(つづき)SNSを介したメディアの報道のクソっぷり
様々なSNS、例えばyoutube、TikTok、インスタ、……に出回る社会の出来事に関する記事の内容はかなり雑多な方面にわたっている。その中でも季節に関する年中行事の内容や近い未来に関する各種の予告などを毎日知るのは悪いことではない。しかし実際に出回る記事というのはこの類のものが多くを占めることはない。むしろ隅に隠されるがごとくpv数の伸びない記事である。これに反して驚くべき誇大的なサムネで出ているものの中で、知名人の死に関する詳細な記事とか、外国から来た偉い系の人の動静とかはまだいいとして、それらよりもっと特色として目立っているのは、この世の中にありとあらゆる醜悪な「罪」に関する詳細な記事である。この種の事実を我々が一日も早く、しかも誤謬によって甚だしく曲げ
これらの報道の多くは人々の好奇心を満足させ、いわゆるゴシップといえる階級の空談の話柄を供給することは明らかであるが、そういう便宜や享楽と、この種の記事が一般読者の心に与える悪い影響とをてんびんにかけてみた時に、どちらが重いか軽いかということは少し考えれば誰でも分かることではなかろうか。
少し話がそれるが、SNSで毎日投稿される社会記事ほど人間の心理を無視したものは稀である。いわゆる「お笑い」のようなもののほうがもっと心理を歪めたり誇張したりしてはいるが、歪める方法をあそこまで徹底すれば逆に害はなくなる。そうしてうそで固めたばからしい饒舌な話の中に自然と、何か真実に触れていることがないわけでもない。しかし普通の社会記事となって現れた、たとえば殺人や暴力の表現が、ひとたび関係者の心理にふれる段階になると、それらはもう決して我々人間の心理ではなくて全く異なる「
これはしかし記者自身が人間の心理を理解していないのではない。ただ単に社会記事の「定型」というものが、各種の便宜的必要から自然と決まってしまって、それに従わないとダメなんだという説明を、そのほうの事情に通じた人から聞いたことがある。
罪悪の心理がもしほんとうに科学的な正確さをもって表現されれば、それは読者にとってかなり有益であり、そしてそういう罪悪の予防・減少に繋がるような効果を現すかもしれない。これに反して罪悪の外側の歪んだ輪郭がいたずらに読者の病的な好奇心を刺激し、ややもすれば「罪の享楽」を裏で楽しんでいるだけだとするならばその影響は果たしてどうだろう。
罪悪と反対の善行に関する記事も稀に見受けられるが、それがひとたび記事になると、不思議とその「善」の中身が抜けてしまって、妙に嫌な、気持ち悪い「輪郭」だけになっている場合がかなり多いように思われる。そういう種類の記事を読んでいて、他人事ながらもこっちが恥ずかしくなる経験がありはしまいか。
しかしこういう不満は今ここで論じている問題とは別問題である。
ありとあらゆる記事がそういう欠点を完璧に改善して理想的に仕上がったとして、それを、我々がSNSによって朝から晩まで脳に入れる習慣がどれだけ必要かというのが現在の問題である。それが必要ないということになれば、まして不完全不真実な記事を毎日あわただしく読む・見る・聞くことの価値ははたしてどうなるだろう。
私がこういうことをいうのは、「SNS記事の価値に重点をおきすぎている」という人もいるだろう。
確かにSNS記事をきわめて軽くしか見ていない人は事実上多数かもしれない。しかしそういうふうにして、そもそも決して軽く見るべきではない、あらゆる意味で重要な多くの事がらを軽々しく見過ごすような習慣を大切にするということ自体に、現代の思想上の大きな欠陥の一因があるのではないだろうか。そのような習慣は知らず知らずのうちに我々を取り返しのつかない堕落の
たった一つではあるけれど十分な深い思索に値するだけの内容を持った事がらが、まるで出会い系アプリに数限りなく存在する男または女を一目見て即行スワイプされるがごとく、瞬間的な印象しかとどめない。そのようにして我々の網膜は疲労し麻痺して、その瞬間的印象すら明瞭・正確に認めることができなくなってしまうのではなかろうか。
こういう習慣は物事に執着して徹底的にそれを追求するという能力を完膚なきまでに
このような考えから、私はSNS記事を全廃したらよいということをつい考えてしまったわけである。今のところそれは難しい。しかしそういうことを一つの思考実験として考えてみることは何ら差し支えないし、無意味でもないかもしれない。
私は現代のあらゆる忙しい人たち、一日もyoutubeまたはXまたはインスタまたはTikTokまたは……を欠かすことのできない人たちが、試しにちょっとだけこういう思考実験をやってみるというのは、そういう人たちにとって非常にいいことなのではないか、また多数の人がそれを試みることによって前に言ったSNS記事の悪影響がいくぶんでも薄められるのではないかと思った。
そういう実験を他人に薦めるために、まずは自分からそれをやってみようと思い立った。その実験はまだ終わっておらず、未完成に過ぎないが、それにもかかわらずその概要をしるしてみたいと思うのである。
(つづく)
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