第63話 先輩に相談
とあるまったりとした昼下がり。
つばめが雛鳥に餌を運んできた。
鳴き声が響いている。
広い庭で小学生の男の子が
シャボン玉遊びで夢中になっていた。
大きなシャボン玉がふわふわと浮かぶと
パンッと割れた。
「突然、大事な家族のお休みの日に
お邪魔してごめんなさい。
あ、いただきます。」
星矢は、翔子の家に訪れていた。
テーブルにはコースターと透明なオシャレな
コップに冷たい麦茶が出されていた。
ありがたく頂く星矢の横に歩くのが得意になってきたまもなく2歳になる
「ぱ、パパ!パパ、パパ??」
元気よくお話ししたかと思うと体を傾けて、
疑問符を浮かべる望彩だった。
「……ち、違うよ。
おじちゃん。おじちゃんね。」
「星矢くん、そこはおにいさんでよくない?
まだおじちゃんの歳でもないでしょう。」
「そうですか?
んじゃ、おにいさんで。
ね?望彩ちゃん。」
「あい!!」
そう言って、おもちゃがたくさんある
キッズスペースにトコトコと移動した。
翔子は、麦茶を飲んで仕切り直した。
「んで?急に電話で会えませんかって
いうくらいの相談って何よ?」
「あ、本題言ってもいいですか?
えっと…。」
「もったいぶらないで言いなさいよ。
どーせ、翔太とのことでしょう。」
「げげ、バレてた。」
舌を出して、おどけてみせた。
「結局、翔太が相手してくれなくて…とか
何とかなのかなぁって思ってしまうわ。」
「うわ、外れてはないです。
翔太先輩、転職したのいいですけど、
仕事がかなりハードで、一緒に暮らし始めたんですが、すれ違いが多いんです。
ちょっと、ギクシャクしちゃって…。
それから、別な友達のところに
避難してました。」
「は?なんで?
翔太は災害か何かか?
なんで、避難しなくちゃいけないの?
暴力振るわれた?
ホームランってホウキバットみたいに振って
叩いてきたとか?」
「どんな幼稚な扱いを受けてんですか、僕は。
そんなじゃないですよ!
ただ、その元婚約者との関係は絶ったはず
なのに今度は職場の上司との飲み会が
重なって、僕のこと忘れてるん
じゃないかと思って。」
「ななな、なんと、女々しいの?
ねぇ、星矢くん。確かになよってしてて
男らしくないし、翔太との関係性は受けだということはわかるけど!!」
「ちょっと待ってください!確かに女っぽい
イメージ持たれているかもしれないですが、
本番は攻めなんです!!僕。こうみえて。」
「って、そんな話、娘の前ですんじゃないわよ。」
翔子は慌てて、望彩の両耳を両手でふさいだ。
じゃれてきたと勘違いした望彩は、
抱っこをせがむ。
「せ、翔子先輩が、先に女々しいとか言うから。
お、おかしな話になったんですよ。
そもそも2歳の子にわかるわけないでしょう!」
「ねぇ、攻めとか受けとかってどう言う意味?
野球かな?」
庭で遊んでいた奏多が、靴を脱いで玄関から
顔を覗かせていた。リビングの扉は暑かったため、前回にしていた。星矢と翔子は丸聞こえだった。
「わーわー、いや、そう。もう、なんでもない。
野球の話。攻めはピッチャーで、受けはキャッチャーでしょう。そうそう、そんな感じ。」
「ああ、そういうことね。
あれ、でも星矢さんって野球しないですよね。
フルート吹くって言ってなかったかな。
攻めって、何で攻めるの?」
「さーて、何でしょうかねぇ。
ねぇ、翔子先輩。」
テーブルの下では、
翔子は星矢の足を思いっきり踏んでいた。
(余計なこと言うなよぉー。星矢ー。)
(わかってますってー、足痛いからやめてください!!)
2人はジェスチャーで言い合う。
奏多はあごに指をつけて考える。
「あーー、フルートで攻めていくってことか。
演奏会したら、翔太さんが負けるってこと。
楽器使えないのかな。
そういうことか…。」
何とか奏多の想像力でことなきを得た。
深くため息をつく星矢と翔子だった。
「あ、演奏会といえば、
もうすぐ、あるんです。
今日、チケット持ってきました。
未就学児の子は無料なのでペアチケットです。
ぜひ、見に来てください。ね?奏多くん。」
「え、俺、習い事してて…次の日曜日…。」
奏多は翔子に口を塞がれた。
「習い事してないよ。
何言ってるの。わかった、演奏会ね。
チェックしておくわ。
望彩も連れて行ってもいいんだね。
クラシックは頭良くなりそうだもんね。」
「予定あるなら、
誰か行ける人に渡しても良いですよ。
チケット余ってたから。
フルート久しぶりにたくさんのお客さんの前で
吹くから緊張するんですよね。
育児に落ち着いたら、翔子先輩も
クラリネットで参加しましょうよ。」
「そうね、落ち着いたらね。
望彩にはまだまだ手がかかるからさ。
でも楽しそうだね。」
「はい、楽しいですよ。
学生の頃を思い出します。
熱心に練習していたのを、
あんなに熱入れてするのは
若いうちだけですね。
3人で昼休み過ごしていたのを
ついこの間のように思えますね。」
「学校の中庭ね。本当、懐かしい。」
頬杖をついて、奏多が望彩を抱っこして
あやすのを眺めた。
「あの時に戻りたいって少し思う時あるんです。」
「うん、あれは良い時間だった。」
翔子と星矢はしみじみ語る。
学生の頃の楽しいという瞬間は
大人になってもずっと心に残る。
良い思い出だ。
外では飛行機がまっすぐに
上に飛んでいくのが見えた。
平和なひとときが過ぎていく。
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