(二)-10

 とはいえ、だからといって二人がトラブルと完全に無縁であったかといえばそういうわけでもなかった。むしろ小さいながらのトラブルはしばしば起きた。特に肉体労働の現場だ。女性は彼女たち二人だけではなかったものの少数派であったことは事実で、そのために彼女らにちょっかいを出す男性は少なくなかった。

 この日も民警の発砲音が複数なる横を通り過ぎようとしたとき、悦子らの隣の作業グループの男性二人が声を掛けてきた。以前から時々声を掛けてきた者で、そのたびにあしらっていた。そしてこのときも、北俣恭司と名前の入ったヘルメットを左手で抱えた中年男が品のない笑みを口角にたたえながら「なあ、一度でいいからやらせろよ」と言ってきたのだった。


(続く)

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