回廊蝶々


 蝶が舞ったのだと思ったがそうではなかった

 吹き抜けになっている回廊の七階から人が落ち    

 たのだ

 真紅のエレベーター

 扉に描かれた白い椿

 白いワンピースのエレベーターガールが微笑む

 お次はどちらへ参りましょう

 ガラスの向こうのフルーツパーラーはいまはもう 

 遠い世界のよう

 時計にスーツ、帽子に鞄

 私はたくさんの物を買った

 あなたの心を繋ぎ止めておくために

 空っぽになった私をお菓子の包み紙みたいに

 あなたは簡単に手放した

 もう私には何もない

 それなら私の体ごと差し上げましょう

 あれは私の周りにまとわりついていた厄介な女だ 

 った

 まるで真っ黒な揚羽蝶が舞うように、女は宙を舞

 った

 そのとき初めて女を、美しいと思った

 袖を引かれて振り返る

 恋人が顔をひそめて私を見ている

 エレベーターガールが言う

 お次はどちらに参りましょう

 長い回廊の先には楽園が待っている

 ここには美しい物しか存在しない

 時間の螺子を巻く

 紅茶にそっと薬を混ぜる

 どこまでいっても屋上へは出られない

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