第36話 ハーネット令嬢の追放

 使えなくなるというより、最初の1回め以降、──同時に何箇所もに出現するのだ。実際時間軸として同時なのかは、ゲームでは1箇所ずつしか行かれないからわからないの。


 だけど、何度リセットして別の場所に行っても、占いの館が出現されるとされるどの場所にも、必ず占いの館がたっていたことから、同時に存在するものだと仮定される。


 そうすると、1箇所ずつしか行かれないゲームの時と違って、ハーネット令嬢に先回りされてしまう可能性がおおいにあるわけね。


 しかもこの方法を使うと、一気に30%も好感度を上げ下げすることが可能なのだ。

 逆ハーレムの条件を揃えることが可能で、私はこれで逆ハーレムを達成した。


 つまりハーネット令嬢が下げたくてたまらない、マクシム・ミュレール王弟殿下の好感度を一気に下げることだってたやすいのだ。


 マクシム・ミュレール王弟殿下の好感度を下げられずに、相手から逃げ回っていたことを考えると、ハーネット令嬢は、その方法を知らないということにもたどり着ける。


 攻略対象者とエーリカ・ハーネット令嬢の好感度を下げた時、ヒロインにではなく、私と悪役令嬢との信頼度が高まる筈だと予想したのだけど、そしてそれは実際そうだった。


 占いの館の魔女はこう言うのだ。

 《あら、彼女はに感謝しているようね》、と。あなた、の部分に名前はない。

 好感度を下げた人に対する信頼度なのだ。


 あの日アドリアン王子に抱きしめられてから、私の星読みの力は完全に開花した。星読みの力で、出現さえすれば、最初の1回めの学園内の占いの館の位置をあてられるのだ。


 そうして私は、アイシラ・イェールランド公爵令嬢、ルルーシェ・スヴェンソン侯爵令嬢、ケリーニャ・アウグスタント侯爵令嬢、マリアンヌ・アインズゴーン侯爵令嬢とともに、同時に占いの館を制覇したのだった。


 ──そして、もう1人。私が自ら好感度をマックスに上げた人が、花束を持って、エーリカ・ハーネット令嬢に近付いていった。


「妻とは離婚するよ、エーリカ。

 私と結婚してくれるかい?」

「マ、マクシム……さん。」


 愛おしげに微笑んだ王弟殿下に、ハーネット令嬢はダラダラと汗を流していた。それを見た生徒や教師たちはついに悲鳴を上げた。


「既婚者のミュレール先生とまで!?」

「なんてとんでもない女だ!」

「私の婚約者も誘惑されたのよ!」


 人々がざわめく中、黒いローブをかぶった人影が、フッとこの場に姿を現した。

 占いの館の魔女だった。


「な、なんだ!?」

「突然人が現れたぞ!」

「誰なの!?」


「お、お師匠さまぁ……。」

 ハーネット令嬢が、蠱惑的な笑みを浮かべた魔女に、すがるような目を向ける。


「可愛い弟子よ、あなたは魔女には相応しくないようです。あなたに授けた力は既に取り上げました。ですが代わりのものを手に入れたようですね。私はまた弟子探しの旅にでも出るとしましょう。遠くからあなたの幸せを見守っていますよ。どうかお幸せにね。」


 これは逆ハー失敗かつ、攻略対象者いずれかと結ばれた際の、魔女エンドとしてはバッドエンドのお決まりのセリフだ。


 単なるバッドエンドとは違い、本来であれば魔女から弟子へのお祝いの為に、魔女はこの場に現れセリフを述べるのだけど。


 今のハーネット令嬢からすれば、それは逆ハーレム失敗かつ、魔女の力を取り上げられるという、絶望の宣言に他ならなかった。


 現れた時と同じように、それだけ言ってフッと姿を消してしまった魔女に、ハーネット令嬢は呆然としていた。


「ア、アドリアンさまぁ……。」

 一気に大勢から非難される声を浴びて、泣きそうになりながら、自分にひざまずいたままのアドリアン王子に助けを求める。


「──えっ!?」

 だけど、アドリアン王子がハーネット令嬢に差し出したのは、指輪なんかじゃなく、魔法禁止の冷たい拘束具だった。


「よくもこの私を操ってくれたな。」

「ア、アドリアン王子……?」

 今まで私に向けていた冷たい目線を、自分に向けられたハーネット令嬢がおののく。


 アドリアン王子は、好感度100%の攻略対象者が出た時点で──つまり逆ハーレムが失敗したことで、ハーネット令嬢が魔女の弟子ではなくなり、魅了から開放されたのだ。


 だから本当ならあんな魔法禁止の手枷なんてものはいらないんだけど、そこはあれ、見せしめというやつだ。


 彼女が犯罪者であるという事実を、大勢に知らしめるのが目的の、視覚的効果だ。

 ハーネット令嬢は言葉で何を言われるよりも、冷たい手枷に驚愕して震えていた。


「ハーネット令嬢、あなたの父親は先ほど王国軍に捕縛されました。人身売買に、違法薬物、裏賭博場に不当な領地の巻き上げ、よくもこれほどの罪を重ねられたものですね。あなたはもはや男爵令嬢ですらありません。」


 唯一ハーネット令嬢への好感度がフラットになった、ルイ・ランベール侯爵令息が、巻き紙を広げてハーネット令嬢に見せつけた。


「そしてあなたも、王族と上位貴族の心を魔法で操った罪により、国外追放が決定しました。二度と魔法が使えないように、拘束具をつけたまま放り出されることとなります。」


「そっ、そんな!こんな囚人みたいな手枷をつけられたまま、国外に放り出されなんてしたら、私、生きていかれないわ!」


「知りませんよ、死なないだけいいと思って下さい。ああ、世界一明るい刑務所と名高い修道院であれば、送って差し上げることは出来ますがね。どうなさいますか?」


 それを聞いたハーネット令嬢は、ペタリと地面に座り込んだ。ランベール侯爵令息のキッツイ態度って、本当に容赦ないわよねえ。

 私もされた立場だから怖いのはわかるわ。


 ハーネット令嬢が兵士たちに引きずられるようにして、パーティー会場から出て行くのを見送ると、私はアイシラ嬢たちとパチン!と手を合わせて、あら、はしたなかったですわね、というアイシラ嬢の言葉に笑った。


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