第7話 変わり始める未来

 草壁優希という男は、人当たりがいい。

 陽キャ過ぎるかと思っていたけれど、実のところそうでもない。


 現に、私みたいな陰キャにも優しいし。


 顔よし、性格よし、おまけに高身長……コレはモテるわね。


 実際、高校時代だけでなく、草壁は大学生になっても社会人になってもモテる。

 渚と草壁が喧嘩した原因の大半は、草壁が他の女と仲良くしすぎた、ということだった。


 浮気じゃなくてただの友達……と草壁は言っていたらしいけど。


『浮気じゃなくたって、私を不安にさせるのは彼氏として最低だよね!?』


 渚に、何度そう泣きつかれただろう。

 そのたびに私は、そんな男はやめたら? と言ってきた。


 でも結局、渚は草壁と結婚することを選んだのだ。


「桃華ちゃん、図書室行こっか」


 そんな草壁は今、甘い笑顔を私に向けている。


 今日は初めてのカウンター当番だ。といっても、放課後の2時間だけだが。


 仕事は本の返却と貸出。図書室はあまり賑わっていないから、ほとんど座っているだけだろう。


「うん」

「待って、桃華!」


 私が立ち上がると、渚が慌てたように駆け寄ってきた。


「今日桃華、図書当番なんだよね?」

「うん」


 だから今日は一緒に帰れない、と伝えてある。


「私、図書室で待ってていい?」

「え?」

「だめなの?」


 だめなわけない。わざわざ一緒に帰ってくれるために待ってくれるなんて嬉しすぎる。


 でも……。


 草壁と話したりしないか、心配だわ。


「まさか、あいつと二人で帰る約束でもしてるの?」


 渚が草壁を見る目はとても鋭い。渚がこんな目で人を見るなんて、滅多にないことだ。


「してないよ」

「よかった。どう見てもあいつ、桃華に気がありそうだし」


 渚が不満げに頬を膨らませる。


 今、渚は確実に草壁のことをよく思っていないわよね?

 一度目の人生で、渚は仲良くなる前から草壁に対しては好意的だった。


 女子に大人気のルックスをしているし、人当たりもいいからだ。

 でも今、渚は草壁を睨みつけている。


 やっぱり、先に私が草壁と仲良くなるって作戦は成功だったんだ……!


「あんなチャラそうな男、桃華には似合わないよ」


 吐き捨てるように言って、渚は私の手をぎゅっと握った。





 放課後の図書室は静かだ。自習用スペースに人はいるけれど、みんな静かに勉強している。


 渚もそこに座り、宿題をしているようだった。

 といってもやたらとこっちを見ては手を振ってくるから、ちゃんと宿題が進んでいるのかは怪しい。


「桃華ちゃん、藤宮さんと本当仲良いよね」

「うん。幼馴染なの、私たち」

「へえ。なんか、あんまり似たタイプに見えないから、仲良いの意外かも」


 確かに、私と渚は似ていない。

 明るくて友達も多い渚が、ずっと私と親友でいてくれることは奇跡だとすら思う。


「仲良くなったきっかけとか、あるの?」

「明確なきっかけはないかな。一人でいる私に渚が声をかけてくれて、それから一緒にいるって感じ」


 渚と私は幼稚園も一緒だった。

 私は昔から内向的で、一人で絵を描いたり絵本を読んでいるような子だった。


 そんな私に渚が声をかけてくれて、一緒に遊ぼうと誘ってくれたのだ。


「渚がいなかったら、全然違う私になってただろうな」


 だから私は、渚を失うことが……渚が他の誰かの物になってしまうことが、許せなかったのだ。


 そうなんだ、と草壁が頷いた時、渚が立ち上がってカウンターにやってきた。


「本借りたいんだけど、桃華、おすすめある?」

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