ハンバーガーと人生と

Dr-susie

第1話

仕事を終えた帰り道、ふとハンバーガー店の看板が目に入る。

 年を重ね健康志向が徐々に色濃くなってくるとともに、ハンバーガーを食べる回数も減ってきた。ただ、「野菜で包むタイプのものが販売されてるよ」との情報を先日聞き、薄まっていた罪悪感を振り切り入店した。

 「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?ご注文はいかがされますか?」久しぶりの入店に戸惑う気持ちを整える暇もなく矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

 焦ってメニューをみるとお目当てのものがない。(……時期を逃したか?いやこの店舗で取り扱っていないのか?)そんな思案に暮れている暇はない。とはいえ、店員さんに聞くのは、まるでそれ目当てにやってきた人と思われそうで恥ずかしい。(……実際そうなのだが)

すると、「野菜」「ソイ」という文字が目に入った。きっとこれは健康志向に沿ったバーガーなのだろうと、反射的にそれを注文しL字型をした店内の一番奥の席に座して待つ。

来るまでの間、その野菜ソイバーガー(仮)というものを調べてみる。

どうやら大豆でできたパティをたっぷりの野菜と共にパンで挟んだバーガーらしい。まぁそのままだ。

 ところでパティと聞くと一瞬外側なのか内側なのかわからなくなる。外側はバンズ、内側はパティ。バンズはおそらく複数形なので外側と覚え直すことにしよう。なんてことを考えていると商品が運ばれてくる。久しぶりのハンバーガーにすぐにかぶりつく。

 味はそれなりに美味しかった、とはいっても豆の味がたまらん等といった話ではなく、単純に揚げたパティの外側の部分(……内側のパティの外側とは少しややこしくはなるが)ここの味付けが美味しい。 とあるハンバーガー店のチキンナゲットもそうだ、「がわ」の部分が美味しい。あのジャンキーな味が私は大好きだ。

 そもそも大豆と野菜のヘルシーなハンバーガーなのにジャンキーな揚げた油の味、まぁ矛盾している気もするが、清濁混合、これが人生だ。

 こんなことを考えながら食べ終わり、コーヒーとともに暫し至福の時を過ごす。

 そろそろ行こうかと腰を上げようとした時に1つの問題がのしかかる。


 ……トレイを持っていくべきか、置いておくべきか


 しまった、さっき入ってくるときに返却専用のスペースがあったかどうか確認しておけば良かった。

 しまった、さっき出ていったお姉さんがどうするのか見ておけばよかった。

 しばらく考える。もちろん考えたところで結論は出ない。そして思い至った。

 どっちにしろ持っていく必要があるのだから、持っていけばいいじゃないか。

 誰かが指を指して「あの人トレイなんか持っていっている」なんて笑うわけでもない。

 トレイを持って出口に向かう。すると店員さんが声をかけトレイを受け取ってくれた。

 何でこんな単純なことに悩んだのだろう。今度からはノータイム、何も迷わず持っていくだろう。

 そう思うと、今の僕と、さっき野菜で包むバーガーがなくて悲しんだ末に野菜ソイバーガー(仮)を頼んでいた僕とは大きく違う。高々30分ほどしか経っていないのに。

 さっきの僕に言ってやりたい。

 「そんなつまらない事で悩むくらいなら、持っていけばいいじゃない。」


 これはなにもハンバーガー店に限った話ではない。

 気付きを得たか得ないかで事象に対する反応は大きく変わる。そして得ていない人は、得たその瞬間から進化する。

 まるでゲームのように、ついさっきまで倒すのに苦労していたモンスターを一発で倒せるようになる。


 「何でそんなことがわからないのか?」と蔑む人がいる

 これは相手の進化、レベルアップの可能性を潰しているのではないか?自分が初めから出来たわけではない事を忘れているのではないか?

 誰しも始めはレベル1から始まる。自身がベテランと呼ばれる年齢に達した今こそ思い直さねばならない。


 久しぶりのハンバーガー店を後にしたその背中は少し大きくなっていた。

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