが吹っ飛んだ。


 「やった、マスターやりました!」


 「うーん、対人ならいいけど、モンスターが相手となると……普通だな」


 「ガーン!」


 「次、ノノアの番」


 「はい、すみません」


 『木の杖』を装備したノノアが集中すると、魔法陣が浮かび上がる。

 「大地の精霊よ 我が敵は汝が敵なり 其を砕き封じ給え! 基礎星魔術プログラム 『シェイク』」


 大地からの衝撃波でスライムを倒した。うんいいね。


 「ノノアの方は今のところ問題なさそうだな」


 「すみません、ありがとうございます」


 ……三人の実力はだいたい分かった。修正しなきゃいけない部分もあるけど、とりあえず今はレベリングだな。



 ……数日が過ぎた。

 みんな順調にレベルアップしたが、やっぱりノノアはレベルが上がらない。

 何かのきっかけが必要だと思うんだけど、アイテムなのか、呪文なのか、運営に聞くわけにもいかないし……


 マキアもレベルアップして装備も一新。

 レベル14 → レベル20に。

 銅の剣・銅の装備一式 → 鋼の剣・鋼の装備一式に。


 出かける前にやることがある。


 「マキア、ちょっと来てくれ」


 「はい」


 俺はマキアの奴隷紋を解除することにした。


 「我が名において命ず 汝の隷属を解き 自由の名のもと 彼方へ飛ぶ翼与えん……解呪!」

 マキアの首に浮かんでいた奴隷紋が、ちりぢりに四散して消えていく……


 「マキア、これでお前はもう自由だ。

 俺の命令も聞かなくていいし、俺から離れても問題ない……ただ、その、あの、前も言ったと思うんだけど、今後も俺と一緒に……」


 「はい!」


 マキアがかぶせ気味に返事した。

 「ま、まだ全部言ってないよ?」


 「はい!」


 そう言ってマキアは俺に抱きついてきた。

 ……俺は照れながら、そっとマキアを抱きしめ返した。


 「これからもよろしくマキア」


 「よろしくお願いします、マスター」


 もちろん、他の三人の奴隷紋も解除した。

 三人とも俺と一緒に冒険してくれると約束してくれた、これで正式に『異世界あいどる24・初期生ファースト』誕生だ。


 「よーし、これからこの世界でジャンジャン活躍していくぞー!」


 「おー!」


 ……活躍と言えばまずは人助けから。

 今回は初めてクエストを受けてみようと思う。


 クエストは町のギルドや酒場などで、依頼を受けて解決する。


 今日は森の奥に出没する『盗賊討伐クエスト』に挑戦だ。

 この世界から盗賊や人さらいたちを一掃したい俺にとって、このクエストは願ったり叶ったりってわけ。


 NPCだけど『四天王戦』もあり、適正レベルも10~15と丁度いい。

 「異世界あいどる24、出陣だ」


 その時俺は酒場の隅で俺たちの様子を窺っていたやつに気付いていなかった……



 俺たちは意気揚々と森の中へ……少し進むとひらけた場所へ出た。

 「この先がクエストの指定場所だ」


 ん……人が倒れている、死体?いや、気絶しているのか……?こいつら……冒険者か?まさか盗賊に返り討ちにされた?


 こいつら明らかに俺たちよりレベルは上だ……

 一応現実世界の便利なアイテムとかも持ってきてはいるけど、何かキナ臭いな、このクエスト……引き返すか?


 ガサっ

 木の上から人が降ってきた!

 ひと目でそれとわかる格好……盗賊だ。


 「ヘッヘッヘ……またクエストに誘われてやってきたみたいだな」


 クッ、帰り道を塞がれたか……

 前からも四人、同じ格好をした盗賊と、黒ずくめのフードを被ったやつが現れた。


 「そのいで立ち、お前が最近話に聞く『ギガンティックマスター』という奴だな」


 「光栄だな、盗賊に名前を覚えてもらえてるなんて」


 木から降りてきた盗賊が近づいてきた。


 「ひっ」


 「おや~お頭、この女たちこの間さらって奴隷商に売りつけた三人ですぜ。

 あん時は俺たちの罪ももらってくれて助かったよ~いや~あれからまた罪が増えちゃってさぁ、またもらってもらおうかなぁ」


 「ひいぃぃっ」


 こいつら、ノノアたちをさらった張本人か?

