第10話 王子からの再度の呼び出し
だけど、本当に王族側から結婚を申し込まれたら、そういうわけにもいかない。
どうしよう……。
「……まあでも、夢が必ず当たるとも限らないものね。私が聖教会から聖女と言われただけじゃ足りないと、アドリアン王子も言っていたし。夢が当たらなければいいだけよ。」
聖女を聖女たらしめるもの。それは奇跡。それを目の前でおこすことが出来なければ、聖女として認められないのだと言う。
奇跡なんて簡単にはおこないから、奇跡と呼ぶのだと思うけれど、聖女さまの場合は必ずおこせるもの。奇跡の御業と呼ばれる、それぞれが持つ特殊能力のひとつなのだ。
私の場合は予知夢だから、実際に予知が実現するところを見せなくてはならない。
アドリアン王子は私が星読みの聖女であると、国に進言すると言った。
後からならいくらでも取り繕うことが出来るから、事前に報告の必要がある。
だからアドリアン王子は、報告した予知夢が現実におきるのを待っているのだ。
なぜそんな面倒なことをするのか。それは過去に聖教会の中の悪い人が、偽の聖女を連れて来て混乱させた過去があることから、聖教会に対する王家の信頼が落ちたらしい。
数値をはかる器具はごまかせるんだって。
だからあくまで数値は、高い魔力保持者の目安として使用するだけのもの。
数値をはかっただけでは信用せず、実際に奇跡をおこさせてはじめて聖女と認める。
そういう流れが出来たらしい。
それでも聖教会に連れて行くのは、聖教会が自分たちで聖女判定を出したいからに他ならない。権威主義のひとつよね。
過去のことがあるとはいえ、今も聖教会は各国に対し力を持っているから。王族としても、聖教会を無視は出来ない。だから顔を立てる為に判定させるというわけだ。
「夢?なんでございますか?アデルさま。」
私の髪の毛を洗ってくれながら、メイドのリナがたずねてくる。
「ううん、ちょっとね……。」
リナのシャンプーとヘッドマッサージが気持ちが良すぎて、ちょっとウトウトしながら考え事をしていたのが良くなかったみたい。
おもわず考えが口にでてしまっていた。
夢の話は親友のエミリア以外には話していないことだ。まあ、今回アドリアン王子と、ランベール侯爵令息にはバレたけど、あれは不可抗力というものだし。
それに、ただの子爵令嬢である私が、簡単に王族の婚約者になるなんてことはないだろう。いくらそのほうが、ハーネット令嬢の野望を阻止できるとは言っても。
だってポッと出の聖女が簡単に信用されないからこそ、夢が現実に起こると信用させようとしてるくらいだもの。
それに予知夢の中にも、必ず毎回起こるものと、そうでないものがある。
こうすればこうなるという、──ルート。
そう、まるで定められたルートが有るかのように、こうなった場合はこう、と、必ず発生するものと、そうでないものが。
トリスタン王太子がハーネット令嬢の手を取った場合、必ずイェールランド公爵令嬢が断罪されて国外追放になるように。
その逆もまたしかりで、アドリアン王子がハーネット令嬢の手を取る場合は、イェールランド公爵令嬢の断罪は発生しない。
また、どちらの手を取る場合でも、共通して発生する出来事というのもあるけれど、この場合はそうではないのよね。
ホップホッパーの事件が、どちらのルートであれば必ず発生するものであるのか。
そこまでは私にはわからないのだ。
なぜなら単独で見た夢のひとつだから。
だからハーネット令嬢の狙いがアドリアン王子であった場合に、ホップホッパーの事件が起こるのかは、その日になるまで謎だ。
考えるだけ無駄ね。せっかく楽しいところに連れて行ってくれたんだもの。楽しい気持ちで1日を終えよう。そう思った私は何も考えずに、ぐっすりと寝たのだった。
2日間の休みを終えて、スペルミシア学園に行く頃には、私はアドリアン王子と話した内容など、すっかり忘れてしまっていた。
そしてその昼休み。
いつものように、エミリアと裏庭でランチを食べようと、教室で準備をしていると、ランベール侯爵令息が、苦虫を噛み潰したような表情で教室に入って来る。
ランベール侯爵令息も、見た目だけなら格好いい人なので、教室の女生徒たちが、どなたにご用事なのかしら?とザワザワしながらランベール侯爵令息を見つめている。
「ラーバント令嬢。」
「はい?」
「放課後、生徒会室に来るように。」
「は、はあ……。」
それだけ言ってランベール侯爵令息が帰って行く。エミリアが、だいじょうぶなの?先週に引き続きのお呼び出しじゃない!と心配してくれたのに対し、たぶん、と答える私。
おそらく夢の結果について話し合うつもりなのだろう。面倒くさいなあ……と思いつつも、生徒会長かつ王族からの呼び出しだ。
当然応じないわけにはいかなかった。
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