作家になるという呪縛

一七

第1話

 最近、小説を書くことが事務的になっている。そんな考えが頭の中から離れない。

 そもそもなぜ私は作家を目指すようになったのか。振り返ってみることにする。

 学生の頃の私はいわゆる陰キャ。最低限のケアをした黒髪にくすんだすっぴん。スカートは膝下まであるし、有線のイヤホンは手放せないし。それも百均のやつ。趣味はアニメ鑑賞。読書。たまに行くアニメイト。今期見るアニメの放送局と放送日時をメモ帳にまとめて、最終回が近づくたびに季節の終わりを感じるキモオタだった。ここまで聞いて想像は付くだろう。学校では友達が少ない、人権がない、少しでも目立った行動をすればスクールカースト上位の者たちに笑われる。金魚の糞扱い。それなのに自分は特別。自己中心的な陽キャは人としてなっていない。そんな痛い考えを持っていた。

 そんな私には夢があった。作家になること。自分の作品をアニメ化させて、世の陰キャたちの心の支えになること。

 専門学校はライトノベルの書けるところに行った。優秀な方だったと思う。何回も公募に出した。業界の人とも顔を合わせた。でも、なんの成果を残す事もなく卒業した。

 そして、たった二年間のほのかに夢に近づいていた時間を自慢するかのように「私、作家目指してるんです!」と社会に出て周りの人に言いふらし、言いふらしただけ。ただそれだけで、今日は頭が痛いから、配信期間が明日までのドラマを見ないといけないから、職場の書類を作らないといけないから。そんな言い訳を並べてもう二年が過ぎた。この二年間にやってきたことは、過去作品のネット投稿と、完成していないプロット。数ページだけ書いた短編小説。正直もう執筆なんてどうでもよくなっている。趣味としてこれから何作か書いていきたいな、とだけ。だって、大人になった今の私は自分に自信が持てているから。あの頃の自分とは違う。髪はサラサラだしメイクも覚えたし、ファッションにだって気を使っている。先輩と良好な関係も築けているし、仲のいい男の子だっている。もう、毎週深夜に放送していたアニメに救いを求めていた自分はどこにもいないのだ。ただ、それでも作家になりたい。だって、このままだと『夢が叶わなかった可哀そうな人』として認識されてしまうから。だから今日もこうしてエッセイを投稿している。作家にならないといけない。そんな呪いが私の周りをまとわりついて。

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