 くそっ、ノノアたちがビビッて委縮してしまっている……


 「フフフフ……丁度いい、『四天王戦』で決着をつけよう。

 今ならその女たちも、前よりもっといい値が付きそうだ」


 なんてこった、初の『四天王戦』の相手がこんな奴らとは……


 「四天王戦を開始します、準備してくだサイ」


 四天王戦を宣言すると、どこからか現れる『むザイくん』という、サイの着ぐるみを着たマスコットキャラクターが審判を務める。

 『ゲームマスター』でもあるこのむザイくんが勝敗を決めないとバトルが終了しない。


 「ヒャッホー!いただき―!」


 「まずい!」


 俺はノノアたちを一旦盗賊たちから遠ざける。


 「悠然たる大地に熱を宿らせ 大気に揺らぎを起こし 我を隠せ……」


 「させるかよ、オラー!」


 盗賊の剣がノノアを斬りつける!

 スカッ!


 「な、なに?」


 剣はノノアの体をすり抜ける……

 俺の陽炎属性アナグラム『ファントムシフト』が間に合った。


 「ちっ、逃げたか……追え!」



 俺たちはとりあえず盗賊から距離をとるため走った。

 速度アップの魔法もかけたから、簡単には追いつけないはず。


 「みんな大丈夫だ、俺がついてる。俺が詠唱を唱えている間だけ凌げば何とかなる」


 俺は止まり、反転して反撃の体制をとる、その時ーー


 「ごめんなさい、私、私無理です!」


 ノノアが泣きながら逃げ出した。


 「ノノア!一人は危険だ、ノノア!」


 アナライズをかければポップアップコマンドのおかげで居場所はわかる。

 俺は一人逃げ出すノノアを追いかける。

 そのアナライズで今のノノアの心の中が読める……


 (ああ、あの時と同じ……私はまた逃げ出してしまった、もうマスターにも顔向けできない、思い出してしまう、あの子供の時の記憶を……


 戦闘が怖くて逃げだしてしまった私。

 結局捕まって相手の罪を擦り付けられてしまい、連れていかれていた時、一緒にいたメンバーもみんな捕まっていた。


 その時のメンバーのあの顔、あの言葉……


 「お前、お前が逃げなければ罪を擦り付けられることなんてなかったのに、お前のせいで私は奴隷位まで落ちてしまった……お前のせいだ!一生恨んでやる!」)


 ……ノノアはこの時のことを後悔して自らの成長を止めてしまったんだなきっと。

 今も怖くて怖くて仕方ないんだろう、俺が助けなくては。


 「きゃああぁぁーー!」


 ノノアの声だ、盗賊に遭遇したのか?

 俺がノノアを見つけた時、盗賊Aがノノアを襲おうとしていた。


 「ひゃはは、ようやく見つけたぜ~手間かけさせやがって……また逃げないように少し足を斬っておくかなぁ~へへへ」


 「い、いや、誰か助けて……」

 (助ける……?私を?誰が?裏切って逃げだした私をだれが助けてくれるというの?あの時と同じ……私は裏切り者で、奴隷になるしかない女なんだわ……みんな、マスター、ごめんなさい……)


 盗賊Aがノノアの足に剣を振り下ろす!

 「その足もらいー!」


 「……ッ!」


 「大丈夫だ、俺を信じろ!」


 ガキィィーーン!


 「何!?」


 俺はノノアと盗賊Aの間に、ノノアの盾になるように割り込んでノノアを守った。

 もちろん『対斬撃結界』を張って。


 「……マス、ター? どうして?」


 「大丈夫だノノア、俺はお前が噓をついても、逃げだしても、たとえ俺を裏切ったとしても許す」


 「えっ?」


 「テメェ~、邪魔すんじゃねぇよ!」


 ガキーン

 バキーン!


