掲示板で不用意に書き込んだばっかりに最早絶望しか無いんですが、やっぱ無かったことになりませんか?

斎藤 ケイジ

神『最後にやったゲームに転生してゲームクリアしたらどんな願いも一つ叶えてやるぞい』

神『最後に遊んだゲームに転生してゲームクリアしたらどんな願いも一つ叶えてやるぞい』


1、やるんだよ名無しさん


 やる?


 ちなルール


 ①参加条件はストーリーがあり明確にゴール(クリア)のあるゲームのみ、ジャンルは問わない

 ②成功条件はゲームが目的とする最終目標を達成すること

 ③失敗条件はゲームが目的とする最終目標を達成できない状況に陥る事、もしくは完全な死

 ④基本的にコンテニューは不可、ただし蘇生魔法とかのゲーム内のシステムにある蘇生方法は可

 ⑤舞台はそのゲームの世界を限りなく忠実に、かつ現実に落とし込んだシステムとなる

 ⑥ストーリーの本来の流れに沿うか抜け道を探すかは自由、ただしそれで原作の流れが変わって成功条件を満たせなくなることは有り得る(現実なので)


 こんな感じ


2、やるんだよ名無しさん


 Dead Islandが最後にやったゲームなんやが無理ゲーやな


3、やるんだよ名無しさん


 『キル・デス』プレイ中ワイ、無事終わる模様


4、やるんだよ名無しさん


 やる


 ToB死ぬほどやり込んだワイならノーコン余裕


5、やるんだよ名無しさん


 ≫4


 お、期待してるで


6、やるんだよ名無しさん


 ⑥のルールがよう分からん


 成功条件満たせなくなったかはどうやって決まるんや?


7、やるんだよ名無しさん


 ≫6


 神の視点からどうやっても無理だと判断したらやね


 逆に言うと0.01%でも可能性があるなら続行


 ただしそんな状態になってるかどうかは教えて貰えないものとする


8、やるんだよ名無しさん


 0.01%は実質もう無理やろw


 むしろ1%切った時点で終わらせたってくれやwww


9、やるんだよ名無しさん


 ≫8


 ほなそうするか


10、やるんだよ名無しさん


 適当かい!www


11、やるんだよ名無しさん


 おれ配管工になって姫を助けて酒池肉林の夢を叶えてもらうわ


12、やるんだよ名無しさん


 姫助けたやつの願いじゃねぇwwwwww


13、やるんだよ名無しさん


 ≫11


 酒池肉林ええやん、素直で


 ほな11は参加ね


14、やるんだよ名無しさん


 こう言うの見ると毎回思うんだけど何の得があって神はそんなことするん?


15、やるんだよ名無しさん


 ≫14


 得とかってよりどうやってクリアするか見たい、みたいな?


 実況動画見てる感じ


16、やるんだよ名無しさん


 趣味悪くて草


 失敗したらどーなるん?


17、やるんだよ名無しさん


 ≫16


 そらそこで終わりよ


18、やるんだよ名無しさん


 終わりって何やねん


 現実世界に戻るんか?


19、やるんだよ名無しさん


 ≫18


 終わりは終わりよ


 まあ、死やね


20、やるんだよ名無しさん


 ペナルティー重すぎて草


 何で暇つぶしで死ぬ必要あんねん


21、やるんだよ名無しさん


 どんな願いも叶うんだから妥当なリスクじゃね?


22、やるんだよ名無しさん


 クリアしたら自動的に帰れるん?


 それとも帰るって言う願いになるんか?


