第13話 おにいとラブラブデート

 昼休みになり、俺は兎極に誘われて中庭へと行く。


「食堂に行かないのか?」


 食堂で昼食を取るつもりだったので食べ物の用意はしていない。

 一体、中庭に来てなにをするつもりなのかと思いつつ、俺は兎極とともにベンチへと座っていた。


「食堂は行かなくて大丈夫だよ。わたしお弁当を作ってきたから」

「えっ? 兎極がお弁当を?」

「ん? なんか意外って思ってる?」

「そりゃ……料理とかできそうに見えないし」


 喧嘩最強な姿を見せられていたら尚更である。


「ひどいなー。お料理は得意なんだけど?」

「そうなのか?」

「うん。いつかおにいに食べてもらおうと思ってママに習ったの」

「お、俺のために……」


 兎極が俺のために料理を習ってくれた。

 その事実を聞いて俺は嬉しく思う。


「はい。これがわたしの作ったお弁当だよ」

「お、おお……」


 大きめの弁当箱に詰められた料理を見下ろして俺の目は輝く。


 半分は白米。もう半分にはから揚げや卵焼きなどが入っている。

 斬新さは無いが普通においしそうなお弁当であった。


「い、いただきます」


 箸を受け取ってから揚げを口へ運ぶ。


 ……うまい。


 卵焼きも他のおかずもぜんぶおいしい。

 料理は自分でもするが、兎極が作ったこのお弁当のほうがずっとおいしかった。


「どう?」


 恐る恐るといった風な視線で兎極が聞いてくる。


「おいしいよ。すごく」

「本当? 気を使ってるとかじゃなくて?」

「本当に。こんなにおいしいもの初めて食べた」

「そ、それは褒め過ぎだって」


 照れた表情で兎極はかわいらしく笑う。


 俺と2人きりだと見た目通りただただかわいい女の子だ。他の誰かといるときに見せる抜き身の刃物のような危険な表情など微塵も見せなかった。


「あ、さっきはありがとうね、おにい」

「えっ? さっきはって?」

「教室でさ、あのクソ女がいいかげんなこと言ってたとき守ってくれて」

「ああ」


 天菜ならああいうことをする。


 良くも悪くも天菜の本性を知っていたのが功を奏した。


「小学校のときも同じことされて、そのときは自分で録音してたんだけど、昨日は興奮してて忘れちゃって……。おにいが録音しててくれなかったらわたし退学になってたかも。だから本当にありがとうね」

「天菜とのことは俺のせいだし、兎極がお礼を言うことでもないよ」

「おにいの困りごとはわたしのことでもあるの。だからありがとう」

「そ、そう?」


 ここまで慕ってくれるのは嬉しいが、やっぱり天菜とのことは俺の問題だし、あんまり巻き込まないようにしようと思う。


「あ、そうだ。今度の日曜日に映画を見に行こうよ。ね、いいでしょ?」

「えっ? ああ、構わないよ」

「やったっ。じゃあ約束ね」

「うん」


 俺が返事をすると、兎極は嬉しそうな笑顔を見せる。


 この表情をずっと見ていたい。そんな思いにさせられる心地の良い笑顔だった。



 ……


 …………


 ……………………



 日曜日の朝になり、俺は自宅の最寄駅前で兎極が来るのを待っていた。


 こうして女の子と待ち合わせをしていると天菜と付き合っていたころを思い出す。


 交通費や食費、買い物など全額を払わされ、帰るときにはほぼ無一文でげっそりしていた記憶が思い出され、俺はひとりため息をつく。


 なんであいつと付き合ってたんだろう?


 天菜は綺麗でかわいく、子供のころからなんとなく好きだった。その思いだけで告白して、付き合えたときは嬉しかったが……。


 楽しいことはなにもなかったな。


 本当に犬や奴隷みたいな扱いだった。

 しかしどんなにひどい扱いをされても別れなかったのは、尽くしていればいつか普通の恋人同士になれると思っていたからだ。その思いは完全に裏切られてひどく傷ついたが、今はよかったと思っている。


 天菜と付き合ったままだったら、兎極と出掛けることもきっとできなかった。


 2人はひどく仲が悪い。

 付き合っている状態のときに兎極と2人で出掛けるなんて言えば、激怒して俺を殴りつけてきただろう。


 兎極といるほうがずっと楽しい。


 早く会いたいなと思いつつ、俺は駅前で待っていた。


「ざわざわ……」

「うん?」


 なんだか駅前が騒がしくなってくる。

 なにやら周囲にいる人たちが同じ方向を向いて何事かを囁いているようだった。


「すごい綺麗……」

「えっ? マジで同じ人間なの? かわい過ぎるだろ」

「お人形さんみたい……」


 有名な女性アイドルでもいるのかなと俺もそちらを向く。と、


「あっ」


 注目の中心に歩いていたのは兎極だ。

 周囲の人たちは兎極の姿に目を奪われて呆然としているようだった。


「あ、おにいっ」

「と、兎極……」


 こちらへ歩いて来た兎極が立ち止まって俺を見上げる。


 か、かわいい。


 制服姿でも十分に綺麗でかわいいが、私服姿だとまだ別の魅力を感じる。胸の部分は大きさを強調するようなデザインで、少しドキドキした。


「私服姿で会うのはひさしぶりだよね。えへへ、どうかな?」


 恥ずかしそうに微笑む姿がまたかわいい。

 周囲が見惚れるのも当然であった。


「えっ? あの男の子が恋人なの?」

「おにいって言ってたし兄妹でしょ?」

「けどぜんぜん似てないよ。男の子はなんて言うか普通だし」


 ……普通ですいません。


 血の繋がりは無いのでもちろん似ていない。しかし綺麗でかわい過ぎる兎極とは兄妹よりも、恋人同士に思われるほうが難しいように思った。


「き、綺麗だよ」

「嬉しいっ。おにいもかっこいいよっ」

「俺は普通だよ」


 顔も服装も普通である。


「かっこいいの。えへ、ほら行こ」

「お、おう」


 腕を組まれて駅の改札へと引かれていく。


 美女と凡庸な男の2人組が珍しいのか、俺たちはどこまでも注目されていた。


 ――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 喧嘩最強だけど、料理も作れる女の子な兎極ちゃん。五貴をデートへ誘いましたが、何事もなく平和に楽しむことができるかどうか……。


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 次回は電車内で怪しい男女に絡まれて……。

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