 「グッ!」


 「ああ、マスター、血が……」


 俺はそのまま盗賊Aの攻撃を受けながら、ノノアに話し続ける。


 「し、心配ない、いいかノノア、自分の命にかかわる時は逃げていいんだ……まず自分の命を第一に考えろ」


 「これならどうだ!「『炎よ 水よ 我に集いて混ざり すべてを破壊する力となれ くたばれ!爆発属性アナグラム バーストロア!』」


 「ぐあぁぁーー!」


 「マスター!」


 俺はノノアを守るように抱えて吹っ飛ばされた。


 「ああ、マスター、マスター」


 「へっへっへ……やっと静かになったな、今とどめを刺してやるぜ」

 盗賊Aが止めを刺しにこちらに近づいてくる……


 「ノノア、自分が生き残るためなら俺を騙しても構わない、俺はそのすべてを許す」


 「……ッ」


 「だから俺を『信じろ!』」


 「はい、はい!私……あなたを、マスターを信じます!」


 カッ!

 カチャ

 ノノアの中で『鍵』の開く音が聞こえた


 パアァァー!

 ノノアが光に包まれている……


 「こ、これは?」


 「やったなノノア、今お前のレベルキャップは外れたようだ……お前の『信じる』というキーワードでな」


 「『信じる』……というキーワード?」


 「レベルキャップが外れて今までの経験値がすべて還元された今のノノアのレベルは『三十五』。三重星魔術ハイアナグラムも使えるはずだ!」


 盗賊Aが俺たちの前で剣を構える。

 「この野郎、オレさまを無視してんじゃねぇ!」


 (このひとなら、私を許すと言ってくれたマスターなら……『信じられる』!)


 ヒュィィ――ン

 ノノアの前に中規模の魔法陣が描かれ、その中央には融合する基本属性が配置される……『地』『炎』『風』


 「大地におわす 地の神よ 我に大いなる星の力与え給え 力の紋章もちて 星の中心となり 我と其に偉大なる影響力を示さん……磁界属性 三重星魔術ハイアナグラム 『ホライゾン』!」


 「な、なにぃぃー!?こ、これは、これ以上近づけな……い!?」


 盗賊Aは何か見えない力に抗っていたが、耐えきれず吹き飛ばされた!

 そのまま大木にぶち当たりズルズルと下に落ちた。


 「……やったな、ノノア」


 「これを私が……?」


 ノノアと俺を中心に直径十数メートル、樹や岩などが吹っ飛んでいた。

 何故か俺にピッタリとくっつくノノア……さすがに照れる。


 「あ、あのこれは磁力を発生させる魔法でして、周りは反発属性にしたのですが、私が吹き飛ぶわけにはいかなかったので、私とマスターは吸引属性になってます……すみません」


 ガサッ


 「!」


 「ほう……まさか三重星魔導士ハイアナグラマーまでいるとは思わなかったぞ」


 まずい……さっきの黒フードのやつと、残りの盗賊に追いつかれた。


 「四対二、状況的には我々の方が圧倒的に有利だが、降参してもいいのだぞ、まあ、その女どもは貰っていくがな」


 「ヘッヘッヘ……」


 じりじりと近づく黒フードのやつと盗賊たち。

 ただ俺は全く焦ってはいない。


 「あーもうちょい右かな?うん、そこからあと二・三歩前へ」


 「? 何を言っている?」


 「うんうん、そこでいい。そこから三時の方向、そう、いいよ」


 「てめぇ、さっきから誰と喋ってんだコラ!」


 「アナタのハートにオンユアマーク!レディゲット!」


 ドスッ!


