第34話 魅了の強制力
「アドリアン……!?なぜここに……。」
「離せと……言っている!!」
「きゃあっ!」
「きゃああああ!トリスタンさま!」
アドリアン王子がトリスタン王太子殿下を殴って、ベンチの上からふっ飛ばした。2階からハーネット令嬢の悲鳴が聞こえる。
トリスタン王太子殿下に抱えられていたせいで、膝の上に乗せられていた私も、一緒にベンチから転げ落ちてしまった。
「すまない、だいじょうぶか。」
「アドリアン……!」
アドリアン王子が近寄って、私を助け起こしてくれた。
「はい、だいじょうです。」
アドリアン王子が助けに来てくれた……!
けど、どうして?ハーネット令嬢に操られていたんじゃないの?もとに戻ったの!?
「良かった……。君が無事で。」
「えっ、あっ……。」
アドリアン王子が、ギュッと私を抱きしめてくれる。は、恥ずかしい……!
でも……、良かった……。
もとに戻ったんだ……!
私は思わずこらえていた涙が溢れてきて、アドリアン王子の肩に涙の染みを作った。
アドリアン王子の手が、私の髪を撫でてくれる。私は思わずアドリアン王子の背中に腕を回して、ギュッと抱きしめてしまった。
息が苦しくて胸がドキドキする。
「兄上、このことは、父上と母上にも報告させていただきますからね。聖女に危害を加えるのは、王族であっても重大な犯罪だ。」
アドリアン王子が、頬をおさえながら体を半分起き上がらせてこちらを睨む、トリスタン王太子殿下を睨み返しつつそう言った。
「トリスタンさまぁ、だいじょうぶですか?
痛そうですぅ……。」
甘ったるい声を出しながら、生徒会室から降りて来たハーネット令嬢が駆け寄った。
「ああ……。だいじょうぶだ。問題ない。」
殴られた頬をおさえながら、トリスタン王太子殿下が体を完全に起こした。
「アドリアンさまもひどいですぅ。
トリスタンさまに手をあげるなんて!
それに2階から飛び降りるなんて!
私、心配したんですよ?」
ハーネット令嬢が、アドリアン王子の体に手を触れた──次の瞬間、私の体はアドリアン王子によって地面に突き飛ばされた。
「触るな、汚らわしい。」
「ア、アドリアン?」
「馴れ馴れしく私の名を呼ぶな。
許可した覚えはない。」
それはあの日の冷たい目線だった。
なに?どうしちゃったの?
さっきまで優しいアドリアン王子だったのに。まさか、もとに戻ったんじゃないの?
するとアドリアン王子はハッとして、
「アデル……?私は何を……。」
再び心配そうに私を見つめてきた。
「アドリアンさまぁ、2階から落ちたショックで混乱されてるみたいですぅ。
一緒に保健室に行きましょう?」
「あ、ああ……。」
再びハーネット令嬢が触れると、アドリアン王子はハーネット令嬢のほうを向いた。
あれが、魅了の魔法なんだ。ハーネット令嬢は魔女の力を手に入れたんだ。
ハーネット令嬢はアドリアン王子の腕を取って、保健室に引っ張って行った。
あれはアドリアン王子がまだハーネット令嬢に冷たかった時から、取っていた行動だ。
ああして触れることで、アドリアン王子の心を操ることが出来るんだ。
アドリアン王子は、まだ完全に支配されきっていないんだ。触れ続けていないと、私を思い出してしまうくらいには。
私は王妃さまの言葉を思い出していた。
「精神魔法の力は強いものよ。それに抗えるだけの強い気持ちがなければ、抵抗するのはとても難しいものなの。」
たとえ一瞬でも、アドリアン王子は魅了の魔法の支配に抗ってみせた。
強い、とても強い心で、私のことを思ってくれているのだと、わかったから。
もう、ことが解決するまでは泣かないと決めた。アドリアン王子も戦ってくれてる。
急ごう、手遅れになる前に。
その夜、私は夢を見た。前世の夢を。
星姫2を周回プレイしている私。前世の私は星姫シリーズのヘビーユーザーだった。
その中でも、追加ディスクから登場したアドリアン王子のことが好きだった。
だけどハーレムエンドでしか、アドリアン王子と結ばれることは出来ない。
ハーレムエンドはとても難しくて、何度も何度も失敗しては、私は追加ディスクにだけ発生する、特殊なシステムを発見した。
魔女の館で1日4回以上好感度をあげる方法。特殊なやり方でしか発生しない、ハーレムエンドをやりやすくするやり方だ。
アドリアン王子がハーネット令嬢にプロポーズするのも、トリスタン王太子殿下が、アイシラ・イェールランド公爵令嬢に婚約破棄を告げるのも、どちらも3年生の卒業前の、全学年合同のパーティーの時だ。
これはシステム上変わらない。
私は次の日から、1日3回遭遇出来る魔女の館で、攻略対象者のヒロインに対する好感度を、すべて下げ続けた。
そして今、本来占いの館が出る筈のない、スペルミシア学園の面会室の中で、私は占いの館の魔女と対峙していた。
さあ、ここからが反撃よ!
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