第39話 リクエスト番外編・婚前旅行で温泉デート!?②

 私が真っ赤になって、口をパクパクさせていると、それを見たアドリアン王太子が、私の左肩に額を付けてクックックと笑い出す。


「もちろん私としては、早く君とそうなることを望んで入るけれど、焦るつもりはないから今日は安心していいよ。」


「そんなこと言われても、こんなことされていると、信用出来ないんですけど!?」

 未だに外されない、私のお腹を抱えたままの腕を外そうとしながら不満を訴える。


「それは困ったな。誠実な婚約者としての私を信用して欲しいものだね。

 ……でも、もしも君がそのつもりなら、やぶさかではないけれどね?」


 妖しく耳元で囁いてくる。

 思わず、握られていないほうの左手で、バッと左耳をおさえて振り返った。


「くくく……。本当に君は、からかいがいがあるね。食べてしまいたくなるから、──あんまり煽らないでくれよ。」


 グイ、と強引に抱き寄せられて、顔を更に後ろに向けられながら、肩越しにアドリアン王子の唇が、私の唇を奪ってくる。

 もう!もう!人前なんだってば!


 その時私の体が光りだす。これは……、お風呂?なんで私とアドリアン王太子が、一緒にお風呂に入ってるの!?


「おや、なにか見えたかな?やっぱり従者をたくさん引き連れて来て正解だったようだ。

 おかげでかなり、君がドキドキしやすくなってるみたいだね。」


「わ……わざとだったんですか!?」

 テラスには2人だけとはいえ、部屋の中には侍女が控えている。なにかあればすぐに対応する必要があるから、当然しっかりこちらを見ているっていうのに。


「そうだよ?君は恥ずかしいとドキドキしやすいたちみたいだからね。特に人前だとそれが顕著だ。私は自分の奥さんのことを、よくわかっているだろう?」


 そう言って、甘く微笑んでくる。く……悔しいけどそれは、認めざるを得ない。

 それよりも、奥さんって!奥さんって!

 あっさり言わないで欲しい、恥ずかしい!


「それで、何が見えたんだい?」

「お風呂に……。」

「うん?」


「アドリアンと……、2人きりで一緒にお風呂に……って、まさか、旅行先が温泉になったのって、それが目的だったんですか!?」


「いや?そういうわけじゃないけど、それも楽しみのひとつかな。今夜が楽しみだよ。」

「け、結婚前ですよ!?」

「いいじゃないか、結婚するんだし。」


「は……、恥ずかしいですよ!」

「君を恥ずかしがらせるのが、旅の目的だからね。そこは了承してもらわないとね。

 それにこれは国王命令だよ?」


 笑顔のアドリアン王太子に、ぐっと言葉につまる。国王命令。星読みの聖女としての、私の能力の開花は、国の重要な課題のひとつだ。他の6人の聖女さまたちは既にいる。


 長年聖女がいなくて、代々聖女が生まれる国にも関わらず、中央聖教会での、聖女さまを集めた集まりに参加出来ないでいるのは、ステファモ王国だけなのだ。


 私という聖女が誕生したからには、早く星読みの聖女としての能力を安定させた状態で、聖女さまを集めた集まりに参加させたいというのが、国王さまの本音だろう。


 だから、開花の方法を把握している王妃さまの進言で、こうして息子が将来の妻といちゃつく場を用意してまで、開花に協力してくれているというのはわかるんだけど……。


 だからって!だからって、お風呂!?

 だけど、アドリアン王太子といちゃつくさまを見せる為に──もちろんそれだけじゃないだろうけど──そこここに配置された従者たちの中に、それを諌める人はいない。


「み、みみみ、水着は用意してるんですよね!?いくらなんでも裸じゃ……。」

 ここは日本人が作ったゲームの世界だから、水着くらいはある筈!


「水着?そんなものは用意していないよ。

 ああ、でもタオルくらいは許可してあげるよ。さすがにいきなりは恥ずかしいだろうからね。私は優しいから。」


「タ……タオルって……。」

 結局その下は裸じゃない!?見られるのも恥ずかしいけど、アドリアン王太子のを見ちゃうのも恥ずかしいのに!!


「食事が終わったら、一度部屋に戻って、侍女が準備を終えたら呼びに来るからね。

 楽しみだね?アデル?」

 アドリアン王太子がニッコリ微笑む。


 に……逃げられないいぃい〜!!


 夕食は贅をつくした豪華なもので、地元のお魚なんかがふんだんに使われているとかなんとか、料理長が説明してくれていたけど、私は何も頭に入らなかったのだった。


 話しかけてくるアドリアン王太子の言葉にも、生返事を繰り返していた。一度部屋に戻ったあと、侍女がやって来て、お風呂に行く用の専用の服だという、プルオーバータイプのワンピースに着替えさせられた。


 い……いよいよ、混浴、なのね!

 ゴクリ……。

 案内された脱衣場で、ワンピースを脱いでタオルで前を隠しつつ、お風呂場に入る。


「わあ……!綺麗……。」

 そこは一面の星空だった。岩で仕切られた露天風呂になっていて、視界の先には洗い場と、浴槽と、空しかなかった。


 素敵……!こんなお風呂に入れるなんて!

 湯気で曇ってよく見えないけど、お風呂は透明じゃなく、乳白色のお湯だった。

 これならはっきりとは見えないかも?


 私は体を洗うと、タオルを岩場に重ねて、湯船にそっと体を入れた。気持ちいい……!

 お風呂は熱過ぎず温すぎずの温度だった。


 思わず手足を伸ばしていると、

「おや、タオルを巻いて来なかったのかい?

 いいと言ったのに大胆だね?」

 と、笑うアドリアン王太子の姿が見えた。


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