 「グハッ」

 矢に射抜かれ吹っ飛ぶ盗賊B


 「グッジョブ ミユキ!」


 そう言って親指を立てる俺。


 「えへ、マスターの買ってくれたこの『矯正メガネ』のおかげで、遠くでもよく見えまーす」


 フフフ……現実世界の最高アイテムその①『矯正メガネ』。

 この間のレベリングで、おそらくミユキが『乱視』だというのは分かっていたので、現実世界のメガネ屋さんで購入済み。

 ちなみにミユキはメガネをかけて、あの掛け声にしてから連続四十六回、的を外したことがない。スゲー


 「な、いつの間にここの正確な場所を……まさか、『念話』を使う者がいるのか!?」


 ブッブー、違います『念話』なんて使ってませーん。

 ラノベなどでよく出てくる『念話』。

 この世界にも存在はしているのだが、実は恐ろしく効率が悪い。

 大気中の魔粒子の流れですぐ会話が乱れるし、攻撃魔法と違って絶えず魔力を消費し続ける……おまけに受信側も魔力を消費し続けるという三重苦。


 なので今ではほぼ使うものはいない。

 『念話』なんて使わなくても俺たちには現実世界の便利アイテムがある。


 現実世界の最高アイテムその②『インカム』。

 パチンコ屋の店員さんやイベント会場のスタッフがよく使う通信装置だ。

 これと俺の『サーチ能力』があれば、味方を誘導するなんてオチャノコサイサイだ。


 マキアとアンジュも別の場所から誘導し合流した。


 「アンジュが来たからにはもう安心ですぅ、あとはアタシに任せといてぇ!」


 「おのれ……おい!」


 「はっ」


 黒フードが指示を出すと、盗賊Cが盗賊Dのマスクと帽子を脱がせる

 「ウガアァ――!」


 こいつ、『オーガ』!?モンスターも混ざっていたのか!


 「よし、こいつを盾にして我々で攻撃するぞ」


 まずいな……『オーガ』はその攻撃力もさることながら、防御に徹したときの堅さは尋常じゃない。ちょっとやそっとの攻撃じゃ倒れてくれそうにない。


 「よし、アンジュ行け!」


 「はいぃ―! マキアお願い!」


 「うん、行くよアンジュ!」


 そう言ってマキアはアンジュの腕を持って、アンジュをブンブン振り回し始めた!


 「あわわわーー」


 盗賊たちはキョトン顔


 「行っけ――――!!」


 マキアが手を離すと、アンジュが勢いよく飛んでいく!


 「あわわーー!か、『かかと落とし』ーーー!」


 ドッカ――ン!


 「ガアアァァァ!」


 さすがのオーガも遠心力で勢いを増したアンジュの攻撃で吹っ飛んで気絶した……アンジュごと。


 アンジュの技の威力を増大させるため、

 現実世界でみんなで行ったボーリングを参考にした、名付けて『アンジュストライク』(ニヤリ)

 問題は一度使うとしばらくアンジュは使い物にならないという事。


 「みんなぁ、後は頼みましたよぉ……」


 「さあて、これで二対四……形勢逆転だけど、どうする?『百戦騎士ハンドレッドナイト』さんよ?」


 「……ッ!貴様……」


 「あ、アイアス様、バレてるみたいです!いかがいたしますか!?」


 「バカ者!名前を呼ぶでない!」


 「も、申し訳ありません!」


 まあ、『アナライズ』で最初から分かっていたんだけどね。


 「え?百戦騎士様……? そんな、私たちを守るはずの百戦騎士様が……なんで?」


 ノノアの疑問はもっともだ。

 この世界の騎士は現実世界でいう『警察』と『自衛隊』を足して二で割ったような存在。ファルセイン王国国民の安全と平和を守る正義の象徴だ。


 しかも百戦騎士ハンドレッドナイトと言えばその騎士を束ねる隊長クラス。

 そいつがなぜ人さらいの盗賊の片棒なんか担いでいるのか……?


 「知られたからには生かして帰す訳にはいかぬ……ここで全員死んでもらおう」


 そう言って黒フードを脱ぎ、剣を抜き構える……なるほど、まさしく『騎士様』の構え方だ。


 「百戦騎士様が相手となるとただではすみません……

 ここはいったん引きましょう、私の『ホライゾン』を使えば……」


 ノノアの前にまた魔法陣が描かれる……「大地におわす 地の神よ 我に……」


 ジャキィー――ン!


 「キャーー!」


 「クッ……」


 間一髪、ノノアを狙った百戦騎士の剣を、俺が『対斬撃結界』を張った腕で防いだ――結界を張っていなかったら、確実に腕が飛んでた……これは、速い。


 「フッ、我が通り名は『またたきのアイアス』……

 魔導士など詠唱を唱える前に攻撃すればいいだけの事……私ならば貴様らがまばたきをする間に二回は斬撃を入れることができよう」


 あのスピードだと魔導士の俺とノノアは動けない。

 さすがのミユキでもよけられる可能性が高い、となると……


 「マキア!」


 「はい!」


 マキアが俺たちと百戦騎士の間に立つ


 「私がきたからにはもうマスターには指一本触れさせません!」


 「ほう、女がてらに勇猛なことだな……女は黙って男の言うことを聞いていればいいものを」


 「そういうことを言う男性がいるから、いつまでたっても女性の奴隷が減らないのですよ!」


 「フッ……言うではないか、その勇猛さに免じて打ち込ませてやる、私は動かぬからやってみよ!」


 大した自信だ……

 よほど自信があるのか、マキアの実力を下に見ているのか……?


