第5話 *僕のスレッド

「、、存在意義」

「何?」

「いいえ。、、なんでもないですよ。」


ねえ、貴方が今僕と一緒にいる理由って何?


一緒にいて楽しい?それとも、特に理由なんてない?


僕が貴方に与えていなきゃいけないものって、何?


教えてよ。




ダンッダンッキュキュッ

体育の授業は、バスケットボールになったみたい。

バドミントンがよかったのに。


バドミントンは、個人競技だからいい。

でもバスケは、動かないと、そこにいる意味がない。シュートを決めないと、どう思われるかわからない。だから、嫌い。


でも、他の人は、シュートが決まらなくても、楽しそうにしている。

他の人にぶつかっても、ちょっと謝るだけで済む。


だけど、僕はきっと許されない。どうしてか、そう思う。


そこにいるための、“存在意義“。

バスケをするなら、シュートを決めること。

本屋に行くなら、、、本を買うこと?

友達といる時は。


僕はね、こうやって、何をするにも、どこに行くにも存在意義を考えてしまうから、とっても息苦しくて、辛かった。


だけど、貴方が僕を見つけてくれて、少し楽になっていたんだよ。


2つ隣のクラスの、狂った奴。確か、


「あいつは頭がいいけど、関わったらダメだ。」

「怖い。殺されるかも。」

「血も涙もない女」


とか言われていた。でも正直なところ、あまり知らなかった。だって、関わりがないから。


「私の恋人になって。でないと、貴方の大切な人を殺していくわ。」


突然何もない部屋に連れて行かれて、そう言われた。


確かに、狂っていると思った。


「そこにいてくれるだけでいい」と、貴方は言った。


最初は、嬉しかった。存在意義を見失っていた僕に、はっきりと、「そこにいること」が存在意義だと、言ってくれたから。


そして何より、貴方は僕のことが好きだった。


「大好きだよ」

「僕もですよ」


貴方は僕を脅すけれど、そんなことしなくても、僕は存在意義を与えてくれる貴方に服従していた。


だけど、何をしても、何を言っても、貴方は僕にさほど興味がないのだと、わかってきた。


正確には、僕の容姿にしか興味がないのだと。


確かに僕のことが好き。だけど、僕の顔と身体が好きなだけ。そこに僕の内面はいらない。


まるで操り人形だ。


そんな考えに至った時、僕の中で何かが切れた。


僕は、認めてもらいたかった。僕の性格を。思考を。全てを。貴方に。


なのに貴方は、僕を、“存在意義“という糸で操っていただけ。


存在意義なんか、糸みたいにすぐ切れてしまう小さなものだと、悟った。


今まで僕がすがってきたものは、何だったのだろう。



貴方の目の前で、死んでやろう。


「僕は、貴方の操り人形ではないから。」


そしたら、貴方は何か変わるだろうか。


「貴方に操られるのは、もううんざりだっていっているんだよ。」


これは、、嘘かもしれない。本当なら、気づかないまま、貴方に操られていたかった。


「僕の大切な人を殺す?そんな脅しで、従っていた自分に嫌気がさしたんだ。」


これは嘘。僕に大切な人なんかいない。でも、自分に嫌気がさしたのは本当だよ。


「もう、いやなんだ。」


存在意義という糸に操られる自分が。


さよなら。



最期に激痛の中で、一瞬見えた貴方の少し、悲しそうな顔。


きっと、僕の身体が傷ついたことが悲しいだけなんだろう?


だけど、僕が死んだことで、君は人間の内面を見ることができるようになるのかな。


そうなって、欲しいな。

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独の短編集 黒糖飴 @velociraptor

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