【短歌50首】クレッシェンド(だんだんつよくいきる)

藍色彼等


聞いていた通り暗いな 東京の空には空気穴が少ない



今日特にだめだめだった私から傘を閉じます 雨の止みたて



まるだしの洗濯物に降りかかる雨にも相応の役割があり



雨の日の電車の中に一人分ホムンクルスのできる水分



その頃の涙の量を示すにはデシリットルが最適だった



もしここが遺跡になれば飾られるだろう取れないミントンの羽根



不特定少年少女 あまりにも匿名すぎる恐れを述べる



全部かよってくらい書いてる サジェストに その人のこと全部書いてる



「笑ってよい」とカードに書いてあったから強制効果じゃないけど笑う



でも僕は祈るしかない。泣きながら泣きながら送る不採用通知



「クレッシェンド(だんだんつよくいきる)」ってパーカッションのとこにだけ書く



語りえぬものについては黙らねばならず全人類がコミュ障



「さよなら」で発電しよう さよなら発電所の時給は高い



動いたら音が鳴るのに大日本シャカシャカ部隊はしゃかしゃかを履く



ここらへん誰も言わないけどずっとモーターの音がしてるけど誰も言わないよね



地下鉄がやってくるとき太鼓の音がしてる気がしてる、どうして



油断した窓が食べられ世界ってほんとはお菓子なんだとばれる



消し跡の残らない消しゴム不気味だ 塔の魔女しか持てないという



理不尽な、まったくもって理不尽なサラダだ、玉ねぎとニンジンをいっしょに、



「有料」を誤字っただけでこんなにも自信に満ちている駐車場



11月は毎日何かが褒められる月であることの発見を話す



悪事をした漢字たちにはさかなへんくっつけられてさかなにされる



「あたいもうだめかもしれん」久々に会ったかいぶつ疲弊している



「いたいの」の終着点か ぱっくりとひび割れている俺のささくれ



気をつけな! あんたの狙う標的はハーゲンダッツ平然と食う



飼い犬も全然噛むし「こんな俺だけど頼むぜ」って感じで噛ませる



チワワってプルプルしてるけどそれは「pull, pull」そう、退却の促し



「吾輩は」で言葉を切った猫もいてシュレディンガーに可愛がられた



終末が怖いよ僕は飼い猫の耳に囁くドントキルミー



市場では柔軟性が求められ重役席に座る猫たち



ねこ重い この猫を捨てたやつへと呪いを飛ばしてから眠る夜



「ここ俺が消した歴史だ」黒幕とタイムテレビを見ながら語る



「バールのYo! なものだったんですYo」偽ラッパーの供述を聞いている



今日はもう何でも良くて朝食はマッシュ・ド・君の目をパンに塗る



♠♢♣♡と並べば「♠♢♣」の部分が愛の囁きみたいに見える



「どのくらいきれい?」と聞かれて「数学Bの教科書くらい」と答えたことまだ根に持っているのだろうか



もしそこになかったらないです 店員に教えてもらう宇宙のルール



その人は水アレルギー持ちらしく僕の生まれた銀河を嫌う



眠すぎる春が続いて恐竜が絶滅しちゃう星もあります



寒すぎる冬が続いて恐竜が絶滅しちゃう星もあります

(とても遠くの星で詠まれたという歌の翻訳)



王様のスープの中にさそり座のしっぽの星を混ぜるアサシン



小惑星ベンヌを笑わせたいがため訓練をするコメディアンたち



分度器の工場を見れば泣きながら月をスライスするうさぎたち



月へ行く予定の僕ら いつまでもパンフレットが届かずにいる



死ぬことのひたすら怖く宇宙から逃げて地球で暮らす僕たち



轢かれたら死んでしまうよ 青っぽい信号ばかり選んで渡る



ため息はこっそり吐こう その方が死神にばれにくくなるから



バオバブの木だった 僕ら人間がお母さんだと思ってたのは



鳴り止まぬサクソフォーンが僕たちを誘拐したりしませんように



クレッシェンドデクレッシェンド各人の思う強さと弱さの響く

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