第三十八話 Blues・ブルース

 ブルースを聴いた事はあるだろう。独特のけだるい悲壮感がある。演歌などの悲しみにはない、どこか悲しいばかりじゃない明るさ?もある。乾いた感じがする。


 ブルースはイスラムの音楽の影響があると思う。北アフリカにはイスラム圏の国が多くあり、人々はキリスト教会音楽のドレミとはまた違った音程感を持っていた。上に行くほど少しフラットして、喉声で歌うと高い音ではフラットして皆こんな感じになるような、ある意味で自然な音階だ。 

 乾いた砂漠に吸い込まれるような悲壮感が延々と続く。古代の教会音楽もこのような響きを持っていた。その名残として中世ではドレミファのファが半音高いのが、当時の標準の音階だった。


 この音階はスペインにイスラムの人々が住んで (アルハンブラ宮殿で有名なグラナダ王国を創った) 残したものを、フレットのあるギターで演奏されたため、音階がキリスト教会音楽風のチューニングになり、乾いた感じは消え、深い叫びのようなフラメンコに変わっていった。


 そしてアメリカでは黒人独特の音程感として、あらゆる音楽に受け継がれていった。ジャズ、ロック、R&B、カントリー等などである。つまり洋楽を語るにはブルースは外せない。

 ドレミファソラシドの3,5,7音、つまりミとソとシが4分の1音下がる。譜面の表記のように半音下がるのではない。分からなければシカゴブルース等を沢山聴くと良い。そして暗いけど明るさの残る、悲しいけれど絶望してはいない気持ちを学ぼう。

 マイルスの根底にはブルースがあると思っている。だから明るいか暗いかの一択では音楽が出来ない。

 どんなに明るい人にも悲しみが無い訳ではない。どんなに暗い人も希望が無い訳じゃない。みんな生まれてきた理由があり、この人生で学んでいるのだ、とマイルスは思った。そしてそんな人生の機微を自分は音楽にしたいのだと思った。

 黒人の故郷のアフリカにブルースはない。アメリカへ奴隷として連れて来られて、新天地で理不尽な生活を強いられて、教会音楽と出会ってブルースは生まれた。魂の叫びだった。

 何で自分たちはこんな目に合うのか、しかし労働の合間に味わう生命の喜びは何なのか、美しい自然は何なのか彼らは歌にした。

 天国に行くための準備なのか、学ばなければならない神の試練なのか、“Summertime” はきっとそんな歌だった。

 黒人たちの意に反して黒人音楽はBlack Musicは文化として白人社会に浸透していった。

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