第41話 リクエスト番外編・婚前旅行で温泉デート!?④
「婚約者も将来の王族だからな、デビュタントの有無に関わらず参加が義務付けられているんだ。昨年は兄上の婚約者として、アイシラ・イェールランド公爵令嬢が参加した。」
「……知りませんでした。」
「まあ、下位貴族は、有志のみの自主参加だし、デビュタントもまだの令嬢は、そもそも参加出来ないからな。
君が知らないのも無理はない。」
「え?てことは私、あと数ヶ月で、馬に乗れないといけないんですか!?」
「別に私と一緒の馬に乗っても構わないぞ?
私も昔は父上と入場したしな。」
「それってアドリアンが小さい頃の話ですよね!?私をいくつだと思ってるんですか!」
「バレたか。」
そう言ってクックックと笑う。
「だが別に、婚約者と同じ馬に乗って登場するのは、そこまでおかしな話でもないぞ?
仲がいいのだと思われるだけの話だ。」
「う……。練習頑張ります。」
だって、注目が集まって、人の目が怖い!
「親が王子の婚約者を狙っている貴族は、娘に乗馬を習わせることが多いが……。」
「たかが子爵家のうちが、そんなこと考えているわけがないじゃないですか。
おまけにうち、ビンボーなんですよ!?」
乗馬なんて習うお金があるわけがない。
「男爵家でも、娘の美貌に自身のある家は、普通に狙ってくるぞ?まあ、伯爵家以上からしか、通常は選ばれないがな。」
「……狙われてたんですか?」
「まあ、婚約者もいなかったしな。」
シレッとアドリアン王太子が言う。
狙われてたのね……。
「別に並んで行進するだけのことだからな、そこまで難しいものでもない。馬は歩かせるだけなら、ある程度運動神経があれば、1日で乗りこなせるようになる。」
「それってアドリアンだから、なんじゃないんですか?普通の人をそれと一緒にしないで下さいよ。1日なんて、たぶん無理です。」
ましてや私は運動神経がいいほうではないのだ。というか、どちらかと言えば悪いほうなのだ。とても1日で出来る気はしない。
「馬はリズムが命だからな、運動神経はあまり関係ないんだ。馬と呼吸を合わせられるかどうかだけだ。きっとだいじょうぶだよ。」
私の心を読んだかのように、そう言ってくるアドリアン王太子。
「はあ……。とりあえずがんばりますけど。」
「ああ、そうだ、風呂から出たら、君に足のマッサージをしてあげよう。このあたりの名物で、恋人や夫婦に人気の、パートナーに施すオイルマッサージの香油があってな。
今日の為に取り寄せておいたんだよ。」
「へえ!そんなものがあるんですね!」
「ああ。湯上がりに行うのが、肌も綺麗になるし、リラックスしてゆっくりと眠れるんだそうだ。赤ちゃん用の物もあるんだぞ?」
「確かに赤ちゃんも使えるような物なら、肌にも優しそうですね!」
「ああ、だから将来2人の子どもにも使おうかと検討していてね。」
……。
そう言って、ニッコリ微笑むアドリアン王太子。あ、あ、赤ちゃんって!!
私は2人で子どもを抱いてる将来図から、赤ちゃんを作る為にベッドに誘われるところまでを、一気に想像して頭がぐるぐるする。
私が何を想像したのか察したように、ニコニコしているアドリアン王太子。
ううう……。遊ばれている気がする!
「──ところで。」
アドリアン王太子が、急に声のトーンを変えて、私をじっと見つめてくる。
「ずいぶんとこの状態に慣れたみたいだね?
裸で私と2人っきりでいるというのに、緊張がほぐれたのかな?」
確かに言われてみると、さっきまでめちゃくちゃ意識してたのに、今は普通に話せているわよね。緊張がほぐれたのかも。
「確かにそうですね。アドリアンが色々話してくれたからだと思います。」
私は素直にお礼を言った。
「私はそんなつもりはなかったんだけどね。
君をドキドキさせたかったのにな。私が本当に何もしないと思っているのかな?」
「そりゃあ、だって……。」
信用してますし、と言おうとした私に、
「──ん?」
と妖しく微笑みながら、私の両サイドに手をついて、逃げられないようにしてくる。
「ここには私と君の2人きり。従者すらもいない。私がなにをしても、止める人間はいないということだ。どういうことかわかる?」
「え、えっと……?」
「裸の君と2人きりだなんて、私の理性がいつまで持つのか、君は賭けているつもりなのかな?だったら君の勝ちだ。
……どうやら、もう持ちそうにない。」
ちょ、ちょっと!?
思わず両手で胸を覆ってしまった私の腕をグッと掴んで、ひとまとめにして頭の上に持ち上げると、突然キスをしてきた。
裸の胸に、アドリアン王太子の裸の胸が当たって、直接心臓の鼓動が伝わってくる。
パシャン……と水の動く音と、風が木々を揺らす音だけが浴場に響いた。
私の下唇の感触を味わうように、何度も唇で唇を噛んでいる。そのままチュッと吸われたりして、思わず足をもじもじしてしまう。
な……なんか変な感じがする!
「……気持ちいいね、君の唇は。
ずっと味わっていたいよ。」
そう言って軽く舌なめずりするアドリアン王太子は、星空を背にして美しかった。
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