23、やるんだよ名無しさん


 ≫22


 帰るか残るかは願いとは関係なく選べるものとする


 ただし残る場合は以降の責任は神は負わないものとする


24、やるんだよ名無しさん


 あ、帰してはくれるんか


      ・

      ・

      ・

====================


「お、またこれ系のスレか」


会社から帰って風呂と飯を済ませた堺竜司さかい りゅうじは何時ものようにPCの前に座って掲示板を開いていた。


高校を卒業してから就職して5年。


就職した会社がブラックで毎日上司の罵詈雑言と激務に追われる日々を過ごしている竜司のささやかな楽しみが、ゲームと掲示板という典型的なオタクである。


もちろん彼女などいたことも無い。


今日も掲示板を覗いていると『最後に遊んだゲームに転生してゲームクリアしたらどんな願いも一つ叶えてやるぞい』と言うスレが目に入った。


偶に有るこう言う架空のシチュエーションを設定して、やるかどうかを問いかけるタイプのスレは竜司の好物だった。


かなり不毛な事をしていることは承知だが何となくワクワクするのだ。


結構本気で自分だったらどうするか、設定された条件を叶えられるかを考えるだけで楽しいものだ。


「最後に遊んだゲームか。あー、俺の場合は『オブリビアント・ガレルランド』か。ゴリゴリの死にゲーだけどかなりやり込んでるしなぁ。ワンチャンいける…か?」


オブリビアント・ガレルランドとは国内外で有名な死にゲーであり、高いプレイヤースキルと不屈の精神が求められる今日日少なくなってきた硬派なアクションRPGである。


物語の舞台は神々の築いた失楽園ガレルランド。


-かつて黄金の時代と呼ばれた程に隆盛を極めた世界だったがいつしか神々は隠れ、世界は淀み狂った人々が変じた怪物達との血みどろの争いに溺れた。名も無き主人公はそんな世界で放浪者として世界を旅しているうちに実しやかに囁かれる伝承を耳にする。神々は世界を治る事を辞めた時【そこ】に王権を残して去って行った。空の玉座に座ったものが次の世界を収める王として君臨し、この世界を平定に導くのだ、と。かくして主人公は王となり世界を再び黄金の時代に戻す為に玉座を探して旅をする-


と言うのがこのゲームのメインストーリーである。


丁寧に作り込まれたマップとこちらの意識の隙をつくような敵の配置やモーションによって、今作で三作目になるオブリビアントシリーズ経験者ですらクリアまでに最低100回は死ぬ、てか1000回死ぬなど掲示板で言われることもある高難易度ゲームだ。


だがその難易度は決して理不尽な物ではなく飽くまで何度も繰り返しパターンを覚えたりプレイヤーの創意工夫で突破できる物で、その絶妙な難易度調整はもはや芸術の域である。


「ガレルランドでは死んでも神々の残した祝福の残滓を持つ主人公は心が擦り切れて狂うまでは復活できるって設定だったよな」


オブリビアントシリーズは、大体の死にゲーがそうなのだがゲームシステムが死にまくることを想定した難易度の為に死んでも復活出来る『理由』が世界観に盛り込まれているのだ。


このゲームではそれは神々の祝福の残滓という形でふわっとした説明が成されており、死の痛みと恐怖に心が擦り切れて人間性が失われない限り本当の意味での死は訪れないという設定だ。


まぁ、プレイヤーのやる気が続く限りゲームをリプレイ出来ます、と言うのをそれっぽく言っただけなのだが。


「これ、キャラクリとかはどうなるんだろう?…聞いてみるか」


スレの流れを見ているとスレ主にスレ民たちが不明点を聞いているようなので、自分もそうして見るかと軽い気持ちでコメントを打ち込んでみる。


====================


59、やるんだよ名無しさん


 イッチに質問なんやがこれキャラクリあるタイプのゲームはどうなんの?


 自分そのものでゲームスタートは結構厳しそうなんやが


60、やるんだよ名無しさん


 レースゲームとかどうすりゃええん?


61、やるんだよ名無しさん


 ≫59


 キャラクリは最後にやったゲームの最後のデータの初期状態でスタートする物とする


 見た目もそのデータに準拠で


 ≫60


 ルール①に書いてある通りストーリーの明確なクリア条件があるゲームじゃないと参加資格なし


 何で一定数文盲おんねん


62、やるんだよ名無しさん


 どこだと思ってんだ


 俺たちがまともにルールとか読んでるわけないだろ!いい加減にしろ!


