昨日の出来事
昼星石夢
第1話プロローグ
プロローグ
ここは、奈良県にある
昔は市民の生活に欠かせない、食料品や日用品なんかはここで全て手に入ったようだけど、今は降ろされたシャッターが目立つ。
それでも数軒の店舗が独自の色で魅力を放ち、客足が途絶えることはない。
日が昇るうちは晴れやかな空気に包まれるこの場所だが、私が体験した真夜中の姿を知る人はいない。
がっかりさせちゃうかもしれないけど、幽霊を見たとか、不幸に見舞われたとか、そういう後味の悪いものじゃなかった。
ただ、ここじゃなかっただけ。
私は向かいの小学校に通っていて、夏休みの終わり、仲の良かった友達に誘われて肝試しに参加した。私をいれて十人、ちゃんと大人も二人、見守っていた。
ルールは簡単、商店街を往復するだけ。短い通りだし、一人ずつで。
そこまで気乗りしていなかった私は、一人、冷めた気持ちで行きを歩き、西口にでて一つ溜息をついて、自分の足先を見つめながら帰路についた。
異変を感じたのは、賑やかになったからだ。
いつもは遅くまで営業するお店も、今日はどこも閉まっているはず。なにより、西口付近は店舗自体が崩れて廃墟と化している。
顔を上げた、そこに広がっていたのは、砂埃をあげる地下足袋に、快活な声をあげる着物の女性、息を吹き返した店の看板だった。
混乱、後頭部を引っ張られるような、目が回るような感覚。とても立っていられなくなり、屈みこむと、
「どうしたんや、お嬢ちゃん」
乾物屋から男が出てきた。やってないはずじゃ?
「ああ、足を挫いたんやな」
男は私をおんぶすると、様変わりした商店街を歩きだした。
「誰だい、見ない子だねえ。あらあ変わった服やなあ」
生花店から出てきた赤い着物の女性が笑う。笑ったと思う、どんな顔か、思い出せないけど。
「足挫いたんやて。親はどこにいるんかな」
そう言いながら、私を東口まで連れていってくれた。男の背中に顔を埋めていて、見えなかったけど、商店街を出たとたん、またぐらっとして、私は小学校側の道路に倒れていたらしい。
信じてもらえないだろうから言わないけど、あの匂いは忘れない。
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