 「では遠慮なく行きます!」


 マキアが百戦騎士に斬りかかる!鈍い音!

 百戦騎士の黒いローブがマキアの剣撃でビリビリに……

 中から現れたのは美しい宝飾が施された白銀の鎧――


 「ハハハハ、鋼の剣ごときではこの『アダマンタイトの鎧』に傷一つ付けることはできんぞ」


 ああそうね、『アダマンタイトの鎧』は百戦騎士の標準装備だったね、確か。


 ファンタジー世界御用達金属『アダマンタイト』……

 当然この世界にも、希少ではあるが存在する。

 その特徴は『軽くて』『丈夫』『魔法の乗りがいい』、そして『高価』。

 三十センチ四方の塊で豪邸が一件建つぐらいだ。

 百戦騎士のあの余裕はこれがあるからか……


 「クッ……せっかくマスターが買ってくれた『鋼の剣』を、よくも……」

 

 マキアの鋼の剣は刃こぼれしてボロボロだ。


 「今度こそ降参か?まあ、降参しても生かして帰すつもりはないがな」


 マキアが俺の方を見て何かを訴えている……


 「マスター……」


 「いいだろう、『マキアカリバー』の使用を許可する」


 『マキアカリバー』……この国のパラディンが持つ最強の剣『エクスカリバー』に対抗して俺が剣に付けたネーミングだ(ニヤリ)

 普段は魔法で封印しており、俺の許可がないと勝手に使えないようにしてある。


 「いきますよ~」


 シャキィィィーンン……


 「な……?真っ黒な……刀身の剣?」


 漆黒に染まったマキアカリバー、その正体は……


 現実世界の最高アイテムその③『タングステン合金』。

 現実世界の人なら聞いたことがある人もいるかもしれない、現実世界の技術で作られた最強金属の一つ、それが『タングステン合金』。

 鉄工所勤務の父親に頼んで作ってもらった力作だ。(モチロン料金は払いました)


 その特徴は『ダイヤモンドに次ぐ超硬度』『かなりの重量』『熱に強い』。

 これは俺の持論だが、剣や斧などの『振り回す系』武器はある程度の重量が必要だと考える。


 打ち下ろすときの重力・薙ぎ払うときの遠心力など威力を増すのに一役買ってくれるからだ。

 アダマンタイトは鎧としては優秀だが、武器としては軽すぎてその限りではない。


 百戦騎士もいぶかしげにマキアカリバーを見ている……

 「見たことのない剣だな……」


 「先ほど『まばたきする間に二回斬る』と言いましたね?」

 マキアが剣を百戦騎士に向けて言い放つ。


 「私なら三回は斬ることができます」

 「!?……この女め……」


 マキアは剣の鞘を腰に差し直し、マキアカリバーを一旦鞘に収めた。

 「おいおい、この構えってもしかして……」


 マキアと百戦騎士、お互いに構える……すごい緊張感……


 ギキーン!


 一瞬でよく見えなかった……斬り合ったのか?


 「こ、これは……」

 百戦騎士のアダマンタイトの剣が刃こぼれしてボロボロになってる!


 「すみません、私 嘘をついてしまいました」


 「何!?」


 「三回ではなく、五回斬れました」


 「な……」


 百戦騎士のアダマンタイトの盾が、ピザみたいにバラバラになってる!

 百戦騎士の二回の攻撃をさばいて、さらに盾を三回斬ったってこと?

 マキアすげー!

 というか今のはまさに『居合斬り』?

 剣を鞘に納めた状態で抜刀することで、剣速と威力を上げる日本古来の抜刀術……なんでマキアが使えるの?


