第54話 女性の買い物は長い

「星矢くん、ごめんね。

 付き合わせて…。」


星矢は翔子と翔子の子どもたちとともに

多摩南大沢アウトレットモールに買い物に

来ていた。


大きなワゴンの車を運転する翔子の助手席に星矢が乗り、後ろの座席にチャイルドシートに1歳半の望彩のあと小学生の奏多かなたが乗っていた。


「いえ、大丈夫ですよ。

 たまには外出しなきゃと

 思っていたんで…。」


「そお?こちらとしては

 男手があるとすごく助かるわけよ。

 本当にありがとう。

 買い物すごくあるからよろしくね。

 私の服と子どもたちの服を

 見つけに行くから。」


「はい。お任せください。」


 行く前は思いっきり元気に

 ガッツポーズしていたが、

 数時間後の後半になると

 あまりにも多い荷物に

 休憩できるソファの上でぐったりだった。

 両手にお店の紙袋がびっしりあった。

 1歳半の望彩も、ベビーカー越しに

 いろんなところ見せられて、良い刺激に

 なったのかいびきをかいて爆睡していた。

 奏多はスマホをいじって、

 カラフルなパズルを揃えるゲームに

 ハマっていた。


「星矢さん。大変ですよね。」


「へ?」


 星矢は急に大人びた会話をする

 奏多にびっくりした。


「買い物、お母さん。

 長いんですよ。

 僕たちは慣れているんで、こうやって

 ゲームで気分紛らわしてますけど、

 お父さんは耐えられなかったですね。」


「え、あ、そうなの?

 まぁ、女性は買い物にこだわり

 あるもんね。」


「いや、お父さんもファッションには

 うるさいので、

 僕ら迷子になるんですよ。 

 あっち行って、こっち行って…。」


「あーー、学校の先生だもんね。」


「え?知ってるんですか?

 僕たちのお父さん。」


「高校の時に部活動で

 お世話になったからね。 

 君たちのお父さんに。」


「あー、はい。

 そうなんです。

 先生してるので、

 変な格好で歩けないだろって…。

 喧嘩が頻発してました。」

 

 奏多はスマホをいじりながら、

 ため息をつく。


「お母さんも折れないから…。

 困りますよ。」


「大変だね。

 お疲れ様だよ。」


「星矢さんって、

 まさか、お母さんの彼氏

 じゃないですよね?

 お父さん候補?」


「いやいやいや、違う違う。

 大丈夫、お父さんにはならないから。」


「えーーー、僕は歓迎しますよ。

 こんな買い物に付き合えるなんて…。

 長すぎますよね。」


「確かに…。」


 ぐったりとうなだれる

 星矢によしよしと肩を撫でる奏多。

 小学生に撫でられるとはと

 思ってもみない状態に

 信じられなかった。

 どうして、ここにいるのだろう。


「お待たせーーー。

 やっと終わったよ。

 お腹すいたよね。

 そろそろ、お昼にする?

 あ、望彩のご飯も。

 寝てるからいいか?」


 結構、適当の翔子だった。

 星矢は、それでいいのかと

 疑問符を浮かべながら、

 言う通りに行動する。

 

「お母さん、

 マックのハッピーセットがいい。

 今、カービィのグッズもらえるんだよ。」


「あ、そうなんだ。

 星矢くん、マック好き?」


「あ、はい。僕はもっぱら、

 テリヤキバーガーです。」


「私はエビフィレオバーガーなんだ。

 んじゃ、行こうか。」

 

 翔子は、ぐっすり寝ている望彩が乗った

 ベビーカーをそっと動かした。

 星矢は両手を合わせて、6つの紙袋を持って

 歩き始めた。


「車のトランクに入れてきます?」


「あ、んじゃ、お願いしようかな。」


 翔子は荷物持ちに星矢を抜擢した理由は

 後輩だという関係性だ。

 車の鍵を渡して、フードコートに向かっていた。ほぼ、これは家族になったみたいに行動している。

(これ、誰かに見られたら、

 絶対夫婦って勘違いされるん

 じゃないか?)


 星矢は大丈夫かと想像しながら、

 駐車場に荷物を運んだ。

 その星矢の一部始終を遠くから

 見ていたのは、背の高い男性だった。



 星矢は車のトランクをしめて、

 移動をしようとしたら、

 聞き覚えのある声がした。

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