第18話 デート?

 今日は、渚と映画を見に行く。待ち合わせは映画館前や駅前じゃなくて、渚の家の前だ。


 だって、その方が近いし。


 ちなみに、待ち合わせ場所は私の家の前の時もある。

 その方が公平でしょ! と渚が言うからだ。たいした距離でもないし、私としてはどうでもいいのに。


 スマホで時間を確認する。約束の時間まで、あと2分。インターホンを押してもいいけど、押すほどでもない気がする。


 ついたよ、とLINEでも送ろうかな……と思ったところで、渚が出てきた。

 いつもの制服姿ではなく、もちろん私服姿だ。


 薄桃色のオフショルダーのワンピース。胸元には大きなリボンがついていて、胸下に細いベルトをつけている。

 ふわふわとした生地が可愛い。まるで春の妖精みたいだ。


「おはよう、桃華」


 そう言って、渚はにっこりと笑った。唇の色は、学校で見る時よりも赤い。

 睫毛もいつもよりボリュームがあるし、髪の毛もきちんと内巻きにしているし、前髪はスプレーで固めている。


 気合いが入っている日の渚だ。


「おはよう。そのワンピース、見たことないかも。新しいやつ?」

「うん、今日のために買ったやつ」


 得意気に言って、渚がにっこりと笑う。


「デートだから、気合い入れたの」

「これってデートなの?」


 私が聞くと、さあ? と渚は首を傾げた。そしてスマホを取り出して、『デート 定義』で検索する。


「えーっと、なになに?」


 気になって、私も渚のスマホを覗き込む。


『デートは、恋人同士あるいは互いに恋愛的な好意を持っている者同士が日時や場所を決めて会うこと』


 渚が調べたサイトには、そう記載されていた。


「へえ。桃華、知ってた? 両方が好きって思ってないと、デートじゃないんだって」

「あんまり意識したことないけど、言われてみればその通りな気もするわね」


 渚とはもう数えきれないほど2人で出かけてきた。

 私はずっと渚が好きだったけれど、きっと渚は違う。


 だから私と渚は、まだ一度もデートをしたことがない。


「まあ、とりあえず行こっか」


 自分から話を広げたくせに、そう言って渚は歩き出した。





「ねえ、やっぱり私たちの髪の長さでお揃いにしようってなったらカチューシャかヘアピンあたりだと思うんだけど、どう?」


 商品棚に並んだヘアアクセを見ながら桃華が聞いてくる。

 頷きながら、近くにあった白のカチューシャを手にとった。


「私もそう思う。バレッタとかでもいいけど……とれなさそうなのはカチューシャかな。でもはちまきもあるし、邪魔かも」


 私と渚では髪の長さがかなり違う。渚は結ぶような長さではないから、ヘアゴム類は難しい。


「色はどうする? 応援団に合わせて赤にする?」


 私と桃華は赤組だ。はちまきも赤い物を巻く。

 全体的なバランスを考えたら、赤い物を選ぶのが一番いいだろう。


「それもいいけど、他の人とかぶっちゃいそうだよね」


 私がそう言うと、渚はすぐに首を横に振った。


「それは絶対嫌。誰が見ても、私と桃華がおそろいだって分かるやつがいい」


 渚がじっと私を見つめる。にやけそうになるのを我慢しながら、そうだね、と返事をして頷く。


「私も、その方がいいな」


 だってみんなに、私たちの関係を見せつけたいから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る