第二十四話 支えた彼ら

 野尻は宮崎だが撮影には鹿児島空港から入る。何か新鮮だ。鹿児島空港は山の中にある。山をいくつか越えたと思ったら、いきなり滑走路が出てくる。宮崎空港は海岸線に沿って飛ぶと、砂浜の向こうに滑走路が見えてくる。かなり対照的だ。


 一度だけ宮崎空港から入った時、マイルスは叔母の墓参りをした。チーフアシスタントの野崎は車で迎えに来て、墓の場所に連れて行ってくれた。墓の前までだ。迎えの前に時間があったので墓の場所を調べておいたらしい。

 監督に一番怒られるポジションにいるのに細やかな気遣いをする。一緒に墓参りをしたマイルスの母はすごく感激していた。



 野崎はスケジュールも組み立てる。いつもかなり過密スケジュールだ。監督をこき使うのも彼だった。しかし彼はあてになる。あてにならないと怒られる。そうとう損なポジションなのに楽しそうに働いていた。人や物、場所や機材の調達まで忙しいので、現場ではよそ見も出来ない。しかしよそ見も出来ないと現場は守れない。仕事は次から次へと生まれる。

野崎は「これが映画なんだ」と忙しさが嬉しかった。


 マイルスは映画作りで怖い存在みたいだった。しかしこれは立場上で、ダメはだめだと言わなければならない。しかもこのダメはずっと続くダメではなく、訂正されればOKの一瞬のダメである。それでもダメを出された相手は引きずる事もある。何のことはない。撮影はバンドと一緒で立ち止まれないのである。

 

 一度などはライトと撮影隊が画面かなり奥のガラスに映りこんでしまったOKテイクがあった。みんな目の前のドラマの方に集中するので仕方ないが、全員でモニターを確認するのだが全員ドラマしか見ていない。これが困るのだ。誰かモニターの隅しか見てないとか、光がおかしいとか言うスタッフが欲しいのだ。東京に素材を持ち帰って、夕方のシーンだったので夕陽の反射に置き換えて済ませた。しかしパンすると一緒に動くので編集がなかなか難しかった。その場で完璧にOKのテイクが撮れればすごく楽なのだ。


 少し楽をしたいマイルスは映画冒頭のクレジット、エンドロール、字幕などを岩永に任せた。彼は音声助手や素材の管理、記録などの仕事もこなした。決して器用ではないが、ダメ出しにもあきらめずにやる、それがマイルスには一番有り難かった。

 岩永は今の奥さんとは、定彦の手ほどきによって一緒になった。指示はこうだった。最初のデートでは絶対手を出すな、そして2度目のデートでは必ず手を出すこと、これが定彦の指示だった。岩永は指示を守った。結婚できた。なんて真面目なやつだ!


 主役で理事で脚本の米山はスタッフのそんな成長を見ていた。部長クラスの映画スタッフだが、上手く立ち回る奴、不器用に監督に怒られる奴、それでも映画の成功に駆け回る奴がいるなと、そんな風に見ていたそうである。


 音楽は音なので目には見えないが、気持ちが伝わる。映画は演技が見えるようだが、気持ちは見えない。この気持ちは共鳴であって、同じ気持ちを持っていないと共鳴しない。伝わらない。


 すなわちテクニックではない。ドキュメンタリーではない。さとやま遊人郷の気持ちを伝えるのだ。これはレンズを覗いても見えるわけではないが、何かの拍子に、画角や表情や口調やライトやらのマジックが起こって気持ちが見えるようになる。

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