第十六話 夜の公園

 黒猫は大木の上にいた。

 陽が傾いていく。ニューヨークの夏のセントラルパークは9時前位まで明るいが、一旦陽が落ちるとあっという間に暗くなった。

 セントラルパークには街灯があるのだが、道から外れた此処までは、明かりは届かない。暗くなった公園を逃げるように家路を急ぐ人々が、不審そうにマイルスを見る。親切な紳士が、もう公園は危ないと教えてくれる。でもマイルスは、ここを離れるわけにはいかない。もう黒猫は見えなくなって、眼だけが光ったように思えた。

 怪しそうな人影が近づいてくる度、マイルスは木の幹に身を隠した。今年も公園では何人もの人が強盗に会ったり、レイプされたり、殺されている。そっと名前を呼んで見るが、黒猫はミャーとも言わない。時間はどんどん過ぎ、もう真夜中近くなっていた。時々ティーンが遊んでいるのか、何か起こっているのか、ブルースのシャウトの様な叫び声が聞こえる。とんでもない目に遭うかと思うと、生きた心地がしない。と、その時一台のポリスカーが近づいてきた。

 警官の一人は車を降り、少し身をかがめてこちらへ近づいてきた。左手で懐中電灯をこちらに向け、右手を腰の拳銃にかけ、突然の出来事に身構えている。もう一人は車の中で事態に備えている。

 警官は、こんな所で何をしているのかと、尋ねて来た。不審者と見られれば、しょっ引かれる。マイルスは、飼い猫が木に登ったきり、降りてこないと告げた。どこにいる、と彼は尋ねた。指差す方にライトを向け、黒猫の眼が光ったのを確認すると、おもむろに拳銃を抜いた。

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