相手をハメないと出られない部屋

くろねこ

相手をハメないと出られない部屋(前編)

「は?なにこれ」



 気が付くと八畳くらいの無機質な部屋にいた。



 まわりを見回しても窓はない。

 壁も床も天井も、コンクリートのうちっぱなしだ。

 照明は目立たないように設置されていて視野に支障はなかった。


 存在感のある頑丈そうな鋼鉄製の扉がひとつ、奥の壁で異彩を放っている。


 映画やなんかで見る大銀行の金庫みたいな扉だ。普通のノブの代わりに自動車のハンドルみたいな取っ手が扉の真ん中にくっついている。


 部屋の中央にはシングルサイズの簡素なベッドが置いてあるだけで、なんだか不安をかきたてられて嫌な感じだ。


 何故だろうか。

 ああ、そういえばトイレがないんだ。もよおしたらどうしよう。


 とりあえず、十分くらい部屋のあちこちを見たり、壁を触ったり叩いたりしてみたが何も得られず、すぐに途方に暮れて俺はベッドに腰掛けた。


 すると唐突に、壁に文字が表示される。



「相手をハメないと出られない部屋」



 そう書かれている。

 内容よりまず、どう表示しているのかが不思議だった。


 壁と同じ色を映したディスプレイでも埋め込まれているのだろうかと触ってみたが感触は他の壁面と変わらない気がする。

 光源が見当たらずプロジェクターでもなさそうだ。


 ふと自分の格好を見れば、高校指定の少し気崩した、よく知るブレザーの学生服姿。

 携帯や財布、小物などは見当たらない。


 そもそも何でこんな部屋に?

 俺は、たしか教室にいたはずじゃ……。


 えっと、順を追って確認してみよう。

 

 俺の名前は井上健いのうえけん。父の名前は達之、母は幸子。

 いいぞ。記憶喪失というわけではないらしい。

 いつも通りに高校へ行ってそれから……。


 そんな調子で色々と記憶の確認はできたのだが、この部屋に閉じ込められた経緯だけはどうしても分からなかった。



 脱出に失敗したら死ぬデスゲームとかだったら冗談じゃないぞ。



 ふとよぎった不安に震える。

 待て待て落ち着け。

 


 恐いのは嫌だ。

 俺は努めて明るい方向へ、思考の切り替えを試みる。



 そうだ。


 エロ系とか、期待していいのか……?

  


 やばいな、クラスメイトには陸上部の江夏さんいるぞ。 


『ちょ…。ぼ、ぼくに何をハメる気だよ』


 黒髪ショートのスレンダーな日焼け美人が顔を赤らめているのを妄想する。

 陸上女子のユニフォーム姿で。

 なかなか悪くない。



 学級委員の立花さんだったら……。              


『わたしこんなに男の人とお話するの初めてかも』


 なんて、文系清楚な黒髪ロングのおっとり美人はチャーミングなたれ目を潤ませる。

 うん、何か良い。とても良い。

 そして気づく。


 ど、どどど、どうしよう!

 ってか、二人っきりになったら、どんな会話をしたらいいんだ!!



 シュバッ



 動揺したとたん、まるで空気を読んだように俺の目の前に人影が出現した。


「き、きたぁあああ!?」

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