63、やるんだよ名無しさん


 ええ…(困惑)


====================


「スレ民終わってて草。でもそうか、うーん最後にやったのは周回用に作ったキャラで出自は『故知らなぬ貧民』だったよな。序盤はマジでハードだけどステータスは一番優遇されてるんだよなぁ」


オブリビアントではキャラクリの際にそのキャラの出自や職業を決める事ができた。


その出自によって初期ステータスや初期装備が決まっていて、序盤以降ではレベルアップによりその差を無視して育成できる為最終的にはまぁ関係ないのだが、何せ難易度の高いゲームなのでこの出自によって序盤の難易度の調整を各自行ってね、というゲーム制作者の意図があった。


例えば『武門の出』であれば初期からロングソードに鎧一式を装備しており、体力・スタミナ・筋力といった直接戦闘に関わる初期ステータスがやや高いといったものだった。


他には最初から簡便な魔法を操ることの出来る『青き血の貴族』、器用さの値が高く最初からレアアイテムを複数所持している『逃げ出した盗人』、魔法とは別の奇跡を覚えている『追放された聖職者』などがある。


それぞれが初期ステータスに何かしらの秀でた部分と劣る部分、そして装備の強弱が調整されており多少のスタートダッシュのし易さはあれど総合的に見て同じ程度の能力値で始まる。


まぁ初心者なら圧倒的に『武門の出』か『青き血の貴族』がおすすめである。


しかし竜司が最後にやったセーブデータではそれらの出自は選択していない。


シリーズ経験者の玄人用に用意されている『故知らぬ貧民』という出自を選んでいた。


このキャラは追い剥ぎにでもあったのか防御力皆無でギリギリ局部が隠れるのみの襤褸布を纏い太い枝にしか見えない棍棒しか初期装備が無い。


しかも初期ステータスには何ら秀でた所がないという縛りプレイ用のキャラなので有る。


だが、流石にこれだけでは酷すぎる為かこのキャラを選ぶ利点も有る。


それは初期ステータスに秀でたところが無い代わりに劣ったところもないと言うことだ。


しょーもない恩恵に思えるがこれは中々に大事なことだ。


ほぼ全てのRPGで言えることだが、序盤のステータス割り振りと言うのは悩ましい所だ。


経験値の獲得量が少ない序盤ではどうしてもステータスの一部を切り捨てねばならず、育成の方法を最初のステータスの長所を伸ばすか短所を補うかしか選択肢がなく、前者を選べばピーキーすぎる性能に苦労することになるし後者を選べばどうしても中途半端になってしまう。


その点『故知らぬ貧民』は初期レベルの頃からステータスが全て同じ値であり、しかもその値も他の出自の一番高いステータスの値より少し低いくらいという総合的に見れば初期ステータスは一番高いのだ。


どの方向にもステータスを伸ばす事が出来るために、一番育成の楽しみがあり経験者の半分はこの出自を選ぶと言われている。


「ガレルランドの世界に転生ねぇ…。マジでキツそうだけど、死ぬことのない世界で何度でもリトライしながらラスボス討伐を少しずつ目指すっていうとなんかできそうだよなぁ。…現実世界はブラック過ぎる上に終わりがないってこと考えるとそれ以上にハードだし。ハハっ、はぁ」


そうだ、どうせ現実では明日も課長に怒鳴られながら詐欺まがいの商材を無茶なノルマをこなす為に売り歩くのだ。


そんな毎日を当てもなく続けるくらいなら刺激に満ちていながらも攻略法も分かってるやり込んだ世界で死に物狂いで戦ってた方が何倍もマシだろうと感じてしまう。


しかもクリア後にはどんな願いも叶う特典付きだ。


そんなことを考えながらスレにいつものように、深い考えもなく書き込んだ。


「ワイも、参加、希望っと。正直、無理ゲー、だけど、死にゲー、世界、のが、現実、より、マシだから、っと」


そう呟きながら書き込むとすぐにイッチスレ主の返信がついた。


「死にゲーより酷い現実とか可哀想やな。でもそっちのがモチベ高そうやから参加してくれるなら嬉しいわ。注目しとくから頑張ってや、か。ハハッ、なんかマジで神様みたいな口ぶりだな」


そうして暫くスレの流れを見守ってから明日に備えてベットに入った。


もし本当にゲームの世界に転生したなら、なんて妄想しながら。





その時の俺は多少の苦労はあれど華々しく異世界で活躍する自分しか想像していなかった。


恐怖というものの本当の姿を想像もできてなかったのだ。

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