聖グラップル学園~ブラコンヤンキー格闘家と無礼メイド~

美作美琴

第1話 嵐を呼ぶ転校生


 日本のとある都市にある八木はちき市にある巨大な学び舎、セントグラップル学園。


 登校時間なので当然生徒たちが続々と登校してくる、どの生徒も鋭い眼光、鍛え上げられた筋骨隆々の身体、さながら格闘家やレスラーの様な風体だ。

 だが校門の鉄扉は固く閉じられている。

 現在朝八時二十分、始業開始まで十分前であるにもかかわらずだ。

 生徒たちは校門の前で立ち止まり殺意にもにた闘志を一様に滾らせている。

 校門を挟み校舎をぐるりと囲うそびえ立つ外壁の上にはまるで刑務所や軍施設などにある監視塔の様な設備がある。

 

『これより早朝恒例登校バトルロイヤルを行う!! 生徒は開始合図まで備えよ!!』


 その監視塔のスピーカーから野太い男の声でこんなアナウンスが発せられた。

 ほぼ同時に校門が重厚な金属音を響かせながら徐に開いていく。

 しかし生徒たちはまだ学園の敷地に入ろうとしない、それどころか入り口に添ってお行儀よく一列に並び始めたのだ。


『毎日言っている事だがフライングは単位がマイナス1ポイントだ注意しろよ!!』


 どうやら登校バトルロイヤルとは授業の一環らしい。


『位置について!! 用意……!!』


 腰を落としスタンディングスタートの構えを取る生徒たち。


『始めぃ!!』


 ワアアアアアアアアアアアアアッ……。


 叫び声を上げ次々と校庭に踊り込む生徒たち。

 そして誰彼構わず殴るは蹴るはの大乱闘が始まった。


「どりぁああああああっ!!」


 巨体に物を言わせて周りの生徒たちを丸太の様な太い両腕で薙ぎ払う生徒。


岩部樽蔵いわべたるぞう、10ポイント獲得……」


 その様子を監視塔内から視認しタブレットに記入する数人の男たち、彼らはこの聖グラップル学園の教員だ。

 登校バトルロイヤルは校門から校舎の昇降口に辿り着くまでに倒した生徒の数がそのまま授業の単位になるのである。

 僅か十分間であるが生徒たちにとっては授業時間外で単位を稼げるまさに稼ぎ時だ、授業以上にはりきる者も多い。


「……へぇ、噂通りのイカレた学園じゃねぇか、おもしれぇ……」


 校門の外、ニタニタと口角を吊り上げ両手の指をボキボキと鳴らす一人の生徒が居た。


「それじゃあ早速俺もひと暴れさせてもらおうじゃねぇか!!」


 今どき時代錯誤のポンパドール(リーゼント)の髪を揺らしながら颯爽と駆け抜ける生徒。


「おらぁ!! 邪魔だ!!」


 その勢いのままドロップキックを放ち目の前で互いに争っていた生徒二人を派手に吹き飛ばす。


「うん? あんな生徒、我が校に居ましたかな?」


 一人の教員が首を傾げる。


「ほう、あれは今日からここに転校してきた城ヶ崎大河じょうがさきたいがですな」


 上半身が極端に発達した筋骨隆々の大柄な教員が答える。

 角ばった顎の輪郭、まるで岩の様な風体で着ているスーツが胸元ではち切れそうだ。


「そうでしたか、では早速城ヶ崎くんの成績表も作らなければならないですね鬼瓦先生」


「私が担当しましょう、久し振りに骨のありそうな生徒だ」


 岩の様な男、鬼瓦は僅かに口元をほころばせる。


「何だ何だ?」


「誰だアイツ? 見ねぇ顔だが……


 校庭内がざわめき始める、岩部樽蔵以外に次々と相手をなぎ倒す見慣れぬ生徒が現れたからだ。


「何だ何だ手応えがねぇな!! この学園にはこんなの腰抜けしか居ねぇのか!?」


 城ヶ崎大河の周囲は大勢の生徒が倒れ死屍累々の壮絶な有様になっていた。


「……お前……何者だ?」


 期せずして大河は樽蔵の前に到達していたのだ、普段は怖いものなしの樽蔵がその様に僅かな戦慄を覚える。


「おお、いい身体してるじゃねぇか大将!! あんたは俺を愉しませてくれるのかい!?」


「小僧!! 調子に乗るなよ!!」


 不敵な笑みを浮かべる大河の態度で我に返った樽蔵が自慢の大きな右拳を大河に向けて放った。

 その拳は見事大河の顔面を捉える、しかし大河は靴が地面を抉って後退した以外は微動だにしていない、樽蔵の拳を何と右掌で軽く受け止めていたのだ。


「なっ……」


 信じられないといった引きつった表情の樽蔵。


「中々の威力だが物足りねぇな、見せてやるぜパンチってのはな、こう打つんだ!!」


 樽蔵の拳をあたかも軽そうに押し返すとそのまま脇を閉めて右拳を握ると深く腰を落とす大河。


「大河流拳法、弐の拳……撃竜昇破ーーーー!!」


 低い体勢から一気に樽蔵の懐へと瞬間移動し更に上空へと跳び上がるジャンピングアッパーが樽蔵の顎に炸裂する。


「ゴッハアアアアアアアアアーーー!!」


 衝撃波が顎から頭頂部まで突き抜ける。

 他の生徒の二倍はありそうな背丈、三百キログラム以上は余裕でありそうは樽蔵の巨体が遥か上空へと舞い上がった。

 そしてスローモーションでも見ているかのように樽蔵が地面に落下、轟音と大量の砂埃と共に校庭に大穴を開けた。

 他の生徒たちは自分の戦いを忘れその光景に釘付けになる。


「……有り得ない、あの登校バトルロイヤルの帝王、岩部樽蔵を倒すなんて……」


「本当に何者なんだアイツは……」


 周囲が静寂に包まれる。

 全員の視線の先には樽蔵を倒したあの男、城ヶ崎大河がいた。

 大河は悠々と校舎の昇降口に足を踏み入れる。


『時間だ!! そこまで!!』


 スピーカーから鬼瓦の怒声が響く。

 時間は八時三十分、終了の時間だ。

 生徒たちは一気に力が抜け、中には疲労とダメージにより地面にへたり込む者もいた。


「……竜ヶ崎大河、50ポイント獲得……新記録じゃないか……」


 鬼瓦は手元のタブレットを見つめ手が震える。


「竜ヶ崎大河……奴ならこの腐りきった聖グラップル学園の内情を変えてくれるやもしれん……」


「ひぃっ!?」


 鬼瓦を見た教員の一人が悲鳴を上げる。

 何故ならば鬼瓦の顔面はこれまでの人生で一度たりとも見せた事は無いであろう満面の笑みを浮かべていたからだ。


「………」


 校舎の陰、終始登校バトルロイヤルの様子を見ていた黒い影があった。

 

「……大河流拳法……」


 影はぼそりと呟くと踵を返しその場を去る、女の声だ。

 その際にふわりとフリルの付いた衣服が翻ったのであった。

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