第37話
~西園寺side~
「では、西園寺会長……頼みましたよ」
応接室の扉を閉める直前に『修羅』の声が聞こえた。
あの後『修羅』と今後の予定について話合い、俺は用があるのでそのまま解散となった。
「ああ…………任せておけ」
俺は1人ごとのように呟きその場を後にした。
そうして普段自分が使っている部屋に辿り着く。
どすんっと席を触ると何処か安心した自分がいた。
その時自分の手が震えているのに気づいた。
「………ハッハッハ。俺も老いたな。
いや、『修羅』が強すぎるのか?」
あの時、あの魔力を感じとり本能的に勝てないと悟った。全盛期の自分ならもしかしたら追い詰める事はできるかもしれないがそれでも倒す いや、
——殺すことはできないだろう。
今の俺では『Arrogance』のように左腕は持っていけるとは思うが、いけてそこまでだろう。
それくらい今では俺とあいつの差はある。
「はぁ、さて、会議の準備をするか」
一番やりたくない会議だが、今回は本腰を要らなければならんな……
◇◆◇
そして数日後、
場所はいつものダンジョン協会の最高階に位置するダンジョン戦略室に全員が集められた。
日本の総理大臣とダンジョン協会の最高幹部、ダンジョンの専門家もいる重々しい会議が始まろうとしていた。
(今も昔もこの空気は好きではないな)
と思いながらも今回の案を進めていく。
「ではこれより、ダンジョンの下層突破について議論していきます。
まずは先ほど配られた資料を見ていただきましょう。今回の議題は日本のSランク探索者『修羅』が単独で下層を突破することについてです。
資料をみていただけたらわかる通り◯◯大学に入ってから『修羅』は僅か3年でSランクになった異例中の異例。
そしてSランク探索者の中でも群を抜いた強さがあり、そこに書いてあるモンスターの名前をみていただけたらわかる通り、これまで『修羅』が倒してきたAランクモンスター、
Sランクモンスターの数です。
そろそろ討伐したA、Sランクモンスターが千に届く勢い、
これ程の実績は、下層を突破したアメリカ、中国、ドイツの探索者と引けを取らないでしょう。
今回この『修羅』が単独で下層を突破することに賛成の方は手をあげてください」
スッと手を上げた人間はおよそ三分の一。
今回の議題は過半数以上賛成がないと成立しないため今のままでは『修羅』との約束がパーになってしまう。
「…………ありがとうございます。手を下ろして頂いて結構です。では、反対の方々に意見を聞いてみたいと思います。何かある人はいますか?」
そういうと、手が何人かピシ!っと上がった。
「発言よろしいでしょか。西園寺会長」
「ええ、構いませんよ。金丸大臣」
金丸信康。アメリカの▲▲大学を出て後、
世界的に有名なGaagoleに入社して15年ほどで会長にまでに成り上がり、退職したあと日本の政治に現れたエリート中のエリートだ。
「私はこの議案については反対です。
理由は……成功できる可能性も分からないのに1人で、単独で日本の英雄を行かせるのははっきりいって論外です。
あまりにもリスクが高すぎる。
第一、そんな事をするぐらいならまだ下層にでモンスターをちょこちょこ倒してもらって素材を協会に売ってくれる方が我々にも、
メリットは十分にあります」
「私も同じ意見ですね。何せ下層ではモンスターの素材でも数百億はくだらない物も出てきている。それを『修羅』が我々を通してオークションに出せば日本としても大きなメリットがあります」
「なるほど、ありがとうございます。では、他の方も同じような意見ですか?」
俺がそういうと反対派の人たちは全員コクリと頷いた。
おそらく、賛成派の意見はここにいる全員がわかっているだろう。それで反対派がいるわけだから、余程行かせたくないんだな……。
日本の英雄を失うかもしれないのは分かるが止まり続けてたら日本が大国に踏み潰されるぞ……。
「では、賛成派の人たちは案はありますか?」
俺がそう言うと賛成派は全員黙ってしまった。
会議が始まるのが急すぎたから対策もクソもないよな。申し訳ない。
だが、一応俺は対策はしてきた。
この方法ならば、各国の代表にも証拠を見せることができるし、『修羅』に何かあった時に他のSランク探索者が助けにきてくれるだろう。
「では、私から一つ案を出してもよろしいでしょうか?」
「ほう?西園寺会長、何か案があると?」
そう言ってきたのは金丸だ。
「ええ、もちろんあります。それは、
『ダンジョン配信』です」
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