第28話 魔女との戦い方

「ヒロインが占いの館で出来ることは3つ。

 ランダムに選択肢に出てくる、3人の攻略対象者の中から、誰か1人の、相手に対する好感度を、1%から5%引き上げること。


 これは出てきた攻略対象者の中から選ぶから、既に好感度が100%の人しか出なかった場合、それ以上上げることが出来ないの。


 それと、お目当ての攻略対象者がどこにいるのか占ってもらえること。

 特定の攻略対象者ルートに入りたい時は、その人に出会える場所を調べるのに便利ね。


 ──最後に祝福をかけてもらうこと。

 これをしてもらうと、自身のステータスを引き上げることが出来るの。


 ステータスがフルカンストすると、魔女に弟子入りして、自らが魔女になれる。

 彼女はこれを狙っているのよ。」


 魔女の祝福や好感度を上げる力は、魔女の素質のある人でないとかかりにくい。

 占いの館を経営して、素質のある人間を探すのが、魔女の目的だと王妃さまは言った。


「ハーネット令嬢は、王妃を諦めて魔女になろうとしてる……ってことでしょうか?」

 魔女になって何をしようというの?


「いいえ、むしろ王妃になる為よ。魔女になれば様々な魔法が使える。ゲーム本編では、宮廷魔道士になって終わりだけれど、ここは1、2、3のヒロインが同時にいる世界線。


 あなたがゲーム本編にない未来視を行えるように、ゲーム本編にない魔法を使おうとしているんだと思うわ。攻略対象者に使わないってだけで、使える魔法は色々とあるの。


 魔女ルートはね、魔物との戦闘シーンがあるのよ。そこでしか本来使わない魔法がね。

 魔物は倒すことも出来るし、魅了して使役することだって可能になるのよ。


 だからハーネット令嬢がその気になれば、あなたを魔法で攻撃することも可能になるし、恐らく魅了の魔法を使って、アドリアンの気持ちを変えさせることすら……ね。」


「そんな……!」


「精神魔法の力は強いものよ。それに抗えるだけの強い気持ちがなければ、抵抗するのはとても難しいものなの。


 アドリアンが急にあなたに冷たくなって、ハーネット令嬢に優しくしだしたのは、彼女が既に魔女になったか、それに近しい力を手にしたということだと思うの。


 ハーレムエンドだけは、魔女になるルートも同時に目指さないといけないものだから。

 ステータスを引き上げつつ、他の攻略対象者の好感度を一定に保つ必要があるから。


 それが終わるまでは、アドリアンの好感度を引き上げるわけにはいかなかったのよ。

 今上がっているのはそういうことね。」


「魔法の力に対抗するには、どうしたらいいんでしょうか!?

 私が未来を見ることが出来ても、魔法で動かされた心を変えることなんて……。」


「師匠である魔女を味方に付けるしかないでしょうね。魔女の弟子ルートのバッドエンドは、魔女から力を取り上げられてしまうの。

 魔女に相応しくないとしてね。」


「魔女を見つけて力を取り上げるよう、お願いすればいいということですか?」

「いいえ、力を取り上げられるには、決まった数値があるのよ。」


 王妃さまは紙にペンを走らせた。

 人形みたいな人の形を何人か描き、そのうち1人にハーネット令嬢と書いた。


「攻略対象者全員の好感度が70%を超えること。その上で自身のステータスがカンストしていること。これが魔女になる条件。


 アドリアンはそれに近しい数値か、それ以上の好感度をハーネット令嬢に対して持っていると推測されるわね。」

 それを聞いて胸が強く痛む。


「だけど、誰か1人でも好感度が100%になってしまうとドボン。

 だから今は、まだ誰も好感度が100%ではない状態なのでしょうね。


 もちろん魔女になるルートや、ハーレムエンドを選ばなければ、100%になっても、なんら問題はないわ。ステータスをカンストしなければ、いいだけの話だから。


 この状態のまま、アドリアンの数値を限界ギリギリまで上げようとしているのよ。

 プロポーズされるには、好感度が90%以上必要だから。


 これなら魔女ルートに進みつつ、アドリアンと結ばれるルートに進むことが出来る。

 ただしプロポーズされるのは、あくまでも3年生の卒業前のパーティー直前よ。


 ちなみに好感度90%以上が何人もいた場合は、プロポーズされるのは1人だけれど、事前に告白してきた男性の中から、好きな人を選んで受けることが出来るわ。」


 王妃さまが3人の人形の上に、それぞれ70%、70%、90%と書き、90%の人形の上にアドリアン王子と書いた。この数値がハーネット令嬢が狙っているもの。


「……あなたには辛いことでしょうけど、アドリアンのハーネット令嬢への好感度を、あなた自ら100%にするのよ。そうすればハーネット令嬢は自ずと自滅するわ。」


 王妃さまは、ハーネット令嬢と書いた人形に、大きくバッテンを引いた。


「占いの館の魔女の好感度アップは、下がることもあるけれど、その日の魔女の気分で要求される贈り物を魔女に差し出せば、好感度は上がる一方になるの。


 それはランダムなようで法則があるわ。

 魔女の館の現れる場所もね。恐らくハーネット令嬢はそれを把握しているんだわ。」


「私がハーネット令嬢を出し抜いて、魔女に好感度を上げてもらえばいいんですよね?

 だけどどうやってそれをしたら……。」


「そこでこれよ。」

 王妃さまが大きめのコンパクトのような、謎のアイテムを手渡してくれる。

「これは……?」


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