 「実はマスターのパソコンのネット動画で『居合斬り』を研究してました。

 それにここに来る前に自分で『エアリアルエンチャント』もかけていましたしね」


 マキアがインカムでこそっと話してくれた。

 いや、それでも十分すごいよ。


 「くそっ、なんだあの剣は?こちらはアダマンタイト装備なのだぞ!ありえん……」


 「さあどうします?この辺で終わりにしますか?」


 「くっ……おのれおのれおのれ!私がこんなところで負けるわけにはいかんのだ!」


 ……百戦騎士がバラバラになった盾に何かしてる……まさか!?


 「アドバンスドアーツ・永久凍土の盾!」


 百戦騎士を包み込むように大きな氷塊が出現した。

 アドバンスドアーツとは、いわゆるオリジナルの必殺技の事だ。


 「はあぁぁーー!」


 ガキィーン!


 マキアカリバーでも斬れない?

 少しヒビが入ってもすぐ再生してしまう……しかもアダマンタイトの盾を媒介にしてるから強度がかなり高い。


 「ハッハッハ、このまま時間切れを待てば我々の勝利だ。

 バトルが終わった後、ゆっくりと料理してやる」


 そうか、タイムアップ……その手があったか。

 このまま百戦騎士が勝利したら、やつらの持ってる罪を擦り付けられる……それこそ奴隷位に落ちたら様々な制限がかかってしまい、今のように有利に戦えるかどうかわからない。


 ゲームマスターのむザイくんの持ってる時計を見る……残り六十秒!

 まずい、もう時間がない!


 「マキア!あれを使え!」


 「わかりました」


 ……もう一つ、この剣には仕掛けを用意しておいた。

 俺がもし異世界に来たらどうしてもやってみたかったこと……それは『高周波ソード』。


 SFの小説や映画なんかでもよく登場する近未来の兵器だ。

 刀身に高周波の振動を加えることで、切れ味を数倍にする。

 俺はこれを父親に頼み込んで仕込んでもらったのだ。(モチロン料金は追加で払いました)


 ただ問題がある。

 高周波の振動を加えることは可能だが、その電源の確保が難しいとのことだった。

 もしつけるのなら、マキアにリュックサックよりも大きいバッテリーを、常に背負ってもらうことになる、それはさすがに……


 そこで俺とマキアが考えたのがこれ。


 「大地と大気の精霊よ 力満ち 天より地へ 天の鉄槌を落し給え!雷属性アナグラム 『ボルト』!」


 バシイィィ!


 マキアは自分で自分に雷の魔法を使った。正確には剣の柄の部分に、だ。


 ヒイィィーーーーーン……


 よし、成功だ。高周波の振動が作動している。

 ……そう、マキアは高周波の電源をバッテリーではなく『雷の魔法』から得ているのだ……

 これぞ『科学と魔法のハイブリッド』!(ニヤリ)


 「行けっマキア!」


 「はい!はああぁぁーー『ハイブリッド高周波ソード』!!!」


 振り下ろしたマキアカリバーは百戦騎士の氷塊を一刀両断、粉々に粉砕した!


 「ぐああぁぁ―――」


 吹っ飛んだ百戦騎士をマキアは見逃さなかったーーそこからにさらに追撃!

 百戦騎士のアダマンタイトの鎧も粉々に粉砕!ものすごい勢いで大木に激突!大木もそのままバキバキと音を立てて折れた。


 「ふうー、決まりました」


 マキア、今日イチのドヤ顔。


 あれだけの攻撃を受けたんだ、さすがの百戦騎士も……


 「グ……ガハッ……わ、私はまだ……負けておらぬぞ」


 おいおいマジかよ、根性あるねぇ百戦騎士。でも……


 「タイムアップ、勝者『ギガンティックマスターチーム』です、確認してくだサイ」


 「やったー!」


 喜ぶマキア達。


 俺はむザイくんに近づき話しかける。


 「むザイくん、チーム名の変更は可能か?」


 「上書き可能です、入力してくだサイ」


 「じゃあ……」


 「承認いたしました、ただ今のバトル勝者『異世界あいどる24』です、確認してくだサイ」


 「うっし!」



 ☆今回の成果

  マキア装備 鋼の剣(破損) 鋼の装備一式 レベル14→レベル20

  ミユキ装備 木の弓 銅の装備一式 レベル9→レベル12

  アンジュ装備 銅のレガース 銅の装備一式 レベル8→レベル11

  ノノア装備 木の杖 シルクのローブ レベル9→レベル35

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